『婚約破棄はおいくら?』 ──婚約破棄はまず、精算からお願いしてもいいですか?

夢窓(ゆめまど)

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サファイアとキャスリンの日常

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──王宮の図書室。
キャスリンはお気に入りの席に腰掛け、分厚い書物を開いていた。
隣の小さな椅子には、サファイアがちょこんと座っている。



サファイア
「おねえさま、これ……おはなし?」

キャスリン
「そうよ。国の歴史について書かれているの」

サファイアは一生懸命にページを覗き込むが、文字はまだ理解できない。
キャスリンはふっと笑い、代わりに口で物語を語り始めた。

キャスリン
「むかしむかし、とある国に、勇敢な王女がいてね……」

サファイアの青い瞳がきらきらと輝き、話に夢中になっていく。



午後になると、庭園の東屋でお茶の時間。
キャスリンがカップを口に運ぶと、サファイアも小さなティーカップを真似して持ち上げる。

サファイア
「おねえさま、こう? こうやって飲むの?」

キャスリン
「ええ、とても上手よ」



スコーンをかじりながら、サファイアは嬉しそうに言う。

サファイア
「おねえさまがいると、あんしんするの」

キャスリンの手が一瞬止まる。
扇子で口元を隠し、淡々とした声を返す。

キャスリン
「……そう。なら、ここでゆっくりしていなさい」



しかし、ふと視線を落としたとき。
サファイアが眠りにつき、自分の膝に頭をのせていることに気づく。

キャスリンは驚き、そして小さくため息をついた。

キャスリン(心の声)
「……私は本と紅茶さえあれば十分なはずだったのに。
この子に“おねえさま”と呼ばれるのが、どうしてこんなに……心地よいのかしら」

彼女の指は自然と、サファイアの柔らかな金髪を撫でていた。


(アベルが目にする光景)

──王宮・庭園の東屋。
キャスリンは開いた本を横に置き、眠ってしまったサファイアの髪を優しく撫でていた。
少女はキャスリンの膝に頭をのせ、安らかな寝息を立てている。



その光景を、離れた柱の影からアベルが見つめていた。
普段の冷静な面差しが崩れ、思わず息を呑む。

アベル(心の声)
「……まるで、本当の母娘のようだ」



キャスリンは涼しい表情のまま、膝に重みを預けるサファイアを抱き直す。
扇子を閉じ、ほんの少しだけ柔らかな微笑みを浮かべた。

キャスリン(小声)
「……邪魔くさいけれど。こうして寝顔を見ていると、悪くないわね」



アベルの胸に熱いものが込み上げる。

アベル(心の声)
「キャスリン……君は“白い結婚”と言った。
だが、君が子を抱き、微笑む姿を見てしまったら……
どうしても願わずにいられない。
──いつかは、愛のある本当の家族になりたい、と」



護衛が気配を立てたが、アベルは手で制した。

アベル
「……しばらく、このままにしておこう」

彼の視線は優しく揺れ、まるで未来を夢見る少年のように輝いていた。

(サファイアの問い)

──王宮・庭園。
サファイアはキャスリンと一緒に絵本を眺めていた。
そこへアベルが現れ、穏やかに声をかける。

アベル
「サファイア。絵本は好きか?」

サファイア
「うん! おねえさまが読んでくれるの!」

嬉しそうに本を抱えるサファイア。
だが次の瞬間、ふと真剣な顔になり、アベルを見上げて尋ねた。

サファイア
「ねえ……おとうさまは?」



場の空気が凍る。
キャスリンが思わず息を呑む。
アベルは一瞬言葉を失ったが、すぐに膝をついてサファイアの目線に合わせた。



アベル
「……お父さまは、今はここにはいない」

サファイア
「どうして?」

アベル
「それは……大人の事情だ。けれど……」

アベルはサファイアの小さな肩に手を置き、優しく微笑んだ。

アベル
「これからは、君を一人にはしない。
私が……お父さまのように、君を守る」



サファイアの青い瞳がうるみ、次の瞬間ぱっと笑顔になった。

サファイア
「ほんと!? じゃあ、アベルおとうさま!」

無邪気に抱きつくサファイア。
アベルは一瞬驚き、やがてその小さな体をしっかりと抱きしめた。



キャスリンは扇子で口元を隠し、横顔をそらす。

キャスリン(心の声)
「……白い結婚のはずだったのに。
こんな姿を見せられたら……私まで、揺らいでしまうじゃない」


(母さまと呼ばなくていい → おかあさま)

──キャスリンの私室。
サファイアはキャスリンの膝の上に乗り、絵本を楽しげに指差していた。

サファイア
「おねえさま、この子はだれ?」

キャスリン
「勇敢なお姫さまよ」

無邪気な笑顔に、キャスリンはふと息を整え、優しく言い聞かせる。

キャスリン
「サファイア、私は“母さま”じゃないの。
だから……そう呼ばなくてもいいのよ」



サファイアは一瞬考え込み、そして小さく笑った。

サファイア
「じゃあ……“おかあさま”!」

キャスリンの目が大きく見開かれる。

キャスリン
「……っ!」



サファイアは得意げにキャスリンの首に抱きつく。

サファイア
「だって、いっしょにいてくれる。だっこしてくれる。だからおかあさま!」

キャスリンは扇子を取り落とし、思わずその小さな体を抱きしめ返してしまう。

キャスリン(心の声)
「……邪魔くさいと言いながら、どうしてこんなに胸があたたかいのかしら」



(国王夫妻の決定)

──王宮・謁見の間。
国王夫妻、廷臣たちが見守る中、アベルとキャスリンが呼び出される。

国王は厳粛に告げた。

国王
「サファイアをこのまま放置することは、王家の恥となろう。
よって、王家は彼女を正式に“養女”と認める」

廷臣たちがざわめき、王妃が言葉を添える。

王妃
「サファイアは王族の血を引く子。
その庇護者としては、アベルと……そしてキャスリン、あなたが最もふさわしい」



キャスリンはゆったりと一礼する。

キャスリン
「……承知いたしました。
この子の未来が安らぎと誇りに満ちたものとなるよう、見守りましょう」

サファイアは玉座の前で小さな声を上げた。

サファイア
「おかあさま……!」

廷臣たちが驚きの目を向ける中、キャスリンは頬を染め、そっとサファイアの肩に手を置いた。


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