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第194話 時間圧縮
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これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
この時代に召喚されたマイ。
マイには、パートナーとしてのサポートAIがあてがわれる。
グラマラスな外見の、女性型AIだ。
このサポートAI自体にも自我があり、個性があった。
サポートAIとはその名の通り、この時代の世情に疎い、過去からの召喚者をサポートする存在である。
戦闘中のサポートはもちろん、生活面でもサポートしてくれる、頼もしい存在だ。
召喚者は額にはちまきを巻く。
このはちまきが額に当たる部分に、チップが仕込まれている。
このチップを通じて、召喚者はサポートAIとつながる。
サポートAIは召喚者の記憶や考えを漁る事が出来る。
そして情報のダウンロードも、チップを通じて可能となる。
これにより、召喚者個人個人にあった手厚いサポートが可能になる。
マイとマインは、パートナーのアイとミサに連れられ、ある場所を目指す。
そこは何処なのか。
そこに何があるのか。
マイとマインは、一切聞かされていない。
ただパートナーのサポートAIが言うがまま、ついてきただけだった。
そんなマイとマインは、列車に揺られて眠っている。
「やっと眠ってくれたな。」
ミサはマインの寝顔を見て、安堵の表情を浮かべる。
「そうね、これ以上負担はかけられないし、列車を選んで正解だったわ。」
あいずちをうつアイも、マイの寝顔を見て笑みを浮かべる。
この先の目的地に行くには、転移装置を使う手もあった。
しかしアイとミサは、その手段を取らなかった。
マインの復活以降、色々あった。
マイと衝突しそうになったり、それを回避したり。
マイとマインは、戦場に出たくらいには、疲弊していた。
この状態で、この先にある真実と向き合わせるのは、かなり酷だった。
なぜ転移装置を使わないのかと聞かれた時のため、言い訳も用意していた。
だけど、その言い訳を使わなくて済みそうだ。
「それにしても、あなた達って、あまり仲良くないみたいね。」
アイは前回のマインの様子を思い出す。
ミサに対して、文句のひとつでも言いたげだった。
「そりゃあ、こんだけ長く一緒に居れば、色々あるさ。」
ミサは思わず頭をかく。
「そう言えば、何年になるのかしら。」
「そうだな、確か十年じゃないか。」
「そうね。」
アイは、自分で聞いておいてなんだが、暗い表情を浮かべる。
「時間圧縮を十回も受けてるんだっけ。
もうマインの身は保たん。これで最後にしてほしいものだよ。」
ミサはマインの寝顔を見ながら、優しげな笑みを浮かべる。
「そうね、これが最後になるといいわね。」
とアイはつぶやく。
時間圧縮。
これを受ける事により、長期間の出来事を短期間の出来事と思うようになる。
マインはこれを十回受けていて、受けた前後の記憶は曖昧になる。
そして時間圧縮を受けた事を、マイン自身は知らない。
このマインが受けた回数は、アイのパートナーが召喚された回数と同じである。
つまりマインは、アイのパートナーが召喚されるたびに、時間圧縮を受けていた。
マインの魂は、あと二回しか、この時間圧縮には耐えられない。
そして召喚から十年経ってると言う事は、マインが元いた時代も、十年進んでいると言う事である。
この時代への召喚は、ひと夜の夢に例えられる。
それは、夢と現実とでは、時間の流れに違いがある事に由来する。
とは言え、夢の中で十年経ってる状態とは、現実世界ではどれくらい時が経ってるのだろうか。
一生生きた夢を見たけれど、炊き始めたお米がまだ炊きあがってなかったという逸話もある。
だがそれは、稀有な例だろう。
元の時代にあるマインの肉体が、きちんと保存されてない限り、マインの魂は、還る場所を無くしている。
「まあ、なんだ。」
ミサは悲しげな表情のアイを見て、アイの心中を察する。
「今度のマイが本物なら、マインも時間圧縮から解放されるって訳さ。」
とは言いながら、ミサは自分に発した言葉に、ふつふつと怒りがわいてくる。
「なあ、本当にシリウス構想って、完遂しなきゃ駄目なんか。」
ミサはマインを見つめる。
ミサの瞳は、マインをこんな宿命付けた全てを、憎悪していた。
「あなたも分かってるでしょ。
地球を取り戻すためですもの、仕方ないわ。」
アイもマイを見つめる。
アイの瞳は、マイが召喚の循環から解放されると、安堵していた。
「仕方ないだと!」
アイのその言葉に、ミサはかみつく。
「こんな事のせいで、マインは!」
思わず激昂するミサだが、アイの横顔を見てハッとする。
そう、ミサと同じ様な思いをする者が、他にもいる。
アイも、そのたびにパートナーを失い続けてきたのだ。
「すまない。
ちょっと熱くなっちまった。」
ミサはアイに謝る。
アイは首をふる。
「あなたが怒るのも、もっとだわ。」
アイはマイとマインを見比べる。
「マインに課せられた使命は、過酷すぎる。
マイの宿命も過酷だけど、それは一瞬。
マインの苦しみの長さに比べたら、ね。」
アイの言葉に、ミサは何も返さなかった。
しばらく無言のまま、列車は疾る。
「なあ、なんで人間って、あんなバカな事をしたのかな。」
しばらく続いた沈黙を、ミサがやぶる。
「知らないわよ。バカなんでしょ、人間って。」
アイは、ミサの問いに対しての答えを持っていなかった。
「そのバカどもに巻き込まれたのが、マインとマイ、それに私とおまえって訳か。」
ミサは自笑気味に吐き捨てる。
「そうね、私もごめんよ。
バカどもの尻拭いだなんて。」
アイの瞳にも、怒りの色がこもる。
列車はいつしか、目的地に着いて停車する。
しかしマイとマインは寝たままだった。
アイとミサも、起こす気にはなれなかった。
これからふたりを待ち受ける、過酷な運命。
その過酷な運命の前の安らかなひと時を、奪いたくはなかった。
この時代に召喚されたマイ。
マイには、パートナーとしてのサポートAIがあてがわれる。
グラマラスな外見の、女性型AIだ。
このサポートAI自体にも自我があり、個性があった。
サポートAIとはその名の通り、この時代の世情に疎い、過去からの召喚者をサポートする存在である。
戦闘中のサポートはもちろん、生活面でもサポートしてくれる、頼もしい存在だ。
召喚者は額にはちまきを巻く。
このはちまきが額に当たる部分に、チップが仕込まれている。
このチップを通じて、召喚者はサポートAIとつながる。
サポートAIは召喚者の記憶や考えを漁る事が出来る。
そして情報のダウンロードも、チップを通じて可能となる。
これにより、召喚者個人個人にあった手厚いサポートが可能になる。
マイとマインは、パートナーのアイとミサに連れられ、ある場所を目指す。
そこは何処なのか。
そこに何があるのか。
マイとマインは、一切聞かされていない。
ただパートナーのサポートAIが言うがまま、ついてきただけだった。
そんなマイとマインは、列車に揺られて眠っている。
「やっと眠ってくれたな。」
ミサはマインの寝顔を見て、安堵の表情を浮かべる。
「そうね、これ以上負担はかけられないし、列車を選んで正解だったわ。」
あいずちをうつアイも、マイの寝顔を見て笑みを浮かべる。
この先の目的地に行くには、転移装置を使う手もあった。
しかしアイとミサは、その手段を取らなかった。
マインの復活以降、色々あった。
マイと衝突しそうになったり、それを回避したり。
マイとマインは、戦場に出たくらいには、疲弊していた。
この状態で、この先にある真実と向き合わせるのは、かなり酷だった。
なぜ転移装置を使わないのかと聞かれた時のため、言い訳も用意していた。
だけど、その言い訳を使わなくて済みそうだ。
「それにしても、あなた達って、あまり仲良くないみたいね。」
アイは前回のマインの様子を思い出す。
ミサに対して、文句のひとつでも言いたげだった。
「そりゃあ、こんだけ長く一緒に居れば、色々あるさ。」
ミサは思わず頭をかく。
「そう言えば、何年になるのかしら。」
「そうだな、確か十年じゃないか。」
「そうね。」
アイは、自分で聞いておいてなんだが、暗い表情を浮かべる。
「時間圧縮を十回も受けてるんだっけ。
もうマインの身は保たん。これで最後にしてほしいものだよ。」
ミサはマインの寝顔を見ながら、優しげな笑みを浮かべる。
「そうね、これが最後になるといいわね。」
とアイはつぶやく。
時間圧縮。
これを受ける事により、長期間の出来事を短期間の出来事と思うようになる。
マインはこれを十回受けていて、受けた前後の記憶は曖昧になる。
そして時間圧縮を受けた事を、マイン自身は知らない。
このマインが受けた回数は、アイのパートナーが召喚された回数と同じである。
つまりマインは、アイのパートナーが召喚されるたびに、時間圧縮を受けていた。
マインの魂は、あと二回しか、この時間圧縮には耐えられない。
そして召喚から十年経ってると言う事は、マインが元いた時代も、十年進んでいると言う事である。
この時代への召喚は、ひと夜の夢に例えられる。
それは、夢と現実とでは、時間の流れに違いがある事に由来する。
とは言え、夢の中で十年経ってる状態とは、現実世界ではどれくらい時が経ってるのだろうか。
一生生きた夢を見たけれど、炊き始めたお米がまだ炊きあがってなかったという逸話もある。
だがそれは、稀有な例だろう。
元の時代にあるマインの肉体が、きちんと保存されてない限り、マインの魂は、還る場所を無くしている。
「まあ、なんだ。」
ミサは悲しげな表情のアイを見て、アイの心中を察する。
「今度のマイが本物なら、マインも時間圧縮から解放されるって訳さ。」
とは言いながら、ミサは自分に発した言葉に、ふつふつと怒りがわいてくる。
「なあ、本当にシリウス構想って、完遂しなきゃ駄目なんか。」
ミサはマインを見つめる。
ミサの瞳は、マインをこんな宿命付けた全てを、憎悪していた。
「あなたも分かってるでしょ。
地球を取り戻すためですもの、仕方ないわ。」
アイもマイを見つめる。
アイの瞳は、マイが召喚の循環から解放されると、安堵していた。
「仕方ないだと!」
アイのその言葉に、ミサはかみつく。
「こんな事のせいで、マインは!」
思わず激昂するミサだが、アイの横顔を見てハッとする。
そう、ミサと同じ様な思いをする者が、他にもいる。
アイも、そのたびにパートナーを失い続けてきたのだ。
「すまない。
ちょっと熱くなっちまった。」
ミサはアイに謝る。
アイは首をふる。
「あなたが怒るのも、もっとだわ。」
アイはマイとマインを見比べる。
「マインに課せられた使命は、過酷すぎる。
マイの宿命も過酷だけど、それは一瞬。
マインの苦しみの長さに比べたら、ね。」
アイの言葉に、ミサは何も返さなかった。
しばらく無言のまま、列車は疾る。
「なあ、なんで人間って、あんなバカな事をしたのかな。」
しばらく続いた沈黙を、ミサがやぶる。
「知らないわよ。バカなんでしょ、人間って。」
アイは、ミサの問いに対しての答えを持っていなかった。
「そのバカどもに巻き込まれたのが、マインとマイ、それに私とおまえって訳か。」
ミサは自笑気味に吐き捨てる。
「そうね、私もごめんよ。
バカどもの尻拭いだなんて。」
アイの瞳にも、怒りの色がこもる。
列車はいつしか、目的地に着いて停車する。
しかしマイとマインは寝たままだった。
アイとミサも、起こす気にはなれなかった。
これからふたりを待ち受ける、過酷な運命。
その過酷な運命の前の安らかなひと時を、奪いたくはなかった。
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