未来世界に戦争する為に召喚されました

あさぼらけex

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地球へ

第196話 ベータとアルファと、そしてゼロ

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 この時代にマイ達を召喚するきっかけとなった、ある古文書。
 この古文書の解読は困難を極めた。
 そこでこの時代の人達は、書いた本人に解読してもらう事にした。
 この古文書には、数本の髪の毛が挟まっていた。
 その髪の毛のDNAから、書いた本人のクローンを創り出した。
 倫理的に問題があるとされた、人間のクローン。
 その技術は公にされる事はなかったが、裏では着実にその技術を進歩させていた。
 この古文書を書いた人物の一生は、レコード次元の解析により、ある程度分かっていた。
 こんな素晴らしい古文書を書いた彼だったが、彼は様々な事柄に押し潰され、歴史に何も残せぬまま、その生涯を閉じた。
 そこでこの時代の人達は、彼のクローンを伸び伸びと育てた。
 彼が生前、押し潰された様々な才能が開花するように。
 それがまずかった。
 自分の生い立ちを知ったクローンは、自らのクローン軍団を創り、蜂起する。
 この時代の地球は、西暦7000年代に起きたポールシフトの爪痕から、未だ立ち直れずにいた。
 様々な化学物質に汚染された地球は、わずかな原生生物が住むだけの、死の惑星と化していた。
 クローン軍団は、そんな地球をあっさり回復させ、地球を占領してしまう。
 地球に帰還しようとする人類を、クローン軍団ははねのける。
 長い間地球を放っておいたヤツ等に、地球の土を踏む資格はないと。
 ここに一大戦争が勃発するが、クローン軍団はこれをあっさり退ける。
 この時代の人類は、地球以外の星に根付いていた。
 だから地球とは、自分達の祖先の星であっても、あまり思い入れのある星でもなかった。
 こうして表だった争いは終わるのだが、人類の望郷の念は潰えない。
 そこで人類は、ふたり目のクローンを創り出す。


 マイ達四人の前に現れた、液体漬けの少年。
 彼の口元には、マインがしてた様な酸素マスクがなかった。
 そう、おそらくこの身体は死体。
 マインは、この少年に見覚えがあるのだが、よく思い出せない。
 それは、マインをマインお姉ちゃんと呼んだあの少年なのだが、その記憶はミサによって消されている。
 この液体漬けの少年は、マインの記憶にある少年の、成長した姿の様だった。

「やっと来てくれたんだね。」
 マイとマインの頭の中に響く声。
 まだ声変わりをしていない少年の声は、女性の声の様にも聞こえる。
 マイはこの声に、覚えがあった。
「あなたは誰なの?
 何度も僕に、話しかけてきたよね?」
 それは、マイの危機を何度も救った声。
 死にかけた事もあるマイが、今ここに居られるのも、この声のお陰と言える。

「誰って、僕は君だよ。」
 少年の声は、マイにそう告げる。
「僕?
 僕はここに居るじゃん。意味分かんないよ!」
 マイは少年の悪ふざけに、少しきれる。
「あはは、ほんと、今度のマイはにぶちんさんだな。」
「え?」
 笑い飛ばす少年の言葉に、マイは覚えがあった。

 今度のマイ。
 それが意味するのは何か。
 マイはずっと考えていた。
「ねえ、アイのパートナーって、みんなマイなの?」
 マイは、アイに尋ねる。
 突然話しをふられたアイは、答えに困る。
 そしてこの話題は、数話前にマイに話して、その記憶を消している。

 少年の言葉は、マイとマインの頭にしか響いていない。
 魂ある人間には、少年の声は届く。
 しかし、サポートAIに対しては、言葉を伝える事は出来なかった。
 アイとミサは、パートナーの額のチップから、少年の声を聞いた時の感情の揺らぎを察知する事は出来る。
 そしてこの少年が何者なのか。
 アイもミサも知っている。
 これらの事から、少年とパートナー達との会話は、ある程度把握は出来る。

「僕は、何回も召喚されてるの?」
 先の質問に答えられないアイに、次の質問を続ける。
「ごめんなさい。その質問には答えら、ん、あー、あー。」
 アイは発言中に、どこかおかしくなる。
 そんなアイを、ミサは怒りのこもって目でにらむ。
「ふう、これで僕の言葉が、みんなに伝わるね。」
 少年はアイの身体に憑依する。
「え、どうしたの、アイ。」
 マイには、アイに何が起こったのか分からない。
「乗っ取られたのよ、あの少年に。」
 ここでマインは、自分の見解を述べる。

「いやー、そうじゃなくて。
 ここは、惑星ドルフレアでミイの身に起こったのと同じなんだけどな。」
 アイに憑依した少年は言うのだが、この言葉を発するのはアイだ。
 マイは少し頭がこんがらがる。
「ミイに起こった事って。」
 マイは思い出す。
 ミイの身体にナツキが憑依した事を。
「分かった、あなた神武七龍神なのね。
 あなたは神武七龍神の、、、、ゾンビドラゴン!」
 マイの言葉に、少年の憑依したアイがずっこける。
「いや、僕はそんな大それた存在じゃないから。」
「えー、そーなんだ。」
 自分の推測が外れて、マイはがっくしくる。
「じゃあ、あなたの事は、なんて呼べばいいの?」
 マイは気を取り直して、聞いてみる。

「んー、マイが好きな名前を付けてほしいな。」
「ベータ!おまえの名前は、ベータだろ!」
 少年の発言に、ミサは思わず吐き捨てる。
「えー、それはこの時代の人間が勝手に呼んでた名前じゃん。
 やだよ。僕はマイに、ちゃんとした名前を付けてほしいんだ。」
 少年は目を輝かせてマイを見る。
 と言っても少年の行動をするには、アイの身体なのだが。

「んー。」
 言われてマイは考え込む。
「メスシリンダーでホルマリン漬けだから、メス、しり、ホル、ほも、きゃっ。」
「あ、やっぱりベータでいいです。」
 マイの様子を見て、少年はベータと言う名前を受け入れる。
 マイに任せたら、変な名前をつけられそうだ。

「あなたがベータって事は、アルファもいるの?」
 ここでマインが会話に加わる。
「うん、いたよ。」
 とベータを名乗る少年は、憑依したアイの身体から答える。
「そう、ならばマイが、さしずめガンマって所かしら。」
 マインは確信を持って、改めて聞き直す。
 ベータは少し考えるそぶりをみせ、そして答える。

「いや、マイはあえて言うなら、ゼロだな。」
「え?」
 少年の答えに、驚くマインとマイ。
 少年が何を言いたいのか。
 マイは、その理由を聞きたくはなかった。
 何か恐ろしい物の片鱗を感じた。
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