『悪役令嬢に仕立て上げられたけど、猫カフェを開いたら辺境伯が通ってきます』

夢窓(ゆめまど)

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筋肉兄と、子供達 辺境に立つ!

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『猫と筋肉と子どもたち』

~カフェ・シャルル、最強の日常~

 

辺境の小さなカフェ――シャルル。
今日も朝からにぎやかだ。

いつもより子どもが多いのは、
「猫じゃらしバトルイベント」があるからだった。

 

「本日の特別対決。村の子どもたち、対、筋肉のお兄さんたち。勝った人には、“猫の膝上10分権”と、“パン屋の焼きたてパン券”です」

ソフィアの声に、カフェの中がどっと沸いた。

 

子どもたちは猫じゃらしを握りしめ、やる気満々。
その前に立ちはだかるのは、筋肉兄ズ――ロイドとアラン。

ただの遊びでは終わらない。今日も彼らは本気だった。

 

ロイド編

「おんぶ、おんぶ!」とノアが背中によじ登る。
ロイドは無言で受け止め、軽々と持ち上げた。

そのまま猫のシャルルまで背中に乗り、
気がつけば「子ども+猫」の三段乗りが完成していた。

 

「猫はな……芯がぶれぬ者の上でしか眠らん」

ロイドがぽつりと呟いたその言葉に、
周囲の子どもたちが一斉に頷く。

「かっこいい……」
「メモしよ……」

今日もロイドは、静かに“尊敬”を集めていた。

 

アラン編

一方、アランの前には質問攻めの子どもたちが群がっていた。

「猫語ってあるの?」
「肉球って、押していいの?」
「撫でる時、力加減は?」

 

アランは真剣な顔で答える。

「手はね、冷たすぎず、熱すぎず。
愛情をこめて、だいたい体温と同じくらい。三十八度前後が理想だ」

「三十八度ってなに!?」

「むずかしいー!」

子どもたちは笑いながらも、
その手つきを真似しようと一生懸命だった。

 

猫じゃらしバトルのはずが、
いつの間にか“猫の扱い講座”になっていたが、
それもまた、今日のカフェにはぴったりだった。

 

シャルルの様子

主役の白猫・シャルルは、最初は騒がしさに少し引いていた。
窓辺の棚の上から、じっと様子をうかがう。

 

けれど、ロイドの膝の上にふらりと移動すると、
落ち着いたように丸まり、静かに目を閉じる。

次はノアの肩に乗り、ふわふわの髪の上で寝ころぶ。

そして最後は、アランの“撫でながら講義する手”の上で、
そのまま眠ってしまった。

 

「公平な猫だねえ」
誰かがそうつぶやいて、場が笑いに包まれた。

 

パン屋のおばちゃん

その様子を見ていた、カフェ近くのパン屋のおばちゃんが、
店の扉から顔を出して言った。

「ちょっとちょっと、今日は集まりすぎじゃないの?
この調子じゃ、“筋肉と猫の癒しの館”だねぇ」

 

ソフィアが笑いながら頷く。

「ほんとですね。
……でも、子どもたちが笑って、猫がくつろいで、
紅茶とパンの香りがしてるなら、それが一番です」

 

その日の午後、イネが書いた“子ども新聞”の見出しが、
入口の掲示板に貼られた。

 

『速報:猫カフェ・シャルル、本日も満員!
筋肉の椅子、空きなし!ご利用は計画的に!』

 

カフェの中は、また笑い声に包まれた。

 

ソフィアは、猫とパンと紅茶のあるこの日常を、
とても気に入っていた。



『気づきの一歩』

ふたりの兄は、バルツアーの屋敷に着いて間もなく、
アランは自分が落ち着かないことに気づいていた。

戦場で傷を負い、ようやく帰還した身。
だが、身体以上に、気が張っていたのは“心”の方だった。

 

「ここでお待ちください」と言われ、通された客間。

ふと扉が開いて、見覚えのある女性が控えめに立っていた。

「失礼します、アラン様。マリーナと申します」

彼女は深く頭を下げた。
その姿に、アランは一瞬言葉を失った。

こんなに小柄で、こんなに細い肩で――
よく妹を支えてくれたものだ。

 

「……あなたが、妹を世話してくれたと聞きました」

アランの声は思いのほか低かった。
戦場帰りの男の声が、どこか迷いを含んでいる。

「ありがとう。本当に。
 あの状態から、ソフィアを……連れ出してくれて」

 

マリーナは、少し驚いたように顔を上げた。

「私は、ただ……あんな場所に、
令嬢がいるべきじゃないと、思っただけで」

 

アランはゆっくり首を振る。

「それでも、誰も動けなかったんだ。
 俺も、兄も……王家に逆らえば何が起きるかと、
 いろんな理屈を並べて、結局、妹に何もしてやれなかった」

 

マリーナは黙って、彼の言葉を聞いていた。
声を遮らず、ただ聞く。
その静かな在り方が、アランにはとても新鮮だった。

 

「……だからこそ、礼を言いたかった。
 あなたが、ソフィアを守ってくれたことに。
 誰よりも……ありがとう」

そう言ったあと、自分でも驚くほど自然に、
彼女の目をまっすぐに見ていた。

 

マリーナは小さく笑った。

「ソフィア様、頑固ですよね。
 どんなに疲れていても、“私は平気”って顔するから」

アランも笑った。

「昔からだ。兄貴に甘えるのも、ずっと遠慮がちで。
 俺たち、どれだけ不器用だったんだろうな」

 

その言葉に、マリーナの表情が少しやわらいだ。
陽の光がカーテン越しに差し込む。
穏やかな沈黙が、ふたりを包んだ。

 

――そしてアランは気づいた。

この空気が心地いいことに。
この女性の声が、耳に馴染むことに。
この笑顔が、ふとした安心をくれることに。

 

まだ「恋」なんて言葉にするには、早すぎる。
でも、「心が動いた」ことだけは、確かだった。

 

彼はふと口にした。

「マリーナ。……あなたは、すごいな」

「え?」

「……いや。なんでもない」

不器用なその言葉の裏に、
アラン自身もまだ気づかぬ“始まり”があった。

 

彼の視線は、その日から、彼女を追うようになっていく――。


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