『記憶喪失令嬢、捜査協力願います。──ご褒美はウザイ婚約者との婚約破棄』

夢窓(ゆめまど)

文字の大きさ
12 / 30

護身術、学園流行

しおりを挟む
最初は数人の令嬢の遊びだった。
だが、シュガーが家族に教え、令嬢たちが友達に話し――気づけば学園中に「護身術の真似ごと」が広がっていた。



ある日の授業前。
教室に先生が現れ、にこやかに言った。
「リーズ嬢。最近、護身術が流行しているそうですね。
……もしよければ、皆に見せてやってくれませんか?」

「えっ、私がですか?」
戸惑う私に、周囲から「見たい!」「教えて!」と声が上がる。



結局、体育場に集められた生徒たちの前で、私は木剣を手に立つことになった。
「……じゃあ、簡単にできるものを」

構えを示し、受け流しと体捌きを見せる。
「こうすれば、無理に力を使わなくても、自分を守れます」



「うおぉ……!」
男子生徒たちが目を輝かせる。
「すげぇ!」「俺の妹にも教えたい!」

女子生徒たちは拍手喝采。



「……リーズが教師代わりか」
遠くから見守っていたラッセルは頭を抱え、ぼそりと呟いた。
「首の皮一枚どころか、俺より人気じゃないか……」

アロイス王子は隣で大笑いしていた。
「はははっ! 見ろよ、ラッセル。
――やっぱり、彼女は最強だ!」

(教師の接近)

護身術を披露した翌日。
放課後、教室を出ようとした私の前に、スッと影が差した。

「リーズ嬢、少しお時間をいただけますか」

顔を上げると、若い魔法学部の教授――サーシャル先生が立っていた。
柔らかな笑みを浮かべながらも、目は鋭く私を見ている。



「先日の護身術、なかなか興味深かったです」
「えっと……ありがとうございます」

「特に、力に頼らず身を守る技。あれは魔法の基礎理論にも通じる部分があります。
もしよければ、授業の中で少し取り上げてみませんか?」

「授業で……ですか?」
思わず聞き返す。



背後でラッセルが「やめてくれ……!」と小声で呻いているのが聞こえた。
アロイス王子は腕を組み、興味深そうに見守っている。

サーシャルはにっこり笑った。
「もちろん強制ではありません。ただ……君の“経験”は他の生徒たちにも大きな刺激になると思いますよ」

(……やっぱり、この人は何か掴んでる。私が“ただの記憶喪失の令嬢”じゃないってこと)



「……考えておきます」
そう返すと、教授は満足げに頷き、静かに去っていった。

残された私は、胸の奥にざわりとした感覚を覚えていた。
  

(ラッセルとの手合わせ)

朝の武道館。
私は汗を拭いながら深呼吸した。
――だんだん昔の勘が戻ってきている。
剣道も柔道も、体が思い出してきている。

そこに、のっそりと現れる人影。

「……あっ、ラッセル」
「おはよう、リーズ……」
「また寝坊なの? たるんでるわ!」

「ぐっ……」
ラッセルの眉間に青筋が浮かぶ。
だが次の瞬間、木剣を構えてにやりと笑った。

「でも、俺はまだ負けないさ」
挑発するように、鋭い視線を向けてくる。



「……いいわよ。やる?」
私も木剣を握り直す。

「やるわよ!」

木剣が激しく打ち合わされ、武道館に乾いた音が響いた。
ラッセルの突きを受け流し、踏み込んで弾き返す。
以前なら押し切られていたはずなのに――今日は違った。

「なっ……!」
ラッセルの剣が高く弾かれ、床に落ちる。



私は呆然と木剣を見つめ、そして苦笑した。
「あら……勝っちゃった! ……これ、勝っちゃいけない相手だったかなぁ?」

ラッセルは肩で息をしながら、額の汗を拭った。
「……ちくしょう、やっぱり君は……強い」

武道館の隅で見ていたランスが小声で呟いた。
「お嬢様、完全勝利っす」

アロイス王子は腹を抱えて笑っていた。
「はははっ! ラッセル、君の“首の皮一枚”がまた削れたぞ!」



私は木剣を肩に担ぎ、ふふっと笑った。
(……でも、強くなってる実感がある。やっぱり、努力は裏切らないのよね)

ラッセルの剣をはじいたあと、私は息を整えながら小さく呟いた。

「……前世じゃ、武道大会(オリンピック)目指して毎日やってたからなぁ、私」



「……え?」
ラッセルが聞き返す。

「大会?」
ランスも首をかしげる。

私は慌てて手を振った。
「あ、なんでもない、独り言よ! 気にしないで」



アロイス王子は目を細め、ニヤリと笑う。
「ふむ……やはり君は面白いな。何か“普通じゃない努力”をしてきたのは間違いない」

ラッセルは頭を抱えてうめいた。
「……もう、どうしたらいいんだ……俺の立場が……」

私は木剣を担いでにっこり笑った。
「とにかく、強くなるのは楽しいの。だからこれからも練習あるのみね」



その“ぶれなさ”に、周囲はまたしても唖然としていた。




稽古場の床に落ちた木剣を拾い上げ、ラッセルは唇を噛んだ。
「……くそっ、リーズに負けるなんて……。
いいだろう、俺も鍛える! 朝練から参加する!」

「へぇ~」
私は木剣を肩に担ぎ、にっこり笑った。
「なら明日から、五時集合ね」



翌朝――
武道館に現れたのは私とランスだけだった。

「……お嬢様。やっぱり彼は」
「うん。寝坊ね」



昼休み、ぐったりした顔でラッセルが教室に駆け込んできた。
「……お、おはよう……! 俺だって、やる気はあるんだ……!」

アロイス王子は紅茶を啜りながら肩を震わせた。
「やる気だけでは起きられないのか、ラッセル」

私は苦笑して告げた。
「寝坊が治らない限り、剣より先に生活習慣を直すことね」

「ぐっ……! でも俺は諦めない!
リーズの隣に立つためなら、俺は何度でも挑戦する!」



その熱い宣言に、周囲は一瞬静まり――次の瞬間、王子が吹き出した。
「はははっ! 首の皮一枚どころか、糸一本じゃないか!」

私は肩をすくめた。
「……ま、挑戦するだけ偉いんじゃない?」

ラッセルの顔は真っ赤だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

婚約破棄はハニートラップと共に

あんど もあ
ファンタジー
卒業パーティーで、平民の血を引いた子爵令嬢を連れた王太子が婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を宣言した! さて、この婚約破棄の裏側は……。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

『選ばれなかった令嬢は、世界の外で静かに微笑む』

ふわふわ
恋愛
婚約者エステランス・ショウシユウに一方的な婚約破棄を告げられ、 偽ヒロイン・エア・ソフィアの引き立て役として切り捨てられた令嬢 シャウ・エッセン。 「君はもう必要ない」 そう言われた瞬間、彼女は絶望しなかった。 ――なぜなら、その言葉は“自由”の始まりだったから。 王宮の表舞台から退き、誰にも選ばれない立場を自ら選んだシャウ。 だが皮肉なことに、彼女が去った後の世界は、少しずつ歪みを正し始める。 奇跡に頼らず、誰かを神格化せず、 一人に負担を押し付けない仕組みへ―― それは、彼女がかつて静かに築き、手放した「考え方」そのものだった。 元婚約者はようやく理解し、 偽ヒロインは役割を降り、 世界は「彼女がいなくても回る場所」へと変わっていく。 復讐も断罪もない。 あるのは、物語の中心から降りるという、最も静かな“ざまぁ”。 これは、 選ばれなかった令嬢が、 誰の期待にも縛られず、 名もなき日々を生きることを選ぶ物語。

婚約破棄されて去ったら、私がいなくても世界は回り始めました

鷹 綾
恋愛
「君との婚約は破棄する。聖女フロンこそが、真に王国を導く存在だ」 王太子アントナン・ドームにそう告げられ、 公爵令嬢エミー・マイセンは、王都を去った。 彼女が担ってきたのは、判断、調整、責任―― 国が回るために必要なすべて。 だが、それは「有能」ではなく、「依存」だった。 隣国へ渡ったエミーは、 一人で背負わない仕組みを選び、 名前が残らない判断の在り方を築いていく。 一方、彼女を失った王都は混乱し、 やがて気づく―― 必要だったのは彼女ではなく、 彼女が手放そうとしていた“仕組み”だったのだと。 偽聖女フロンの化けの皮が剥がれ、 王太子アントナンは、 「決めた後に立ち続ける重さ」と向き合い始める。 だが、もうエミーは戻らない。 これは、 捨てられた令嬢が復讐する物語ではない。 溺愛で救われる物語でもない。 「いなくても回る世界」を完成させた女性と、  彼女を必要としなくなった国の、  静かで誇り高い別れの物語。 英雄が消えても、世界は続いていく―― アルファポリス女子読者向け 〈静かな婚約破棄ざまぁ〉×〈大人の再生譚〉。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

処理中です...