『義妹に婚約者を譲ったら、貧乏鉄面皮伯爵に溺愛されました』

最終話:唐揚げ粉でみんな美味しく

商品イメージ

『魔女メイベル直伝・おいしくなーれ唐揚げ粉』

パッケージには、にこにこ笑顔のメイベルが泡立て器を掲げているイラスト。
背景にはキラキラの唐揚げが輝き、思わず手に取りたくなるデザイン。

裏面には、シンプルな調理手順の最後にこう書いてある。

「仕上げに“おいしくなーれ！”と唱えてください。
味も心も、もっともっと美味しくなります。」

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ストーリー内での展開

ある日、城下町のイベント会場。
メイベルが用意した唐揚げ粉は、殿下の一声で一気に国民の熱狂へと変わっていく。

殿下は唐揚げを頬張りながら、満面の笑みで叫んだ。
「みんな！　一緒に唱えろ！　“おいしくなーれ！”だ！！」

広場に集まった子供たちが、元気いっぱいに声を揃える。
「おいしくなーれー！」

その大合唱に、街の人々が次々と笑顔になり、唐揚げを頬張る。
やがて家庭でも――。

「お母さん、今日の唐揚げも“おいしくなーれ”ってした？」
「もちろんよ。呪文をかけると、みんなもっと笑顔になるのよ」

そんなやりとりが、城下の家庭で当たり前のように交わされるようになった。

そして人々の熱気の中、アドレは唐揚げを口に運びながら、ふっと低くつぶやく。
「……メイベル、もはや君は国民の台所を掌握したな」

「へっ！？　えぇぇ！？　ただの居酒屋メニューですのにぃ～！？」
メイベルは顔を真っ赤にしながら、手を振って否定する。

だがその光景を見ていた人々は皆、同じ想いを抱いていた。
――国中を笑顔にする魔法は、確かにここにいる、と。



公爵家ブランド：保存食品ライン

メイベルの発案により、公爵家から「保存食品ライン」が正式に立ち上げられた。
台所に立てない妊婦や、離乳期の赤ん坊を育てる母親、旅の途中で栄養を必要とする人々まで。
誰もが安心して食べられるように、粉末やドライ加工を中心に展開している。

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妊婦向け

「おいしくなーれ栄養スープの素」
粉末をお湯で溶かすだけで、やさしい味の野菜スープになる。
鉄分やカルシウムを加えてあり、妊婦でも安心して口にできる。

「ハーブ粥粉」
乾燥させた米を魔法で粉末化したもの。
お湯を注げば、消化のよいお粥がすぐに完成する。
つわりで食欲が落ちた時にも重宝される。

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赤ちゃん向け

「魔女の野菜粉ペースト」
にんじん、かぼちゃ、ほうれん草などの野菜を乾燥させて粉末化。
お湯で溶くと、とろみのある離乳食ペーストになる。

「ミルク穀粉」
粉ミルクに穀物粉をブレンドした商品。
消化がよく、栄養価が高い上に、腹持ちも良い。

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共通ライン

「唐揚げ粉」
殿下が中毒とまで呼ばれるほどの定番商品。
魔法の言葉「おいしくなーれ」を添えることで、家庭でも評判の味を再現できる。


「旅人用ドライシチュー」
野菜や肉を小さな乾燥ブロックにした保存食。
お湯を注げば、具だくさんのシチューが出来上がる。
旅や軍の遠征に欠かせない品として重宝される。

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メイベルの言葉

「ほら、お湯さえあれば、すぐに作れるんです。
子供たちや妊婦さんが、台所に立てない時でも……ごはんは、笑顔をつないでくれますから」

アドレはその言葉を聞き、苦笑しながらも真剣に告げる。
「……メイベル。やっぱり、お前は優しいな」

一方で殿下は唐揚げを頬張りながら、満足げに叫んだ。
「俺は……唐揚げ粉さえあれば生きていける！」


アドレの変化

「商売をしよう」――そんなことを考えるようになるとは、昔の自分なら思いもしなかった。

伯爵家を立て直すため、毎日毎日、事務仕事と数字ばかりを追っていた頃。
食事も味わう余裕がなく、ただ“領民を飢えさせない”ためだけに机に向かっていた。

けれど今は違う。
メイベルと一緒に考えた「唐揚げ粉」や「栄養スープの素」が、人々を笑顔に変えていく。
その姿を見るのが嬉しくて、気づけば自分から新しいアイデアを口にするようになっていた。

――楽しい。
この感覚は初めてだ。

「俺は……変わったんだな」
そう実感しながら、アドレはメイベルの横顔を見つめていた。

メイベル視点

最近、アドレが笑うことが多くなった。
最初に出会った頃は、鉄仮面みたいに無表情で、近寄りがたい人だったのに。

今では「うまい」と呟きながら、ふっと口元を緩める。
その笑顔を見るたびに、胸の奥がじんわり温かくなる。

えへへ……。
甘やかしてくれるし、優しくしてくれるし。
夜には、まだ小さなお腹に向かって、真剣に話しかけてくれる。

「元気に生まれてこいよ」なんて、少し照れながら。

――そんな姿を見ると、もっと頑張ろうって思える。

お互いに、いい夫婦で、いい親になれたら嬉しいな。

そう願いながら、私は窓際の椅子に座り、アドレが書き物をしている背中を、静かに眺めていた。



そして今日も、窓際で本を読んでいた私に――。

「足が冷える」
そう言って、アドレはそっと膝に毛布を掛けてくれた。

「……ありがとう」
そう言うと、彼はただ黙って頷く。

無骨なのに、やさしくて。
その仕草が妙にくすぐったくて、嬉しかった。

――私は思う。
この人となら、大丈夫。
いい夫婦になれて、きっといい親にもなれる。

そう願いながら、私は彼の横顔を見つめ続けた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました！

もし読んでいる間に「唐揚げ食べたい……」と思ってしまったなら、メイベルの勝ちです。

ビール片手に、また一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。


また次のお話でお会いできる日を、心から楽しみにしています。

おしまい。