未来世界に戦争する為に召喚されました

あさぼらけex

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地球へ

第174話 強制終了は機械を傷める

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 北部戦線での激戦は終わった。
 そしてリムはアバター体に支障をきたし、脱出用システム前提での戦闘が不可能になった。
 そんなリムは新人パイロットの教官任務についた。
 その教え子達は、北部戦線の激戦を終わらせた英雄、マイの実力を信じなかった。
 戦闘機の性能、優秀なサポートAIのおかげだろと、マイの実力を認めない。
 そこでリムは、マイと教え子達との対戦を組んだ。
 同じ条件下で戦い、マイとの実力差を分からせる。
 マイの伴機に苦戦する教え子達だったが、教え子のひとりは、仲間を犠牲にして、マイの伴機二機を落とす事に成功した。


「なんて事を、なんて事をするのよ!」
 今目の前で起きた光景に、マイは怒りを抑えられない。
 仲間をふたり犠牲にしたのだ。
 マイの伴機を落とす戦法は、他にもあったはずだ。

「あんたに言われたくないわよ!
 伴機ごときだけで、自分で攻めてこなかったくせに!」
 最早一機だけになった教え子も、怒鳴り返す。
 教え子の機体も、マイの機体も、止まったままだ。

「それは仕方ないんだよ、ゼロスリー。」
 ここでふたりの会話にリムが割り込む。
「マイの機体は、そろそろエネルギーが尽きる。」
「え?」
 リムに言われて、マイは初めて気がつく。
 燃料が残り少ない事に。
 今高速飛行したら、一分も保たない。
「あっははは。」
 それを聞いて、ゼロスリーは笑い出す。
「私達を格下だと思ってなめてるから、そうなるのよ!」
 ゼロスリーは戦闘機を急発進させ、バルカン砲を撃ちながらマイの機体に迫る。

「ヒューマノイドチェンジ!」
 マイは戦闘機を人型機体に変形させ、バルカン砲をかわす。
「な、ヒューマノイドチェンジ?何考えてるのよ!」
 ゼロスリーには、マイの意図が分からない。
 人型機体は、地上戦において、その効力を発揮する。
 宇宙空間にただ浮いてるだけの人型機体は、戦闘機のいいマトでしかない。
「いや、最低限の動きでかわせる。
 燃料の少ない今、とれる戦法は、これしかない。」
 とリムは解説する。
 言われてゼロスリーはバルカン砲を撃ってみるが、マイの人型機体はわずかな動きで、たくみにかわす。

「リム!」
 解説してくるリムに、思わずマイはどなる。
 燃料切れ間近のマイの機体。
 しかし、伴機とともに自機も攻撃に加われば、この状況になる前に、戦闘は終わっていた。
 それをさせなかったのは、リムだ。
 リムはマイを燃料切れにさせ、負けさせたかったのか。
 そんな考えも一瞬わいた。
 だけどリムに対する怒りの感情は、そこではなかった。
「あなた、教え子になんて事教えてるのよ!」
 マイは怒っている。
 仲間を犠牲にしたゼロスリーの行為を。
 それを教えたであろうリムの事を!

 リムは無言のまま、帽子のつばをつまむと、帽子を目ぶかにかぶり、うつむく。
「あら、リム教官を悪く言わないでくださいな。」
 リムの代わりに、ゼロスリーが反論する。
 バルカン砲を撃ちながら。
 当然マイも、全弾最低限の動きでかわす。
「リム教官には、仲間との連携の大切さを学びました。」
「それがなんで、仲間を犠牲にする事になるのよ!」
 マイは思わず反論する。
「すまんな、マイ。私にはうまく教えられなかったみたい。」
 とリムはつぶやくが、マイの耳には入らない。

「戦闘に犠牲はつきもの!
 あなたも仲間の死で、勝利をつかみ取った事くらい、あるでしょ!」
 ゼロスリーの言葉に、マイはユアの事を思い出す。
 自分が躊躇してたら、ユアが死んだ事。
「あんたねえ!
 目の前で仲間が死ぬ哀しみが、分からないの!」
 マイは反射的に怒鳴る。
 そんなマイの身体は、いつしかほのかな青白い光に包まれる。

 バルカン砲を撃ち尽くしたゼロスリーは、今度はレーザー光線に切り替える。
 軌跡が見えるレーザー光線は、バルカン砲よりもよけやすい。
 このままでは、下手すればゼロスリーの方が先に燃料が尽きるかもしれない。
 ゼロスリーはあせる。

「頑張れゼロスリー!」
「もう少しだ、あきらめるな!」
 ここで落とされた教え子達が、ゼロスリーを応援する。
「みんな。」
 ゼロスリーはつぶやく。
「そうだ、勝ってくれ、ゼロスリー!」
「私達を犠牲にしたんだ。負けたら許さないよ!」
「あんた達まで。」
 ゼロスリーは、自分が見殺しにしたふたりからの声援が、うれしかった。

「みんなのためにも、私が勝つ!」
 ゼロスリーはレーザー光線を撃ちながら、マイの人型機体に突っ込む!
 このまま距離をとって撃ってたら、燃料が尽きるからだ。
 ゼロスリーも勝負にでた。
 しかしそんなゼロスリーの攻撃も全て、マイの人型機体は最低限の動きでかわす。
 今のマイを倒すには、もう一機あればよかった。
 例えそれが、伴機だったとしても。
 一機だけの相手に意識を集中させてればいいので、今のマイには、負ける要素はなかった。
 すれ違いざま、マイの人型機体は右腕のパンチをくりだす。
 そのパンチは、ゼロスリーの機体の右翼を破壊する。

 この動きで、マイの機体の燃料が尽きる。
 そしてゼロスリーの機体も、右翼をやられ、制御不能になる。

「うおおおお!」
 突然、マイは叫び声をあげる。
 そして蒼白い光に包まれたマイは、右手をかかげ、叫ぶ。
「来い、王狼機!」
 シミュレータの宇宙空間に、雷が走る。
 そしてマイの人型機体の背後に、巨大な人型機体のワイヤーフレームが浮かぶ。
「終了よ!この勝負、マイの勝ち!終了よ!」
 リムは叫ぶ。
 だけどリムの叫びは、マイには届かない。

 もう一度、シミュレータの宇宙空間に雷が走る。
 ワイヤーフレームの人型機体は、実体化する。

「強制終了よ、ゼロスリー!
 逃げて!」
 リムは叫ぶ。
「出来ません、強制終了出来ません!」
「そんな。」
 ゼロスリーの言葉に、リムの表情に絶望の色が浮かぶ。

 巨大な人型機体の胴体部分の装甲が開く。
 それは、マイの人型機体が収まるのに、ぴったりの大きさだった。
 つまり、超高次元空間でオメガクロスを格納したバイワンラァンよりも、この人型機体は小型だった。

「リム教官、そちらから出来ませんか、強制終了!」
「は、そうだわ!」
 ゼロスリーの言葉に、リムは思い出す。
 教官機のシミュレータからなら、強制終了が出来る事を。
「駄目。なんで止まらないのよ!」
 リムはシミュレータを叩く。
 強制終了は出来なかった。

「狼機の嘆きが大宇宙に響く時、
 次元を超え、時空を超え、狼機の王が顕現する!」
 マイの人型機体は、すでに燃料は尽きているのにもかかわらず、巨大な人型機体の開けた装甲内に吸い寄せられる。
「駄目ぇ、マイ!」
 なす術なく、リムは叫ぶ。

 ガゴン!
 突然、なんの前触れもなく、シミュレータは強制終了される。

「どうやら、間に合ったようだな。」
 絶望の表情のまま、リムは声のした方を振り向く。
 そこに居たのは、メカニックマンのジョーだった。
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