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新章?
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……
――『やってやりますよ』その言葉で私は意識を取り戻した。今の今まで気を失って?いたらしい。眠った覚えもないのだが……手には開かれた漫画雑誌。ページには『新章スタート!驚愕甘すぎる蜂蜜?!編』という謳い文句と共にコン太くんとバエルくんが『私たちの世界』である【ポンポンポップコーン】という題名の漫画表紙に描かれていた。軽く漫画の内容に目を通してみると、主人公のコン太くんが新たな料理を模索するためにバエルくんの自宅へ突撃するという話だった。
おかしい。バエルくんは孤児だ。幼少期、外国のスラムの料理店で皿洗いしている所を私の親――美味良家当主が拾って料理学校へ通わせて私の婚約者にした……という『設定』だ。今は美味良家の屋敷で私と一緒に暮らしている。なのに漫画では普通に両親が出て来ていて、料理店と一体化している普通の家がバエルくんの自宅として描かれている。私が存在した『設定』が消えているのだ。
私は今更異変に気が付いた。今、私がいる空間が真っ黒だという事に。上も下も右も左も真っ黒。明かりもない。音もない。何もない。自分の手足さえ見えない、いいえ、存在しなくなっている。ただ目の前に漫画雑誌が浮いている。そんな空間になっていた。
――私は 消えてしまったんだ 漫画の世界から
そう理解した。信じられないことだけれど、何故か急速に『分かってしまった』。と、同時に何かの声と思考が頭に流れ込んでくる。――私たち美味良家姉妹の婚約者、バエルくんたちライバルの人気。姉妹たちが存在することによって連載打ち切りの可能性が出た事。それにより、私が最初に消されてしまった事……
――まだ『私』という意識だけ残っているのは多分漫画内で美味良家の設定が存在しているから。本編の根幹に関わるので美味良家自体の設定を失くすのは難しい為、私はしばらくこのまま『意識体』の状態かもしれない。この黒の世界で、もしかしたら世界が終わるまで独りぼっち。でも、不思議と悲しくなかった。悲しいと思う感情も『描かれないと感じない』のだ。漫画のキャラだから。『作られたもの』だから。
それからの私は途切れ途切れに意識を取り戻し、目の前の漫画雑誌でバエルくんの様子を眺めたり、バエルくんとの『思い出』を反芻して『自分』を確かめ続けた。考えてみると私というものは全てバエルくんありきで構成されている。幼少期初めて作ったモンブランをバエルくんに綺麗だと褒められて料理が好きになった事。バエルくんが好きだと言ってくれたから得意料理がスイーツになった事。バエルくんが笑ってくれたから私もずっと笑顔でいれた事。バエルくんが私の婚約者になってくれたから私は、私は、私は――
涙が出ない。泣きたいと私は思うのに、声に出して彼の名前を呼びたいのに、何も出ない。
漫画の中の彼は屈託なく笑っていた。あの日、私の頬を撫でた時と同じ笑顔を――新しい女性キャラクターに向けていた。
――『やってやりますよ』その言葉で私は意識を取り戻した。今の今まで気を失って?いたらしい。眠った覚えもないのだが……手には開かれた漫画雑誌。ページには『新章スタート!驚愕甘すぎる蜂蜜?!編』という謳い文句と共にコン太くんとバエルくんが『私たちの世界』である【ポンポンポップコーン】という題名の漫画表紙に描かれていた。軽く漫画の内容に目を通してみると、主人公のコン太くんが新たな料理を模索するためにバエルくんの自宅へ突撃するという話だった。
おかしい。バエルくんは孤児だ。幼少期、外国のスラムの料理店で皿洗いしている所を私の親――美味良家当主が拾って料理学校へ通わせて私の婚約者にした……という『設定』だ。今は美味良家の屋敷で私と一緒に暮らしている。なのに漫画では普通に両親が出て来ていて、料理店と一体化している普通の家がバエルくんの自宅として描かれている。私が存在した『設定』が消えているのだ。
私は今更異変に気が付いた。今、私がいる空間が真っ黒だという事に。上も下も右も左も真っ黒。明かりもない。音もない。何もない。自分の手足さえ見えない、いいえ、存在しなくなっている。ただ目の前に漫画雑誌が浮いている。そんな空間になっていた。
――私は 消えてしまったんだ 漫画の世界から
そう理解した。信じられないことだけれど、何故か急速に『分かってしまった』。と、同時に何かの声と思考が頭に流れ込んでくる。――私たち美味良家姉妹の婚約者、バエルくんたちライバルの人気。姉妹たちが存在することによって連載打ち切りの可能性が出た事。それにより、私が最初に消されてしまった事……
――まだ『私』という意識だけ残っているのは多分漫画内で美味良家の設定が存在しているから。本編の根幹に関わるので美味良家自体の設定を失くすのは難しい為、私はしばらくこのまま『意識体』の状態かもしれない。この黒の世界で、もしかしたら世界が終わるまで独りぼっち。でも、不思議と悲しくなかった。悲しいと思う感情も『描かれないと感じない』のだ。漫画のキャラだから。『作られたもの』だから。
それからの私は途切れ途切れに意識を取り戻し、目の前の漫画雑誌でバエルくんの様子を眺めたり、バエルくんとの『思い出』を反芻して『自分』を確かめ続けた。考えてみると私というものは全てバエルくんありきで構成されている。幼少期初めて作ったモンブランをバエルくんに綺麗だと褒められて料理が好きになった事。バエルくんが好きだと言ってくれたから得意料理がスイーツになった事。バエルくんが笑ってくれたから私もずっと笑顔でいれた事。バエルくんが私の婚約者になってくれたから私は、私は、私は――
涙が出ない。泣きたいと私は思うのに、声に出して彼の名前を呼びたいのに、何も出ない。
漫画の中の彼は屈託なく笑っていた。あの日、私の頬を撫でた時と同じ笑顔を――新しい女性キャラクターに向けていた。
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