『豊穣の女神?いいえ、ただの土いじり令嬢です!――王子と歩む農地改革』

夢窓(ゆめまど)

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聖女降臨パーティーへ

(聖女降臨パーティー準備)

パーティー一週間前、私の部屋に届けられた大きな箱。
恐る恐る開けてみれば――そこには煌めくドレスが入っていた。

「……これ、赤と金?」

深紅の絹に金糸がふんだんに織り込まれ、光を受ければきらめきが舞う。
まるで炎と太陽が重なったような豪華さだ。

同封された手紙には、殿下の筆跡。
『君の赤い髪と、私の金の髪。
 二つを合わせた色を纏って、共に立ってほしい』

胸が熱くなった。けれど同時に、ため息がこぼれる。
「派手すぎますわ……メガネっ子の私には似合いません」

ちょうどそこへ顔を出した殿下が、さらっと言った。
「似合うさ。アンネットなら」

「め、殿下!? ……わ、私、眼鏡ですのよ?
 こんな煌びやかな場で、眼鏡の令嬢なんて……」

殿下は少し首をかしげ、真剣な顔で答えた。
「気合で目は治るさ」

「……は?」

「君ならできるだろう? 毎日、畑を魔法で潤す君だ。
 なら、視力だって鍛えればどうにかなる」

「……物好きも、ここまで来ると……」
私は呆れて肩を落とした。

でも殿下は、そんな私を見て嬉しそうに笑っていた。
(殿下はきっとお優しいから、私の眼鏡姿でも褒めてくださる……)
そう、またお愛想に違いない――と、私は自虐のループに沈むのだった。



(聖女降臨パーティーの舞踏会)

光の聖女が現れた瞬間、会場は華やかなざわめきに包まれた。
彼女は眩い笑みを浮かべ、当然のように殿下の腕に手を伸ばす。

「王子様の隣は、私ですわ」

……やっぱり。
私は胸の奥で小さく息を吐いた。
(そうなると思ってましたわ。これで私はお役御免……)

けれど、今日だけは。
私はまっすぐに聖女を見つめ、凛とした声で言った。

「いいえ。本日は私の婚約者ですもの。
 最初の一曲は、私と踊っていただきますわ」

一瞬、空気が張りつめた。
けれど聖女は、つんと顎を上げて微笑む。
「……仕方ないわね。形式上は、まだあなたが婚約者ですもの。
 最初の一曲は譲って差し上げますわ」

音楽が流れ、殿下は迷わず私の手を取った。
赤と金のドレスが煌めき、彼の金の髪と重なり合う。
踊りながら、殿下が囁いた。
「アンネット……君と踊れて嬉しい」

「まあ、殿下はお優しいですわね。……お愛想でも」
私は微笑み、心の中で自虐を繰り返す。

曲が終わり、聖女が当然のように前へ出ようとした、その時。
「もう一曲」
殿下は手を離さず、私を引き寄せた。

「えっ……?」
「アンネット、次も君と踊る」

会場がざわめく。
「二曲目まで……?」
「これは、形式を越えている……?いや、今は、まだ婚約者だから、いいのか?」

聖女の笑顔がひきつる中、殿下は微笑みを崩さない。
そして二曲目を終えると、彼は堂々と私の手を取ったまま歩き出す。

「庭へ出よう。君とふたりで話がしたい」

月明かりの下、夜風が頬を撫でる。
私はまだ、夢の中のように呆然としながら――
(……これは、どういうことでしょう? 本気、なわけ、ないですよね?)
と、自虐のループを抜けられないのだった。


(庭での会話)

月明かりに照らされた庭。
赤と金のドレスを着た私は、未だ信じられない思いで殿下の隣を歩いていた。

「……殿下。どうして私などを、二曲も……?」

「どうしてって――君だからだ」
殿下は即答し、立ち止まって私を見つめる。
真剣な眼差しに、私は思わず視線を逸らした。

「……本気でアンネットを選ぶ。
 あのさ、君……あれだけ魔法を自在に操れるなら、
 聖女より上なんじゃないのか?」

「……えっ?」

「ひょっとして、聖魔法だって使えるんじゃないか?
 畑を潤し、土を耕し、作物を育てる。
 それは人々を飢えから救う、まさに“奇跡”だろう?」

私は息を呑んだ。
けれどすぐに、小さく笑って首を振る。

「……まあ。殿下は本当にお優しいお方。
 婚約破棄の前に、私を傷つけないように慰めてくださるのですね」

「ちが――」

「いいんです。侯爵家の娘だから、一時的に“婚約者”として選ばれただけ。
 でも本当に必要なのは、光の聖女様でしょう?」

殿下の胸に、痛烈な焦りが走る。
けれどアンネットは、真剣な告白をなお“別れの前の優しさ”としか思えなかった。


(王子の独白)

アンネットが、自嘲気味に微笑んで言った。
「……まあ。殿下は本当にお優しいお方。
 婚約破棄の前に、私を傷つけないように慰めてくださるのですね」

そう告げて視線を逸らす彼女を見ながら、
俺は胸の奥で、言葉にならぬ想いを抱えた。

(……違うんだ、アンネット。
 君はただの侯爵令嬢なんかじゃない。
 土を耕し、水を呼び、芽を育てるその姿は――)

(――まるで、豊穣の女神じゃないか?)

聖女は確かに珍しい。
国にとって特別な存在だ。

けれど。
豊穣の女神だって、この時代、この国に降り立つことなど滅多にない。

(聖女も珍しいけど……豊穣の女神も、同じくらい奇跡なのにな。
 なぜ、君は自分で気づかないんだ……)

目の前の彼女は、泥にまみれた長靴姿でも、
派手なドレスに眼鏡でも。
どんな時でも、俺には“誰より美しい存在”にしか見えない。

それなのに――
彼女はまだ、自分を“捨てられる娘”と信じ込んでいる。

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