『悪役令嬢に仕立て上げられたけど、猫カフェを開いたら辺境伯が通ってきます』

夢窓(ゆめまど)

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プロポーズ成功しましたが、まだ照れてます

新居は静かだ。

マリーナが少し照れながら「おはようございます」と言ってくれる朝。
お弁当を持たせてくれる手が、ほんの少し震えている。

彼女もきっと、緊張している。
でも――それを隠そうとして、明るく振る舞ってくれるのが、わかる。

だから、
俺もぎこちなくなる。



洗濯物を干しながら、同じ洗濯バサミを取ろうとして指が触れる。
お互い「す、すみません!」と赤くなって、
シャルルがタンスの上で「にゃぁ~(何やってんの)」と鳴いた。

『アラン隊長、早朝の約束』

まだ日が昇る前、
バルツアーの邸の中庭に、規律正しく整列する一団がいた。

アランの部下たち――
戦地をくぐり抜けた精鋭たちである。

彼らが訓練を行えるのは、ここ、
辺境伯・バルツアー邸の広く整った練習場しかなかった。

 

アランは、部下の前に立ち、いつものように低く、しかし誇り高い声で言う。

「今日も、きっちり叩き込むぞ。
バルツアー閣下の屋敷を借りてる以上、礼を形で示すのが俺たちの務めだ」

 

その言葉に、兵たちが一斉に応える。

「ハッ!」

 

バルツアーは黙ってその様子を見守っていた。
口数は少ないが、アランの指導には常に一目置いている。

 

朝の空気を切るような号令と剣戟の音。

だが、そこにはただの筋力訓練ではない、
“誠実さ”と“責任”が積み重ねられていた。

 

訓練の合間、バルツアーがアランにひと言だけ声をかけた。

「……部下が、いい顔をしているな」

アランは息を整えながら、小さく笑う。

「俺には、もう背中を預けられる人がいますから。
……こいつらにも、そう思ってもらえるようにならないと」

 

バルツアーが一瞬、目を細めた。

「……マリーナ嬢か」

「えっ、バレてました?」

「明らかだった」

 

アランが少し照れながらも、胸を張った時、
部下のひとりが整列しながら小声で言った。

「隊長、今日はちょっと……甘い空気が出てます」

「うるさいぞ、集中しろ! 走ってこい!」

「了解です、隊長ぉおおおっ!!」

 

――その日もまた、
バルツアー邸の朝は、熱く、そしてどこか温かい空気に包まれていた。



夜。
マリーナは、キッチンで明日のパンをこねていた。
エプロン姿が、とてもよく似合っている。

窓の外では月が昇っていて、
ふと、アランは、思った。



(……結婚式をしたら、
 あの人は、白いドレスを、俺のために着てくれるのだろうか)

(似合うだろうな。
 でも――そんなこと、本人には恥ずかしくて言えない)



マリーナがこちらに気づいて、微笑んだ。

「アラン様。明日、朝練にご一緒しても?」

「……ああ。行こう」



(たぶん、ずっと一緒にいたいという気持ちは、
 伝えずとも、日々の中に染み込んでいくんだ)



キティが、いつのまにか足元に来て、すとんと寝転がる。
まるで「はい、今日も進展ゼロ」と言いたげに。


「……ウェディングドレス、ですか?」

パン生地をこねながら、マリーナがぽつりと呟いた。

「着てみたかったな、って。
 式はしないって聞いてましたし……もう、いいんですけどね?」

アラン兄、隣でパンこねてた手が止まった。
全身がガチガチに硬直するのが、目に見えてわかる。



マリーナは気づいていない。
でもキティは気づいて、アランの足をちょいっと引っかいた。

(訳:今のうちに返事しろニャ)

でも、アラン兄は言えない。
口が開きかけて、閉じる。
開きかけて、閉じる。
まるで焼きかけのクッキーみたいな挙動。



そして翌日。
カフェ・シャルルにて、子どもたちが言い出した。

「新婚旅行、行かないの?」
「どっかで“結婚しました!”ってやんなきゃダメじゃん!」

「え、式?あれでしょ、白いドレス!花!音楽!指輪交換!」



アラン兄、紅茶を飲みながら吹いた。
マリーナ、ぽかんとした顔。
ソフィア、爆笑しながら「やっぱりバレたわね」と囁く。



そしてその日の夜、
ソフィアがそっとアラン兄に告げた。

「……ちなみに、マリーナは男爵家の令嬢よ。
 “形式的な婚礼”は、相手の家の格を守るために必要なの。
 本当は、“あなたから申し出て”挙げてあげるのが理想よ?」



アラン兄、硬直。

「……し、式……!? し、式ってあの……白いやつ……!?」



シャルル、真顔で鳴いた。

「にゃあ(そう、白いやつニャ)」



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