『悪役令嬢に仕立て上げられたけど、猫カフェを開いたら辺境伯が通ってきます』

夢窓(ゆめまど)

文字の大きさ
13 / 23

プロポーズ成功しましたが、まだ照れてます

しおりを挟む
新居は静かだ。

マリーナが少し照れながら「おはようございます」と言ってくれる朝。
お弁当を持たせてくれる手が、ほんの少し震えている。

彼女もきっと、緊張している。
でも――それを隠そうとして、明るく振る舞ってくれるのが、わかる。

だから、
俺もぎこちなくなる。



洗濯物を干しながら、同じ洗濯バサミを取ろうとして指が触れる。
お互い「す、すみません!」と赤くなって、
シャルルがタンスの上で「にゃぁ~(何やってんの)」と鳴いた。

『アラン隊長、早朝の約束』

まだ日が昇る前、
バルツアーの邸の中庭に、規律正しく整列する一団がいた。

アランの部下たち――
戦地をくぐり抜けた精鋭たちである。

彼らが訓練を行えるのは、ここ、
辺境伯・バルツアー邸の広く整った練習場しかなかった。

 

アランは、部下の前に立ち、いつものように低く、しかし誇り高い声で言う。

「今日も、きっちり叩き込むぞ。
バルツアー閣下の屋敷を借りてる以上、礼を形で示すのが俺たちの務めだ」

 

その言葉に、兵たちが一斉に応える。

「ハッ!」

 

バルツアーは黙ってその様子を見守っていた。
口数は少ないが、アランの指導には常に一目置いている。

 

朝の空気を切るような号令と剣戟の音。

だが、そこにはただの筋力訓練ではない、
“誠実さ”と“責任”が積み重ねられていた。

 

訓練の合間、バルツアーがアランにひと言だけ声をかけた。

「……部下が、いい顔をしているな」

アランは息を整えながら、小さく笑う。

「俺には、もう背中を預けられる人がいますから。
……こいつらにも、そう思ってもらえるようにならないと」

 

バルツアーが一瞬、目を細めた。

「……マリーナ嬢か」

「えっ、バレてました?」

「明らかだった」

 

アランが少し照れながらも、胸を張った時、
部下のひとりが整列しながら小声で言った。

「隊長、今日はちょっと……甘い空気が出てます」

「うるさいぞ、集中しろ! 走ってこい!」

「了解です、隊長ぉおおおっ!!」

 

――その日もまた、
バルツアー邸の朝は、熱く、そしてどこか温かい空気に包まれていた。



夜。
マリーナは、キッチンで明日のパンをこねていた。
エプロン姿が、とてもよく似合っている。

窓の外では月が昇っていて、
ふと、アランは、思った。



(……結婚式をしたら、
 あの人は、白いドレスを、俺のために着てくれるのだろうか)

(似合うだろうな。
 でも――そんなこと、本人には恥ずかしくて言えない)



マリーナがこちらに気づいて、微笑んだ。

「アラン様。明日、朝練にご一緒しても?」

「……ああ。行こう」



(たぶん、ずっと一緒にいたいという気持ちは、
 伝えずとも、日々の中に染み込んでいくんだ)



キティが、いつのまにか足元に来て、すとんと寝転がる。
まるで「はい、今日も進展ゼロ」と言いたげに。


「……ウェディングドレス、ですか?」

パン生地をこねながら、マリーナがぽつりと呟いた。

「着てみたかったな、って。
 式はしないって聞いてましたし……もう、いいんですけどね?」

アラン兄、隣でパンこねてた手が止まった。
全身がガチガチに硬直するのが、目に見えてわかる。



マリーナは気づいていない。
でもキティは気づいて、アランの足をちょいっと引っかいた。

(訳:今のうちに返事しろニャ)

でも、アラン兄は言えない。
口が開きかけて、閉じる。
開きかけて、閉じる。
まるで焼きかけのクッキーみたいな挙動。



そして翌日。
カフェ・シャルルにて、子どもたちが言い出した。

「新婚旅行、行かないの?」
「どっかで“結婚しました!”ってやんなきゃダメじゃん!」

「え、式?あれでしょ、白いドレス!花!音楽!指輪交換!」



アラン兄、紅茶を飲みながら吹いた。
マリーナ、ぽかんとした顔。
ソフィア、爆笑しながら「やっぱりバレたわね」と囁く。



そしてその日の夜、
ソフィアがそっとアラン兄に告げた。

「……ちなみに、マリーナは男爵家の令嬢よ。
 “形式的な婚礼”は、相手の家の格を守るために必要なの。
 本当は、“あなたから申し出て”挙げてあげるのが理想よ?」



アラン兄、硬直。

「……し、式……!? し、式ってあの……白いやつ……!?」



シャルル、真顔で鳴いた。

「にゃあ(そう、白いやつニャ)」



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした

由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。 無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。 再び招かれたのは、かつて母を追放した国。 礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。 これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

悪役令嬢扱いで国外追放?なら辺境で自由に生きます

タマ マコト
ファンタジー
王太子の婚約者として正しさを求め続けた侯爵令嬢セラフィナ・アルヴェインは、 妹と王太子の“真実の愛”を妨げた悪役令嬢として国外追放される。 家族にも見捨てられ、たった一人の侍女アイリスと共に辿り着いたのは、 何もなく、誰にも期待されない北方辺境。 そこで彼女は初めて、役割でも評価でもない「自分の人生」を生き直す決意をする。

悪役令嬢だけど、私としては推しが見れたら十分なんですが?

榎夜
恋愛
私は『花の王子様』という乙女ゲームに転生した しかも、悪役令嬢に。 いや、私の推しってさ、隠しキャラなのよね。 だから勝手にイチャついてて欲しいんだけど...... ※題名変えました。なんか話と合ってないよねってずっと思ってて

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

婚約破棄? 国外追放?…ええ、全部知ってました。地球の記憶で。でも、元婚約者(あなた)との恋の結末だけは、私の知らない物語でした。

aozora
恋愛
クライフォルト公爵家の令嬢エリアーナは、なぜか「地球」と呼ばれる星の記憶を持っていた。そこでは「婚約破棄モノ」の物語が流行しており、自らの婚約者である第一王子アリステアに大勢の前で婚約破棄を告げられた時も、エリアーナは「ああ、これか」と奇妙な冷静さで受け止めていた。しかし、彼女に下された罰は予想を遥かに超え、この世界での記憶、そして心の支えであった「地球」の恋人の思い出までも根こそぎ奪う「忘却の罰」だった……

処理中です...