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妖精姫は皇帝国の王女です。
「皇妃のお茶会と、朗読される“王太子の愚行録”」
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帝国宮殿・東のサロン。
皇妃ロレーヌの私的なお茶会が開かれていた。
白薔薇のティーセット、果実と蜂蜜のタルト、手作りの焼き菓子。
だが、並ぶ貴婦人たちの目当ては――甘味ではなかった。
「皆さま、こちらが本日のお楽しみ、《王太子の愚行録・春夏総集編》でございます」
サロン中央に立たされたのは、冷静無表情のギデオン。
その手には分厚い冊子。金のインクでタイトルが刻まれていた。
《王太子の愚行録・春夏総集編 ~気がつけばローラと花園~》
「読み上げてちょうだい、ギデオン。声に出して笑いたいの」
ロレーヌ皇妃が頬に扇を当てて、目をきらきらと輝かせる。
「……では、参ります」
ギデオンがページをめくると、場にいた高位貴族夫人たち、そして皇女たちまで身を乗り出す。
「◉ 4月5日:“会議よりローラの誕生日が大事”と発言し、午前政務を全面キャンセル。
本人はケーキ作りに失敗し、ローラ嬢から“味はまあまあ”と評され落ち込む」
「ふふっ……!」
「◉ 4月15日:“リリベッタは僕に冷たい”と第三者に愚痴るも、前日に自身が一方的に無視していた記録あり」
「それはひどいわ!」
「◉ 5月21日:演習視察中、“野に咲くローラ”という詩を即興で朗読開始。
将軍らが困惑するなか、ローラ嬢は“素敵よ”と応援!」
「ぷっ……!」
「◉ 6月4日:リリベッタ様への突き飛ばし疑惑発生。証拠なし、目撃者なし、判断材料“ローラが泣いてたから”。
ギデオン、三度目の異議を却下され“もう知らん”と手帳に書き残す」
「ふふふ……あっははははははっ!」
お腹を抱える貴婦人たち。
娘たちは椅子からずり落ち、皇妃ロレーヌは涼しい顔で紅茶を口にしながら呟いた。
「こんなに笑ったの、久しぶり。ギデオン、やっぱりあなたの記録は帝国の宝ね」
「光栄です」
ギデオンは淡々とページをめくる。
「……ちなみに“愚行録・秋の陣”も制作中です」
「タイトルからしてもう最高!」
「それにしても――王太子様、これをご存じになったら……」
「ええ、生きていけないかもしれないわね」
皇妃が紅茶のカップを置き、にっこりと笑う。
「でも、もうすぐこの国に“謝罪”にいらっしゃるのよ。まあ、歓迎してあげましょう?」
「ご本人に読み聞かせて差し上げたらどうでしょう?」
「それ、採用」
笑い声と紅茶の香りに包まれた午後の帝国サロン――
そこはもはや、外交と情報戦と社交が混在する“戦場”だった。
◆ 帝国政務庁──
「……ここの文書、整理されてませんね。署名順じゃなく、発令日順で並べないと混乱します」
「すでに気づいているとは。優秀だな、ハリス」
皇帝レオノールが感嘆する。
政務庁に軽く顔を出しただけのつもりが、つい癖で書類を整え始めたハリス。
気づけば副官たちの相談に乗り、財務案にも目を通し、まるで**「政務に染まる婿養成講座」**が始まっていた。
「……働く姿も悪くないわね」
柱の陰で見守っていたリリベッタがぽつりと呟く。
「彼は真面目で実直。力でねじ伏せるのではなく、信頼で組織を動かすタイプ」
皇帝が微笑む。
「なるほど……我が帝国の政に、“色”を与えてくれる男かもしれんな」
⸻
王子の代わりに、精鋭をいただきます
「ヨーゼフには、ハリスを側近につけて……ギデオンを補佐官に。
あとは護衛官がいれば、盤石ね」
ロレーヌ皇妃が、ゆったりとした所作でティーカップを揺らす。
「……強い国になるわよ」
窓の外では、謝罪のために訪れていた王子ハインツとその護衛団が、しずしずと控えの間へ向かっていた。
その様子を見ながら、ロレーヌが思いついたように言った。
「そうね。だったら――謝罪に来た王子を捕縛した騎士団長と副団長を、そのまま“人質”っていう名のスカウト、どうかしら?」
ギデオンが、メモを取る手を止める。
「……人質、という名目で、優秀な戦力を確保する、という意味ですね?」
「そういうことよ。ここで王子の首を切るより、精鋭を手に入れた方が、後々有用だもの」
「理にかなっています」
「でしょう?」
ロレーヌはふふっと微笑み、手をひらひらと振った。
「ギデオン、書類をお願いね。“人道的受け入れ措置”として。
護衛官たちは、帝国での“再教育”のもと、第二の人生を歩むの。素敵でしょ?」
「文面は“友好の印”として整えましょう。“責任ある立場の者が残ることで、償いの意思を示す”と」
「ええ。王子のかわりに、忠義を誓ってくれた護衛が残る。
それでこの国の民も安心する。……“王子の後始末”としては最上じゃなくて?」
ギデオンが小さく頷き、手帳を開いた。
「では、騎士団長アラタマ、副団長ナディロ、補足で書記サークと副官ノブ――このあたりの正式書類、至急作成いたします」
「よろしく。良い人材は、逃さないのが基本よ」
ハリスがぽつりと呟く。
「……ほんと、こっちの国のやり口、手際良すぎて逆に怖い」
リリベッタは笑って、紅茶をくるりと回した。
「でも、“無能を責任者に残して、国が滅びる”より、ずっとましでしょう?」
皇妃ロレーヌの私的なお茶会が開かれていた。
白薔薇のティーセット、果実と蜂蜜のタルト、手作りの焼き菓子。
だが、並ぶ貴婦人たちの目当ては――甘味ではなかった。
「皆さま、こちらが本日のお楽しみ、《王太子の愚行録・春夏総集編》でございます」
サロン中央に立たされたのは、冷静無表情のギデオン。
その手には分厚い冊子。金のインクでタイトルが刻まれていた。
《王太子の愚行録・春夏総集編 ~気がつけばローラと花園~》
「読み上げてちょうだい、ギデオン。声に出して笑いたいの」
ロレーヌ皇妃が頬に扇を当てて、目をきらきらと輝かせる。
「……では、参ります」
ギデオンがページをめくると、場にいた高位貴族夫人たち、そして皇女たちまで身を乗り出す。
「◉ 4月5日:“会議よりローラの誕生日が大事”と発言し、午前政務を全面キャンセル。
本人はケーキ作りに失敗し、ローラ嬢から“味はまあまあ”と評され落ち込む」
「ふふっ……!」
「◉ 4月15日:“リリベッタは僕に冷たい”と第三者に愚痴るも、前日に自身が一方的に無視していた記録あり」
「それはひどいわ!」
「◉ 5月21日:演習視察中、“野に咲くローラ”という詩を即興で朗読開始。
将軍らが困惑するなか、ローラ嬢は“素敵よ”と応援!」
「ぷっ……!」
「◉ 6月4日:リリベッタ様への突き飛ばし疑惑発生。証拠なし、目撃者なし、判断材料“ローラが泣いてたから”。
ギデオン、三度目の異議を却下され“もう知らん”と手帳に書き残す」
「ふふふ……あっははははははっ!」
お腹を抱える貴婦人たち。
娘たちは椅子からずり落ち、皇妃ロレーヌは涼しい顔で紅茶を口にしながら呟いた。
「こんなに笑ったの、久しぶり。ギデオン、やっぱりあなたの記録は帝国の宝ね」
「光栄です」
ギデオンは淡々とページをめくる。
「……ちなみに“愚行録・秋の陣”も制作中です」
「タイトルからしてもう最高!」
「それにしても――王太子様、これをご存じになったら……」
「ええ、生きていけないかもしれないわね」
皇妃が紅茶のカップを置き、にっこりと笑う。
「でも、もうすぐこの国に“謝罪”にいらっしゃるのよ。まあ、歓迎してあげましょう?」
「ご本人に読み聞かせて差し上げたらどうでしょう?」
「それ、採用」
笑い声と紅茶の香りに包まれた午後の帝国サロン――
そこはもはや、外交と情報戦と社交が混在する“戦場”だった。
◆ 帝国政務庁──
「……ここの文書、整理されてませんね。署名順じゃなく、発令日順で並べないと混乱します」
「すでに気づいているとは。優秀だな、ハリス」
皇帝レオノールが感嘆する。
政務庁に軽く顔を出しただけのつもりが、つい癖で書類を整え始めたハリス。
気づけば副官たちの相談に乗り、財務案にも目を通し、まるで**「政務に染まる婿養成講座」**が始まっていた。
「……働く姿も悪くないわね」
柱の陰で見守っていたリリベッタがぽつりと呟く。
「彼は真面目で実直。力でねじ伏せるのではなく、信頼で組織を動かすタイプ」
皇帝が微笑む。
「なるほど……我が帝国の政に、“色”を与えてくれる男かもしれんな」
⸻
王子の代わりに、精鋭をいただきます
「ヨーゼフには、ハリスを側近につけて……ギデオンを補佐官に。
あとは護衛官がいれば、盤石ね」
ロレーヌ皇妃が、ゆったりとした所作でティーカップを揺らす。
「……強い国になるわよ」
窓の外では、謝罪のために訪れていた王子ハインツとその護衛団が、しずしずと控えの間へ向かっていた。
その様子を見ながら、ロレーヌが思いついたように言った。
「そうね。だったら――謝罪に来た王子を捕縛した騎士団長と副団長を、そのまま“人質”っていう名のスカウト、どうかしら?」
ギデオンが、メモを取る手を止める。
「……人質、という名目で、優秀な戦力を確保する、という意味ですね?」
「そういうことよ。ここで王子の首を切るより、精鋭を手に入れた方が、後々有用だもの」
「理にかなっています」
「でしょう?」
ロレーヌはふふっと微笑み、手をひらひらと振った。
「ギデオン、書類をお願いね。“人道的受け入れ措置”として。
護衛官たちは、帝国での“再教育”のもと、第二の人生を歩むの。素敵でしょ?」
「文面は“友好の印”として整えましょう。“責任ある立場の者が残ることで、償いの意思を示す”と」
「ええ。王子のかわりに、忠義を誓ってくれた護衛が残る。
それでこの国の民も安心する。……“王子の後始末”としては最上じゃなくて?」
ギデオンが小さく頷き、手帳を開いた。
「では、騎士団長アラタマ、副団長ナディロ、補足で書記サークと副官ノブ――このあたりの正式書類、至急作成いたします」
「よろしく。良い人材は、逃さないのが基本よ」
ハリスがぽつりと呟く。
「……ほんと、こっちの国のやり口、手際良すぎて逆に怖い」
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