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殿下のための夕餉
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私は台所で腕まくりをして、せっせと動き回っていた。
卵を割ってだしを混ぜ、じゅうじゅうと香ばしい卵焼き。
七輪でじっくり焼き上げる塩鮭。
大鍋には大根と玉子と練り物をぐつぐつ煮込んだおでん。
そして油でこんがり揚げた唐揚げと、熱々のギョーザ。
「よし……っ!」毒見用の皿を手をたたいて掲げると
すごい勢いでなくなった、影は調理中も見ていたみたいだ。
そして、しばらくして、屋敷の空気が一気に張りつめる。
玄関口に立ったのは、淡い金髪に真摯な眼差しを持つ若き王子、アルバート殿下その人だった。
従う影たちも、ただならぬ緊張をまとっている。
「……メイベル嬢。突然すまない」
殿下は深々と頭を下げた。
「宮中の食事は……どうにも信用ならぬ。
フリードリヒ卿から、お前の料理を勧められた。
……頼めるだろうか?」
「っ……!」
私は思わず胸の前で両手を握りしめた。
「もちろんです、殿下!」
その横でアドレは鉄面皮のまま一歩前に出る。
「……殿下の食事を、我らが守ります」
殿下の視線がアドレに向く。
二人の間に、静かだが強い火花が散った。
殿下への皿を両手に抱え、次々と居間の卓に並べていく。
みるみるうちにテーブルは色とりどりの料理でいっぱいになった。
「……っ!」
アルバート殿下が目を丸くする。
「これが……すべて君が?」
「はい! うちの屋敷には料理人がいないので、慣れてますから!」
にこっと笑って答える私。
その横でアドレは黙々と器を並べ、無言で運んでいく。
やがてテーブルが埋まると、殿下の前には、特に酒瓶がずらりと並んでいた。
ビール、熱燗、焼酎らしき瓶まで。
「……これは」
殿下の眉がわずかに震える。
「お酒は殿下専用です!」
私は胸を張った。
「……専用……」
王子としての威厳も忘れ、思わず小さく呟いてしまうアルバート。
その顔には、困惑と、抗えぬ期待が浮かんでいた。
◾️殿下、庶民の味に衝撃
まずは目の前の卵焼きに、殿下は箸を伸ばした。
ふわりと広がる甘い香り。
口に入れた瞬間、思わず瞳を見開く。
「……っ!? な、なんだこれは……!」
「えっ? ただの卵焼きですけど?」
私が首を傾げると、殿下は真剣な顔で言った。
「ただの……? いや、これは……!
宮中の晩餐で出されるどんな菓子よりも、柔らかく……温かい……」
次に、おでんの大根を口に含む。
だしがじゅわっと染み出し、口いっぱいに広がった瞬間――。
「……っ!」
殿下はしばし言葉を失った。
それから殿下は唐揚げをかぶりつき、ギョーザを頬張り、ビールを一気に流し込んだ。
「ぷはぁぁっ……! こ、これは……! 生きている心地がする!」
王子としての威厳など、跡形もなく吹き飛んでいた。
影たちは顔を見合わせ、アドレは無表情で小さく呟く。
「……酒癖の悪い婚約者が、もうひとり増えたな」
「ちょっとアドレ様ぁぁ!」
私の抗議は、すでに酔い始めた殿下の笑い声にかき消された。
卵を割ってだしを混ぜ、じゅうじゅうと香ばしい卵焼き。
七輪でじっくり焼き上げる塩鮭。
大鍋には大根と玉子と練り物をぐつぐつ煮込んだおでん。
そして油でこんがり揚げた唐揚げと、熱々のギョーザ。
「よし……っ!」毒見用の皿を手をたたいて掲げると
すごい勢いでなくなった、影は調理中も見ていたみたいだ。
そして、しばらくして、屋敷の空気が一気に張りつめる。
玄関口に立ったのは、淡い金髪に真摯な眼差しを持つ若き王子、アルバート殿下その人だった。
従う影たちも、ただならぬ緊張をまとっている。
「……メイベル嬢。突然すまない」
殿下は深々と頭を下げた。
「宮中の食事は……どうにも信用ならぬ。
フリードリヒ卿から、お前の料理を勧められた。
……頼めるだろうか?」
「っ……!」
私は思わず胸の前で両手を握りしめた。
「もちろんです、殿下!」
その横でアドレは鉄面皮のまま一歩前に出る。
「……殿下の食事を、我らが守ります」
殿下の視線がアドレに向く。
二人の間に、静かだが強い火花が散った。
殿下への皿を両手に抱え、次々と居間の卓に並べていく。
みるみるうちにテーブルは色とりどりの料理でいっぱいになった。
「……っ!」
アルバート殿下が目を丸くする。
「これが……すべて君が?」
「はい! うちの屋敷には料理人がいないので、慣れてますから!」
にこっと笑って答える私。
その横でアドレは黙々と器を並べ、無言で運んでいく。
やがてテーブルが埋まると、殿下の前には、特に酒瓶がずらりと並んでいた。
ビール、熱燗、焼酎らしき瓶まで。
「……これは」
殿下の眉がわずかに震える。
「お酒は殿下専用です!」
私は胸を張った。
「……専用……」
王子としての威厳も忘れ、思わず小さく呟いてしまうアルバート。
その顔には、困惑と、抗えぬ期待が浮かんでいた。
◾️殿下、庶民の味に衝撃
まずは目の前の卵焼きに、殿下は箸を伸ばした。
ふわりと広がる甘い香り。
口に入れた瞬間、思わず瞳を見開く。
「……っ!? な、なんだこれは……!」
「えっ? ただの卵焼きですけど?」
私が首を傾げると、殿下は真剣な顔で言った。
「ただの……? いや、これは……!
宮中の晩餐で出されるどんな菓子よりも、柔らかく……温かい……」
次に、おでんの大根を口に含む。
だしがじゅわっと染み出し、口いっぱいに広がった瞬間――。
「……っ!」
殿下はしばし言葉を失った。
それから殿下は唐揚げをかぶりつき、ギョーザを頬張り、ビールを一気に流し込んだ。
「ぷはぁぁっ……! こ、これは……! 生きている心地がする!」
王子としての威厳など、跡形もなく吹き飛んでいた。
影たちは顔を見合わせ、アドレは無表情で小さく呟く。
「……酒癖の悪い婚約者が、もうひとり増えたな」
「ちょっとアドレ様ぁぁ!」
私の抗議は、すでに酔い始めた殿下の笑い声にかき消された。
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