夫と息子に捨てられたので、全部置いて出て行きます。明日から、タオルがなくても知りません。

夢窓(ゆめまど)

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裁判の行方

結論から、言えば、
父さんは、罪人にならなかった。
ただし、刑務官として、罪人の刑務所の管理に、行くことになった。任期は十年。

誰かから、罪の軽減の嘆願が、あったらしい。ハロルド様だと思う。僕らが罪人の子にならないように。
刑務官は、罪人じゃないから、

刑務所は、逃げられないような外れの島だった。
十年、刑務官も、おいそれと、出てこれない。

でも、刑務官は食事もちゃんとしている。冬は暖房もある。給料で本や買い物もできる。夜勤務以外なら、少し酒も飲めるらしい。給料も出る。
悪くない、と思うことにした。

父さんに会いに行った。
多分、これが最後だ。もう会わない。そう決めた。

「ケイン、すまなかった」
父さんは、泣きながら謝った。
かなり、痩せていた。
「いいよ」
僕は、首を振った。
「僕は、父さんが盗賊団の仲間じゃなく無実だと知ってるから」
父さんが、顔を上げた。

「お前、大きくなったな」
「あはは、今は賄いで、いいもん食べてるから、背が伸びてきた」
本当だった。八センチ伸びた。よく寝て、よく食べて、勉強しているからかな。

「今、シェフになりたくて、厨房で見習いしてるんだ。朝はちゃんと剣の稽古もしてる。勉強もしてる」
父さんが、黙って聞いていた。
「父さんも、これから、頑張ってください」
少し間を置いた。
「母さんの事も、僕が守ります」

父さんが、小さく笑った。
「頼もしいな。後は頼む」
父さんが、小さく見えた。
あんなに大きく見えていた父さんが。

まだ十歳前だけど、一年で、八センチ伸びた。
父さんより、いつか背が高くなるかもしれない。​​​​​​​​​​​​​​​​

生まれた赤ちゃんの事は、あえて言わなかった。
言っても、もう多分会えないから。

妹は、まだ小さくて、何も知らない。
ふにゃふにゃして、よく泣いて、よく寝る。
父さんの顔も、知らない。
それでいいと思う。

ハロルド様が、妹をよく抱っこしている。
慣れない手つきで、でも嬉しそうに。
母さんは、そういう時、少し困った顔をしている。

ハロルド様は、まだ母さんと友達だ。
みんなに言われているらしい。
早く告白しろと、アロンソさんにも。
でも、言い出せないみたいだ。

僕には、わかる気がする。
大事だから、言えないんだろう。
でも、母さんは本当に鈍いから。
誰かが、背中を押してあげた方がいいとも思う。

ハロルド様は、まだ何も言っていない。
告白も、していない。
でも、心の中では、もう決まっていた。
ジュリアの子は、自分の子だと。ケインも、生まれてきた子も。

だから、僕は、王子様と一緒に勉強させられた。
だけど、厨房で見習いも、させてくれた。
そして、騎士団の朝の稽古に混ぜた。
何も言わずに、全部将来を考えて、やらせてくれていた。

「赤ちゃんの名前、ロレーヌ様からあやかって、ローリーにしようと思って」
ジュリアが言った。

「ロレーヌにしてほしい」
ハロルドが、強く言った。
ジュリアが、手を止めた。
「……恐れ多いです」 
ロレーヌさまの名前を、娘に、つけるなんて、
「構わない」
「でも」
「ロレーヌも、喜ぶと思う」

しばらく、ジュリアは黙っていた。
「……ロレーヌ」
小さく、呟いた。
「ローリーって呼んでもいいですか」
「好きにしろ」
ハロルドは、窓の外を見た。
目が、少し潤んでいた。
赤ちゃんの名前、ロレーヌになった。

王太子妃様から、手作りのおくるみが届いた。
淡い色の、丁寧な刺繍が入っていた。
ロレーヌと、名前が、刺繍されてた。
添えられた手紙には、一言だけ書いてあった。
ロレーヌによく似合うと思って。

ジュリアは、おくるみを胸に抱えたまま、しばらく感動で、動けなかった。​​​​​​​​​​​​​​​​



取り調べの人が、ケインに聞いた。
「アンナの家に、よく行っていたか」
「はい」
「何をしていた」
ケインは、少し考えた。
「母さんが作るより、美味しいもの、食べてました」
「それだけか」
「ずっと食べてた記憶しかないです」

でも、思い出したことがあった。
「あの、一個だけ、気になってたことがあって」
「なんだ」
「家では、母さんが三回ぐらい言わないと動かない父さんが、アンナさんちでは、すごく気を遣ってたんです」
「どういうことだ」
「机を拭いたり、鍋を運んだり。母さんには、わかったって言いながら全然動かないのに、アンナさんちでは、はいはいってすぐやるんです」
取り調べの人が、何かを書き留めた。
ケインは、続けた。
「やればできるのにって、思ってました」

取り調べの部屋を出てから、ケインはひとりで呟いた。
「母さんに、やってあげればよかったのに」


ちょっと前の話 ケインとジュリア

「子供できたら、どこに住むの?母さんと二人暮らし?」
「三人よ」
「あ、そうか」
しばらく、考えた。
そろそろ僕たちは、騎士団の、取り調べ室から、動かなければならないと、聞いた。

「母さんと、どこに住む?」
「実はね、ケイン」
母さんが、少し声を落とした。
「屋敷買えるぐらいのお金、あるのよ」
「え?」
「家政婦も雇えるわ。ずっと今までのお給料、貯めてたから」
「すごい!」
ケインが、目を丸くした。

「どこにする?王都?それとも田舎?ケインが決めていいわよ」

「うん、実は、別の話だけど」
ケインが、少し照れくさそうに言った。
「ロウエルさんに、誘われてた」
「誘われた?」
「ハロルド様のお屋敷はどうって」
母さんが、固まった。
「ハロルド様のお屋敷?あったの?」
「やっぱ、知らなかったんだ。あるんだよ」
「……そう」
「ロウエルさんの奥さんも、そこにいるらしい」
「奥さん?いたの?」
「お屋敷の侍女長らしい。何人かのハロルド様の王宮の雇い人、みんなそこにいるらしいよ。王宮に近いから」

ケインが、話を、続けた。
「食堂に、シェフがいて、僕、特別枠で雇ってもらえるらしい。王宮はじゃがいもやにんじんの下準備だけだけど、そこならもっとメニューたくさん教えてもらえるって」
「そう」
「朝練も、ロウエルさんと一緒に馬で行けるんだ」
母さんは、しばらく黙っていた。
ケインは、待った。​​​​​​​​​​​​​​​​

「ご飯作らなくていいなら、いい条件だわ」
母さんが、呟いた。
それから、少し間があって。
「実はアレから、気になってて」
「気にしてたの?」
「ちょっとね」

ケインは、にやっとした。
やっぱり、うまく味付けできないって気づいてたんだ。母さんは、味付け薄いってだけでメシマズまで行かないんだけどな。

味付けに、鈍いって、ハロルド様に言われたけど、気にしてはいたらしい。

「それまでに、シェフに教わって、僕が作るよ」
「え?」
「赤ちゃんの離乳食も、僕が作る。母さんは作らなくていい」
母さんが、少し笑った。
「頼もしいわね」
「任せて」

ケインは、心の中でガッツポーズをした。
ロウエルさんに、報告しなければ。​​​​​​​​​​​​​​​​

そういう訳で、ハロルド様のお屋敷に引っ越してきた。
案内された部屋に入ったら、隣がハロルド様の部屋だった。
「なんでー!」
母さんが、動揺していたら、向かいの部屋からロウエルさんが出てきた。

「なんだ?」
ロウエルさんの横には、別の護衛官がいた。

気づいたら、みんなハロルド様の部屋の近くに住んでいた。
ジュリアの部屋の横は、ケインだった。
なんだ、みんな近くなんだ。
少し、安心した。

実は、本当は、そんな部屋割りではなかった。
みんな、昨日大慌てで召使い棟から、こっちの部屋に引っ越ししていたのだ。
ジュリアには、内緒で。

ハロルド様は、だんだん包囲網を狭くしていた。

子供が生まれて、離婚が済んだら。
それまでは、じっと待つつもりらしかった。

そのうちケインが、ロウエルさんに聞いた。
「ハロルド様って、本当に枯れてないんですよね」
ロウエルさんが、噴き出した。​​​​​​​​​​​​​​​​
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