赤いインク

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赤色

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現場に到着したのは、通報から約十分ほどの時間がたったころだった。
 住宅地の一軒家。
 父・母・娘の家族が住む一軒家。
 不幸はそこで起こった。

 ――通報時刻 午後1時21分ごろ――
        
 玄関に設置されたインターホンを押したが反応がなく。
 ドアをこじ開けて、中に入った。

こじ開けてすぐに見えたのは、通報人と思しき女。
彼女は、家主の妻……津田・頼子。
電気もついていない、どこか薄暗い廊下の奥で佇んでいた。
「奥さん、通報を受けてまいりました。」
そう声をかけると、津田頼子はゆっくりと首を動かしこちらを見つめた。

真っ赤に晴れた目と、ほほに伝った涙の跡はいまだに忘れない。

彼女が見ていた先で、自分の娘が死んでいたんだ。
そんな顔をして当然だろう。
         

部下が家に上がり、放心状態の津田頼子を支えて家から出ていく。
私は、そんな彼女に、同情しながら現場を確認した。

薄暗い廊下を進んで突き当りの部屋。
その場に来て、その現場を見て。
         
私は、驚愕した。
  見えたものは、彼女の自室。
        
ベットがあり、ぬいぐるみがあり。
        勉強机から、本棚……。

誰もがイメージするような、女の子の部屋。
そんなものがそこにはあった。
  

しかし異常だったものは、部屋中に張り巡らされた赤い糸と、その中心で姿








―死者、津田・ななみ―

少女は、部屋中に張り巡らされた、赤い糸に固定されていた。
その姿は、まるでバレエを踊っているかのようだった。

話を聞く限り、を習っていたことはなかったそうだが。
自殺した少女の服装は、と呼ばれる。
バレエ服であった。
        
部屋隅に置かれており、彼女を撮影するように置かれてた、彼女のスマートフォンを調べたところ……数日前にこのオペラ・チュチュを購入していることが明らかとなった。
         
バレエにあこがれていて、死ぬときにこの服を選んだのだろうか?
しかし、わざわざこの服を買うだろうか。
     
彼女が来ている服は、七万円ほどするものであり。 
高校1年生の彼女にとっては、かなり高額なものである。
         
購入には、両親はかかわっておらず、自身が貯めて買ったものだと思われる。
        
おそらく、アルバイトでコツコツためていたのだろう。
だとすれば、彼女はずっと前から死ぬために、働いていたのだろうか?
 
刑事としての勘を言えば、そんな風には思えない。
自殺する人は、大体突発的であり。
 
彼女がアルバイトをしていた機関で考えれば、10か月近くの時間をかけて自殺の準備をするとは思えない。
かといって、突発的にオペラ・チュチュを買ったといった様子はなく。

彼女の検索履歴や通販サイトを見るからに、彼女が中学三年生だった時期から強度の強い赤い糸やバレエ服などを見ていたことが明らかになった。

最低でも一年以上かけて、自殺の準備をしたことになる。 
だとすれば、何が原因で死にたかったのだろうか?
 
いじめがあった事実は見つかっているが、いじめが原因で自殺を図るのなら、ここまで時間をかけるとは思えない。


           
            である。



 もしも彼女が、此処まで時間をかけて自殺を考えるなら、家庭環境なんかが原因であるだろうか?
だとしても、此処まで……言い方は悪いが、芸術的な死に方をするだろうか? 

それに彼女の死に方は、死後に脱力したとき、この体制になるように糸の長さや角度が調整されていた。
 何度も試した形跡もないため、一発でこの体制になったと考える。

偶然にしては出来すぎていて、計算にしては難易度が高すぎる。 
だとすれば、他殺である可能性が高い。
        
        

例えば、恋人か誰かがいて。
憧れでためた、バレエ服を見せようと思って部屋に招いたところを殺され。
         
         

          このような姿にされた……


だとしたら、おかしな話だ。
部屋中に貼られた糸と、彼女を吊るしている意図。
    
おそらくこの部屋を作るのには数時間はかかる。
ここまで手の込んだことをするのであれば、彼女の自宅ではないほうが、安全だ。

それに母親からの話を聞く限り、発見までの流れはこう。
         
――――――――――――――――――――――――――――――
  朝7時ごろ 家族と朝食をとり
  夫 津田 多門が出社。
            
  朝8時ごろに 母 頼子が買い物に出かける。
  この時、娘は自室にいたらしく、誰かを連れ込んでいた様子もなかったという。 
 
  また、出かける際鍵をかけており。
  帰宅した、昼一時頃に玄関は施錠されていた。
 ―――――――――――――――――――――――――――――― 


娘は出かける際、玄関のカギをかけない性格だったようであり。
どこかに出かけた様子もない。

さらに、調べたところこの家の窓や裏口は、すべて施錠されており。
完全な密室であったことから、外部からの犯行は難しい。
 
もし他殺であるならば、怪しい人物は母親であるが。
彼女の身長では、椅子や脚立を使ったとしても天井に手は届かない。
             
            
しかし、赤い糸は天井にも固定されている。
この家に住む人物で、椅子などを使って天井に手が届く人物は、娘と父親だけである。
          
            

だとすれば、父親の犯行だろうか?
しかし、父親が家を出た時間よりも後……午前11時ごろに娘はSNSに猫のイラストを投稿していた。
その時間に会社にいた父親には不可能である。
          
      

      ならば、と考えるべきだろうか?
              ――遺書――

        
もし自殺であるならば、遺書のようなものがある可能性がある。
私は、部屋中を探し回る。
引き出しの中からベットの隙間、ノートの中。
              
遺書を書き込みそうな場所は、片っ端から探した。
しかし見つからない。
                   
彼女は、遺書を書かずに……

そんな時、彼女がはいている靴に、違和感があった。
片方の靴が脱げかかっている。




気になり、その靴を外すと、中には小さなメモ帳があった。


           これがだ!
 
そう思い、メモ帳を開く。

中には、数字とアルファベットの羅列と図形……謎のスケッチがあった。
到底《とうてい》遺書とは思えない。
                     
しかし、私は一つの部分に注目した。
それはメモ帳に書かれた文字……ではなく使ったペンだ。
             
                                                     ――赤い――

「あぁ、そういうことか」
私は、何か納得のいくものが見つかった。
そして、母 頼子に尋ねる。
                                   
「すみません、お母さん。」     
 「はい」
 「お嬢さんは、高校でどんな部活に入られてましたか。」
「えーっと、美術部です。」
                     
確信した。 
 彼女の言葉で、俺は確信した。
                                 
 私は部下と鑑識に話をする。
これが他殺《自殺》か自殺《他殺》か。
    
そして皆が確信する。
                                 


鑑識が遺体にカメラを向けた。
そう、これが彼女の……


                                      ――END―― 











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