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プロローグ
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それに気が付いたのは俺の手の指の数くらいの年齢である。
俺の部屋に現れたサンタクロースが何故父親だったかは知る由もないが当時の俺は自分あてのプレゼントさえもらえればよかったのだ。
だからどうしたというわけでもないが誕生日やクリスマスで貰うプレゼントにさほど感動も覚えなくなり宇宙人、未来人、超能力者も現実にいたりはしないとわかり始め世の中の断りの断片を少しずつ集めていき”大人”になっていく。
どんなに人として並外れた力を持っていても結局は人という輪の中から逃れることはできない、これは誰もが言わずとも理解していることで所謂常識なのである。
もしかしたらそれ以前の年齢で既に俺はクリスマスにしか仕事をしない赤服のじーさんや手からビームを出してでっかい怪獣を倒す特撮的アニメ的ヒーローなど信じていなかったのかもしれない。いや、気づきたくなかったのだ。外を見上げればカッコいいヒーローが戦っている世界を俺は望んでいたのだ。
そんでもって俺はそのヒーローたちの仲間で一緒に戦って、傷つきあって、助け合って、熱い言葉を交わしあって、そんな濃ゆい人生を望んでいたのだ。けれどそれは夢物語の世界で寝て夢を見て覚めればたちまち平穏な世界に帰ってきてしまう。それが世界的にも世の中的にも良いことなのだろう。
そんなことを毎日の今宵に考えてはやめてを繰り返して大した感慨もなく高校生になり――――、笛吹ユメに出会った。
◇
勉強もろくにせず戯言を考えて薄らぼんやり毎日を過ごしていた俺が学区内の私立高校に無難に進学して初めて後悔したのはこのクソダサいブレザーを着ることになってしまったことで、まじめに勉強をしていればこんなことにはならなかったわけでとか今更なことを考えているといつの間にやら入学式は終わっていて先輩たちの出し物など何一つ覚えていない俺は憂鬱な気持ちで、配属された一年三組の教室へと一年間は顔を突き合わせねばならない生徒達と足を踏み入れた。
担任なる松沖修は全員が席に座ったのを確認すると唐突に自分の紹介を始めた。
先ずに名前と四十ちょっとという年齢、体育教師であること、テニスをやっていたこと、テニスで全国レベルまでの実力はあったこと、そこまでをズラズラと飛ばして喋りまだまだ話したいことがあるような顔はしていたもののとりあえずは自分語りを終え、
「みんなに自己紹介をしてもらおう」
と言い出した。
まぁそんなことだろうとは思っていたので既に考えておいた無難な定型文を頭の片隅から取り出し自然に並べていく。始めに名前、次に出身中学校、やっていた部活、趣味や特技、こんなものだろう。
出席番号順に並んでいる右上端の席の人から一人一人立ちあがり、俺の考えていた定型文のおおよそを喋っていく。
このだんだんと自分に近づいていくときの緊張感、わかるだろ?
頭の片隅に置いていた無難な言葉を連ねていき一通り噛まずに言い終え、あぁ今日もまた平和だ、とふんわりとした解放感に包まれて俺は着席した。代わりに後ろの奴が立ち上がり――俺が生涯忘れることのないであろう彼女の自己紹介が始まった。
「後南中学出身、笛吹ユメです」
最初もこの後もなんの変哲もない自己紹介。真後ろの席で体をよじってみるのもおっくうだったがせっかくだ顔くらい拝んでやろうと何様かもわからない思考で体をよじる。
短くてなにもセットしていない髪だったが見てわかるくらいのサラサラヘアー、スクエア型の眼鏡、けっして力強くはないが大きい目。鼻立ちも整っており桃色の唇を軽く結んだ女。
美人がそこにいた。
彼女は少し教室を見渡して最後に口を開けて見とれていた俺に目を合わせると特に動じることもなく無表情で着席した。
普段は戯言をわめいている俺の脳みそに沈黙が長きにわたって走り、担任の松沖が次の生徒を指名した声で俺は我に返った。
こうして俺たちは出会っちまった。
俺の部屋に現れたサンタクロースが何故父親だったかは知る由もないが当時の俺は自分あてのプレゼントさえもらえればよかったのだ。
だからどうしたというわけでもないが誕生日やクリスマスで貰うプレゼントにさほど感動も覚えなくなり宇宙人、未来人、超能力者も現実にいたりはしないとわかり始め世の中の断りの断片を少しずつ集めていき”大人”になっていく。
どんなに人として並外れた力を持っていても結局は人という輪の中から逃れることはできない、これは誰もが言わずとも理解していることで所謂常識なのである。
もしかしたらそれ以前の年齢で既に俺はクリスマスにしか仕事をしない赤服のじーさんや手からビームを出してでっかい怪獣を倒す特撮的アニメ的ヒーローなど信じていなかったのかもしれない。いや、気づきたくなかったのだ。外を見上げればカッコいいヒーローが戦っている世界を俺は望んでいたのだ。
そんでもって俺はそのヒーローたちの仲間で一緒に戦って、傷つきあって、助け合って、熱い言葉を交わしあって、そんな濃ゆい人生を望んでいたのだ。けれどそれは夢物語の世界で寝て夢を見て覚めればたちまち平穏な世界に帰ってきてしまう。それが世界的にも世の中的にも良いことなのだろう。
そんなことを毎日の今宵に考えてはやめてを繰り返して大した感慨もなく高校生になり――――、笛吹ユメに出会った。
◇
勉強もろくにせず戯言を考えて薄らぼんやり毎日を過ごしていた俺が学区内の私立高校に無難に進学して初めて後悔したのはこのクソダサいブレザーを着ることになってしまったことで、まじめに勉強をしていればこんなことにはならなかったわけでとか今更なことを考えているといつの間にやら入学式は終わっていて先輩たちの出し物など何一つ覚えていない俺は憂鬱な気持ちで、配属された一年三組の教室へと一年間は顔を突き合わせねばならない生徒達と足を踏み入れた。
担任なる松沖修は全員が席に座ったのを確認すると唐突に自分の紹介を始めた。
先ずに名前と四十ちょっとという年齢、体育教師であること、テニスをやっていたこと、テニスで全国レベルまでの実力はあったこと、そこまでをズラズラと飛ばして喋りまだまだ話したいことがあるような顔はしていたもののとりあえずは自分語りを終え、
「みんなに自己紹介をしてもらおう」
と言い出した。
まぁそんなことだろうとは思っていたので既に考えておいた無難な定型文を頭の片隅から取り出し自然に並べていく。始めに名前、次に出身中学校、やっていた部活、趣味や特技、こんなものだろう。
出席番号順に並んでいる右上端の席の人から一人一人立ちあがり、俺の考えていた定型文のおおよそを喋っていく。
このだんだんと自分に近づいていくときの緊張感、わかるだろ?
頭の片隅に置いていた無難な言葉を連ねていき一通り噛まずに言い終え、あぁ今日もまた平和だ、とふんわりとした解放感に包まれて俺は着席した。代わりに後ろの奴が立ち上がり――俺が生涯忘れることのないであろう彼女の自己紹介が始まった。
「後南中学出身、笛吹ユメです」
最初もこの後もなんの変哲もない自己紹介。真後ろの席で体をよじってみるのもおっくうだったがせっかくだ顔くらい拝んでやろうと何様かもわからない思考で体をよじる。
短くてなにもセットしていない髪だったが見てわかるくらいのサラサラヘアー、スクエア型の眼鏡、けっして力強くはないが大きい目。鼻立ちも整っており桃色の唇を軽く結んだ女。
美人がそこにいた。
彼女は少し教室を見渡して最後に口を開けて見とれていた俺に目を合わせると特に動じることもなく無表情で着席した。
普段は戯言をわめいている俺の脳みそに沈黙が長きにわたって走り、担任の松沖が次の生徒を指名した声で俺は我に返った。
こうして俺たちは出会っちまった。
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