『豊穣の女神?いいえ、ただの土いじり令嬢です!――王子と歩む農地改革』

夢窓(ゆめまど)

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国の重鎮の娘だからこそ

「殿下!」
年配の大臣が声を張り上げた。
「アンネット様は侯爵家のご令嬢。国政を担う重鎮の家から出ておられる。
 だからこそ、殿下ご自身でご決断を!」

別の貴族もすぐに続く。
「この場で、聖女様をお選びになると宣言なさるのです!」
「そうせねば国中が揺らぐ!」

空気が一気に張りつめ、私の背筋に冷たいものが走った。

(……やっぱり。
 私はただの“変わり者”なんてものじゃない。
 侯爵家の娘であるからこそ、殿下の首を縛る重石になっている)

私は自分の手をぎゅっと握り、唇を噛んだ。
「……殿下。ここはもう、はっきりと……」

殿下が振り返る。
その金の瞳は揺らがず、私を真っ直ぐに見ていた。

「アンネット……」

(殿下……お願い。ここで私を切り捨てて。
 そうすれば殿下は守られる。国も揺らがない。
 私は“捨てられた婚約者”で済むけれど――殿下を窮地に立たせるよりは、ずっと……)

私は必死に笑みを作り、震える声で告げた。
「殿下……どうぞ、ご決断を」

――その瞬間、王子は何を言うのか。


(王子の決断と弟巻き込み)

会場の視線が一点に集まる中、殿下は静かに口を開いた。

「……よかろう。決断は下す」

ざわめきが広がる。
「ついに……!」
「聖女様をお選びになるのか」

殿下は一拍置き、凛とした声で続けた。

「だが、それは神託に従うものではない。
 私自身の意志による決断だ」

空気が張りつめる。
殿下の金の瞳が、ただ一人を射抜いていた。

「アンネット。私は君を選ぶ」

「……っ!」
私の胸が大きく揺れた。

「私は、百姓になってもいい。
 畑を耕し、君と共に土を踏む――それで構わない」

会場がどよめきに揺れる。
「百姓……!? 殿下が……!」
「そんな覚悟まで……!」

殿下はさらに言い放った。
「聖女は……弟に譲ろう。そして、王位も」

「ええええーー!?」
会場中が悲鳴のように叫んだ。

その場にいた第二王子が慌てて手を上げる。
「え、えー……俺? いや、俺も婚約者のアイリスがいるから……アイリスの婿養子でいいです。王位は?いらないかなぁ。」

「お前、決断早すぎだろ!」
殿下が思わず突っ込む。

会場に一瞬笑いが走る。
でもその裏で、殿下の決意とアンネットへの想いは、誰の目にも揺るがないものとして刻まれたのだった。



(聖女の暴走と周囲の冷静な声)

殿下の決断が響いた瞬間。
「そんなの認めない!!」
聖女が悲鳴のように叫んだ。

「神が選んだのはこの私!
 殿下が従わないというなら、この国は神罰で滅びます!」

会場がざわめき、空気が一気に緊迫する。
けれど、その中で冷静な声が上がった。

「……聖女様」
年配の学者が、静かに口を開いた。
「あなた様が降臨されたのは、つい先日のこと。
 まだ奇跡らしい奇跡も示されておられない。
 婚約者を今決めなくとも、よろしいのではありませんか」

別の貴族も頷く。
「そうだ。殿下が誰を伴侶に選ぶかは、国政に関わる重大事。
 拙速に決める必要はあるまい」

「なっ……!」
聖女の顔が赤く染まり、拳を震わせる。
「わ、私は……選ばれし存在ですのに!
 王子様の隣は、この私のはずなのに!」

私はその姿を見つめながら、胸の奥でため息をついた。
(……やっぱり殿下は、本当は聖女様を選ぶはず。
 今は先送りにしただけで、いずれ……)

自虐の渦に沈む私の横で、殿下はただ静かに、私の手を強く握りしめていた。

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