『記憶喪失令嬢、捜査協力願います。──ご褒美はウザイ婚約者との婚約破棄』

夢窓(ゆめまど)

文字の大きさ
10 / 30

仲間に入れてください、

しおりを挟む
(シュガー登場)

カフェ騒動のあと。
廊下で声をかけてきたのは、栗色の髪をゆるくまとめた少女だった。

「リーズさま……! その、わたくし……格闘家令嬢って、ちょっと素敵だなって思いました。
よければ、教えていただきたいです」

「えっと……?」
突然の言葉に瞬きをすると、彼女は慌てて頭を下げた。

「わたくし、シュガーと申します。伯爵家の娘です。
実は全然できないんですけど……できないなりに、やってみたいなって……」



私は思わず笑みをこぼした。
(……レイチェルさんとは大違い。できないけどやりたい、って言えるのは強い子だ)

「いいですね。簡単な身を守る方法なら、教えてあげますよ」

シュガーの顔がぱっと明るくなる。
「ほ、本当ですか!?」

「ええ。殴り合いじゃなくても、防ぐだけならできるようになります。
授業前に少しずつやりましょう」



横でランスがうなずいた。
「いい心がけです。努力は裏切らない」

「うっす!」
思わず口を添えると、シュガーが目を丸くして笑った。

こうして、新しい仲間候補・シュガーが増えていった。


(女子護身グループ誕生)

放課後の武道館。
シュガーと並んで木剣を握った数人の令嬢たちが、緊張した面持ちで立っていた。

「……本当に、わたくしたちにもできるの?」
「ドレスの裾、ちょっと……」
「でも、守れるようになりたい……!」

きっかけはシュガーのひと言だった。
「一人じゃ不安だから、友達も誘ってみました!」



私は皆を見回し、にっこり笑った。
「大丈夫。今日は殴り合いじゃなく、護身。
攻撃じゃなくて“身を守ること”を覚えましょう」

「わぁ……!」
令嬢たちの瞳が輝く。



ランスが真剣な表情で頷いた。
「最初は構えと足運びから。実用的なのは受け流しと体捌きです」

「……うっす!」
思わず真似をする女子たちに、場が笑いに包まれる。



「これで、もう仲間外れなんてありませんね」
シュガーが汗を拭きながら笑った。

私は胸を張り、木剣を肩に担ぐ。
「そう。努力する人はみんな仲間よ」

王子が遠くから眺め、くすりと笑った。
「……面白い。これは本当に新しい風だな」



こうして――女子だけの護身練習グループが、武道館に誕生した。

(合気道護身術の時間)

武道館に令嬢たちの声が響いた。

「えいっ!」
「やぁっ!」

裾を捲り、必死に気合いを込める姿はどこか滑稽で、それでいて本気だ。
私は木剣を下げ、にっこり笑って言った。
「そう、それでいいの。前世で私もやったわ。
――貴族令嬢って、歩く宝石みたいなものだからこそ、護身は必須よ」



「え、えぇぇぇ……!」
壁際で見ていたラッセルが両手で頭を抱えた。
「リーズがお嬢様なのに、そんな掛け声出して……っ! 心臓が……!」

私は平然と振り返る。
「守れなければ、宝石は奪われるだけ。
……ね、だから必要なんですよ」



王子は椅子に腰を下ろし、ついに腹を抱えて笑い転げた。
「ははははっ! 最強だ! 本当に最強だ、リーズ!
歩く宝石が護身を語るなんて、誰が想像しただろう!」

令嬢たちは真剣に掛け声を続け、ランスは「うっす!」と混ざっていた。

(ラッセルの焦り)

護身練習を続ける令嬢グループは日に日に活気を増していた。
掛け声を響かせる彼女たちの中心で、リーズはいつもぶれない笑みを浮かべている。

「こうすれば危険は避けられます。
できることをやる――それが強さですよ」



「リーズさま、素敵ですわ!」
「私もがんばります!」

いつのまにか、彼女の周りには小さな“ファン”が生まれていた。
真剣に学ぶ者、憧れの眼差しを向ける者……誰もが彼女を「ただの令嬢」ではなく「導いてくれる人」として見始めていた。



そんな光景を、ラッセルは廊下の隅から見ていた。
拳を握り、額に冷や汗を浮かべる。

(な、なんだこれは……!? 俺の婚約者なのに、みんなが彼女に惹かれていく……!
どうしたらいいんだ……!)

彼の脳裏に浮かぶのは、ただひとつの言葉。
――“首の皮一枚”

(……首の皮一枚が、取れそうだ……! 本当に、このままじゃ……!)



「ラッセル?」
振り返ったリーズが小首を傾げる。

「ひっ!」
彼は慌てて笑顔を作った。
「な、なんでもない! 俺は君の一番の味方だから! ……ははは」

その様子に、王子が遠くから吹き出す。
「ははっ……面白い。焦ってるな、ラッセル」

(……頼むから笑わないでくれ、殿下! 俺は必死なんだ……!)


(レイチェルの矛盾)

護身練習の輪はますます広がり、シュガーを中心に令嬢たちは声を揃えて気合を飛ばすようになっていた。

「やぁっ!」
「えいっ!」

汗をかきながら笑い合うその姿は、誰もが誇らしげで楽しげだ。



そんな中、廊下の隅でレイチェルが腕を組んで仁王立ちしていた。
「ふん……仲間はずれなんて、最低ですわ!」

シュガーが気を利かせて声をかける。
「レイチェルさんも、一緒にどうですか? 楽しいですよ!」

だが、レイチェルは顔を真っ赤にして叫んだ。
「ぜ、絶対に仲間になんかなりません!」

「えぇ……」
シュガーがぽかんとする。



私は苦笑して首をかしげた。
「……仲間はずれ嫌いっぽいのにね。おかしな人」

ランスが木剣を抱えながら真顔でうなずく。
「……矛盾の塊ですね」

王子はそのやりとりを見て、肩を震わせていた。
「はははっ! やっぱり最強だな、この学園」



結局、レイチェルは拗ねたようにその場を去っていった。
(……でも、彼女は彼女で、きっとどこかでまた騒ぐのよね)


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

婚約破棄はハニートラップと共に

あんど もあ
ファンタジー
卒業パーティーで、平民の血を引いた子爵令嬢を連れた王太子が婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を宣言した! さて、この婚約破棄の裏側は……。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

『選ばれなかった令嬢は、世界の外で静かに微笑む』

ふわふわ
恋愛
婚約者エステランス・ショウシユウに一方的な婚約破棄を告げられ、 偽ヒロイン・エア・ソフィアの引き立て役として切り捨てられた令嬢 シャウ・エッセン。 「君はもう必要ない」 そう言われた瞬間、彼女は絶望しなかった。 ――なぜなら、その言葉は“自由”の始まりだったから。 王宮の表舞台から退き、誰にも選ばれない立場を自ら選んだシャウ。 だが皮肉なことに、彼女が去った後の世界は、少しずつ歪みを正し始める。 奇跡に頼らず、誰かを神格化せず、 一人に負担を押し付けない仕組みへ―― それは、彼女がかつて静かに築き、手放した「考え方」そのものだった。 元婚約者はようやく理解し、 偽ヒロインは役割を降り、 世界は「彼女がいなくても回る場所」へと変わっていく。 復讐も断罪もない。 あるのは、物語の中心から降りるという、最も静かな“ざまぁ”。 これは、 選ばれなかった令嬢が、 誰の期待にも縛られず、 名もなき日々を生きることを選ぶ物語。

婚約破棄されて去ったら、私がいなくても世界は回り始めました

鷹 綾
恋愛
「君との婚約は破棄する。聖女フロンこそが、真に王国を導く存在だ」 王太子アントナン・ドームにそう告げられ、 公爵令嬢エミー・マイセンは、王都を去った。 彼女が担ってきたのは、判断、調整、責任―― 国が回るために必要なすべて。 だが、それは「有能」ではなく、「依存」だった。 隣国へ渡ったエミーは、 一人で背負わない仕組みを選び、 名前が残らない判断の在り方を築いていく。 一方、彼女を失った王都は混乱し、 やがて気づく―― 必要だったのは彼女ではなく、 彼女が手放そうとしていた“仕組み”だったのだと。 偽聖女フロンの化けの皮が剥がれ、 王太子アントナンは、 「決めた後に立ち続ける重さ」と向き合い始める。 だが、もうエミーは戻らない。 これは、 捨てられた令嬢が復讐する物語ではない。 溺愛で救われる物語でもない。 「いなくても回る世界」を完成させた女性と、  彼女を必要としなくなった国の、  静かで誇り高い別れの物語。 英雄が消えても、世界は続いていく―― アルファポリス女子読者向け 〈静かな婚約破棄ざまぁ〉×〈大人の再生譚〉。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

処理中です...