『豊穣の女神?いいえ、ただの土いじり令嬢です!――王子と歩む農地改革』

夢窓(ゆめまど)

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聖女さん、激おこ

王都の広場

聖女(必死に声を張り上げる):
「待ちなさい! 民よ、思い違いをしてはなりません!
この私こそ、神に選ばれた聖女なのです!
神託が示す通り、殿下の妃となるのは私――」

群衆の中から声が上がる。

庶民の母親:
「でもさ、聖女さま……。
この前、子供が擦りむいたのを“治してあげる”って言ったのに、治るまでに半日かかってたよね?」

若い職人:
「しかも血は止まらなかったし。
アンネット様なら……畑も水も一瞬で整えてくださった」

老婆:
「そうそう、あれはまるで女神様じゃったよ。
聖女さまは尊いのかもしれんが、うちの畑を救ってくれたのはアンネット様じゃ」

――わぁぁっと歓声がアンネットに向かう。

群衆:
「水撒き令嬢! 豊穣の女神!」
「アンネット様ばんざい!」

アンネット(顔を真っ赤にして自虐モード):
「い、いえいえ、私はただの……畑好きで……土いじりが趣味で……」

ルナン殿下(横で満面の笑み):
「……やっぱり、君は誇らしいよ」

聖女(青ざめて唇を噛みながら):
「そ、そんな……尊い私より、畑女の方が……?
馬鹿な……こんなはずじゃ……!」



歓声に包まれるアンネット。
その一方で、聖女は肩を震わせ、顔を真っ赤にしていた。

聖女:
「み、民どもが……!
私を差し置いて、畑女を崇めるですって!?
許されません!神託を侮辱する者には――神罰が下るのです!!」

彼女は掲げた聖典をぎゅっと握りしめ、空に向かって叫んだ。

聖女:
「神よ! この不敬なる者どもに裁きを!」

空が一瞬、黒雲に覆われ、ざわりと風が広場を吹き抜ける。
群衆がざわつく。

庶民A:
「ひ、ひぃ……本当に雷でも落ちるのか……!?」
庶民B:
「やっぱり聖女さまは怖い……」

しかし――。

ルナン殿下(冷然と):
「やめろ、聖女。
神罰を盾に民を脅すなら……君はただの暴君だ」

アンネット(慌てて両手を広げて):
「やめてくださいませ! 畑も、人も、傷つけてはなりません!」

その瞬間、アンネットの足元からふわりと光が立ち上がり、柔らかな雨が広場全体に降り注ぐ。
雨は人々を濡らすことなく、熱と恐怖をすっと鎮めていく。

群衆(驚きと感嘆の声):
「これが……女神の御業……!」
「聖女さまの雷ではなく、水撒き令嬢の慈雨だ……!」

聖女(愕然と):
「そ、そんな……! 私の神罰より、あの女の水の方が……尊いと……!?」

王都・広場

群衆はすでに聖女から視線を外し、アンネットを見つめていた。

長老の農夫:
「あの方の力は、神が与えた奇跡じゃない。
何年も畑に向き合ってきた、積み重ねの力だ。
だからこそ、民のために働くことができるんだ」

若い娘:
「聖女さまは“尊い”って言うけど、アンネット様は“働いてくださる”。
その違いが、今はっきりしたのよ」

群衆(声をそろえて):
「水撒き令嬢ばんざい! 豊穣の女神ばんざい!」

聖女(青ざめて後ずさりしながら):
「そ、そんな……私が……神に選ばれたはずの、この私が……」

大臣たちも顔を曇らせる。

大臣A:
「……もはや聖女様を支える理由はないな」
大臣B:
「殿下とアンネット様を、正式に王宮が認めるしかあるまい」

孤立した聖女は震える声で叫ぶ。

聖女:
「わ、私は間違ってない! 神託が、私を選んだのよ!
なのに……誰も、誰も信じてくれないの!?」

だが返る声はなく、人々の目は冷ややかだった。

ルナン殿下(静かに):
「神託より、努力と愛を信じる。
――それが、この国の答えだ」

アンネット(小さく自虐気味につぶやく):
「……でも、私はただの畑好きで……」

群衆(喝采):
「畑好きだからこそ! その力を授かったんだ!」

広場・静寂の中で

歓声が渦巻く中、聖女は膝から崩れ落ち、聖典を抱きしめて泣きじゃくった。

聖女:
「わたし……わたしは尊い存在だって、そう信じて……
でも、誰も……誰も見てくれない……!」

民衆は戸惑い、誰も近づこうとしない。
そのとき、アンネットが一歩前に進み出た。

アンネット:
「……かわいそうに」

彼女はしゃがみ込み、そっと聖女の肩に手を置く。

アンネット:
「あなたは尊い存在であると同時に、人なのですわ。
泣いたり迷ったりするのも当然です。
でも――一緒に、この国を守ることはできますから」

聖女(涙で顔を上げる):
「……え……? 一緒に……?」

アンネット:
「畑は、ひとりでは耕せません。
人と人が手を取り合って、ようやく実りが得られる。
……国も同じではありませんか?」

ルナン殿下(静かに頷きながら):
「その通りだ。聖女、君も国を支えるひとりであってほしい。
けれど妃はアンネットだ。僕の心は揺らがない」

聖女はしばし呆然とし、それから子供のように泣き崩れた。
その涙は、初めて彼女が“尊さ”の仮面を外した証だった。



群衆(小さな声で):
「……アンネット様はやっぱり女神だ……」
「敵をも救うお心……」

アンネット(苦笑しつつ心の声):
(……いやいや、ただ畑好きで、放っておけなかっただけなんですけどね……)
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