連載打ち切りになりそうなので私達ヒロインは消える事になりました

椎菜葉月

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第三六話『甘い罠 下地の大切さと映えの果て』1

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「皆さんごきげんよう!毎度お馴染み料理司会マスターの声大 本当(コエデカ マコト)です!今日も美食を求めていますかぁ?!――はい!観客の皆さんの熱狂も最高潮ですね!今回の料理コンテストはなんと!あの世界でも知らない者はいない美食会の重鎮!クリフ財閥が主催する過去一大規模なメチャすごーい料理コンテストです!優勝者には賞金一千万円と――なんとなんとー!クリフ財閥令嬢ハニーさんの夫となる権利を与えられるので――――す!えっ?!ハニー嬢をご存じない?!知ってる?どちらにしろご紹介しましょう!」
 会場の巨大モニターにハニーの写真が写ると観客たちと大会参加者の歓声が上がった。司会が彼女の簡単な経歴とプロフィール、そして何故かスリーサイズも読み上げモニターの写真もグラビア並みに際どい物へ変わる。何故そんな写真があるのか……?
「も~!パパったらあんな写真使うなんて娘を何だと思っているのかしら~」
 横に立つ本人――ハニーは口を尖らせつつチラチラとこちらの様子を見ている。文句言いつつ止めさせないという事は満更でもないし、むしろ自分であの際どいグラビア風の写真を提供したのだろう。俺に見せるために。
「あ~……背景の海とお前の水着のエメラルドグリーンが同じ色でイイスタ映えしそうだな」
「え、えへっ、そうでしょ。で、他には?」
「他?手に持ったトロピカルフルーツのジュースが気になる。あのグラデ綺麗だな。あの色どうやって出してるんだ?今年の流行り色も取り入れてるしバズり間違いなしだよな。うーんでも味の……」
「そこじゃなくて!ちゃんと見て!胸元とかヒップのラインとか!ドキッとかムラッとかしたでしょ?!」
「は?いや……別に」
「え――――!?」
 ……言われてみれば確かにそうだと気が付いた。ハニーは一応女で、しかもスタイルが良い。男受けしそうなプロポーションをしている。そういえば顔も良い。そんな奴が自分に胸を押し付けてきたり、水着を着て色気あるポーズをしたり、こちらに好意を向けてきたりしてきているのに――全く興味がわかない。全く感情が動かない。健全な男なのに。ハニーは俺の幼馴染で俺の……俺の……?
「……お前って、俺のなんだっけ?」
「ど、どうしたの突然?」
「お前は、クリフ財閥の令嬢で……クリフ財閥は美食界の重鎮だろ……?美食界って、他の重鎮の一族が、いや、なんでコン太と俺は顔見知りなんだっけか?コン太?どうして今あいつを思い出して――」
「バエル!」
 俺の名前を呼ぶとハニーは抱き着き、キスをしてきた。
 ――口の中に甘い塊が転がり込み、思考に霞がかかる。ハニーの甘い声が耳元で囁かれ、とろける。
「……バエルは、私の恋人、でしょ?」
「……うん」
「小さい頃からずっといっしょにいて、わたしたちはおたがいひとめぼれしあったの」
「……うん」
「こうやって、なんどもくちづけした、でしょ?」
「……うん」
「わたしのなまえをよんで?あまいあまいはちみつのようなこえで」
「ハニー……おれの、ハニー」
 おれはなんどもかのじょのなをよんだ。あまいかのじょのくちびるになんどもくちづけをおとした。あまい。あまい。はちみつのような『おれのこいびと』
 
 
 ふわりとした感覚の後、私の足は地面に着いていた。目を開け、辺りを見回すといつもの暗闇ではなくどこかの建物の廊下のようだった。遠くから聞こえてくる歓声から察するにどうやら料理コンテストが開催されているらしい。
 ――わたしは、ウマイ チミ
 久しぶりに『登場』したので自分自身を確認しようと思ったが、名前も姿も曖昧になってしまっている。多分『ネームドキャラ』ではなくいわゆる『モブキャラ』になってしまっているようだ。しかし、モブとはいえ作品から消えたはずの自分がどうして再び登場出来たのだろう?何かの手違いか、あるいは……大会という展開上、たくさんの観客を描かなくてはならない為、『私』というすでに出来上がっているキャラを使いまわしたか……あ、ありえる。
 ため息を吐くと、足が勝手に動き出した。モブキャラなのでほぼ自分の意思とは関係なく『シナリオの強制力』というのが働くらしい。向かう方向は観客席。これはやはりキャラの使い回し説が濃厚だ。……けれど、どうして自分は廊下にいたのだろう?観客ならば最初から観客席からスタートすれば良かったはず……?――と、疑問がよぎった時、廊下の角で足が止まった。何人かの男女が話している。
「おい!待てよ!変な事言うなよバエル!」
「そうよ!バエル兄さん」
 赤髪の男の子がよく通る声で叫び、臙脂髪の女の子がそれに続く。――『この漫画の主人公とヒロイン』唐黍コン太くんと私の末妹 ウマイ真心だ。その前にいるのが……バエルくんと、新キャラのハニーさん。コン太くん達が一方的に詰めているようだけれど……聞いてもいい話かは分からないが、足も動かない上にモブキャラという『存在感のなさ』で気付かれてもいないのでここは盗み聞きするしかないようである。
「だーからぁ!俺はお前たちガキの事は知らないぜ。な、ハニー?」
「ええ!まぁ、確かにバエルは幾多のコンテストで優勝してるし、色々なSNSでも百万単位のフォロワーを抱える超有名イケメン料理インフルエンサーだから知り合いになりたいのは分かるけれどぉ……」
「あ~あ、有名人は困るなぁ!アハハハハ」
「おいおいおい!?この前から変だぜ?!何かずっとぼんやりしてるし……俺とお前はポンポンポップコーンバトルした永遠のライバルだろ?!」
「ぽっぷこーんバトル?なんだそれ?ギャグ?」
「それに全然お屋敷にも帰っていないって聞いたわ……姉さまも行方不明で……バエル兄さんの大好きな、姉さまがいなくなったのよ!?」
「はぁ?ねえさま?お前の?おまえは」
 バエルくんが何かを言おうとした瞬間、廊下を甘ったるい匂いの風が吹いた。鼻と喉に絡み付き、頭の中をかき回されるような『違和感』と気持ち悪さで眩暈を感じた。それは私だけではなく、話し合っている四……違う、三人も足元がふらついているようだった。
「う……」
「大丈夫、バエル?私を見て?……コンテストが始まっちゃうわ。こんな子供達なんてほっといて行きましょ」
「あ……ああ」
「う……ぐぐ」
「コン太、しっかり……して、うう」
 この状況に何も感じていない様子のハニーさんはふらつくバエルくんの手を引いて立ち去ってしまった。そこに残されたのは床に座り込むコン太くんと真心。二人に駆け寄りたいのに体も声も出ない。『シナリオの強制力』が憎い。
 
 「……はぁ……ぅう、コン太、立てる?」
 「……」
 数分はたっただろうか?ようやく真心が立ち上がるとコン太くんに手を差し出した。……が、コン太くんはそれを無視し、一人で立ち上がる。
 「コン太?」
 「お前、誰だ?」
 「はぁ?!」
「俺!唐黍コン太!世界一のポンポンポップコーンを作る料理人になる男だ!今日はこの大会でつえー奴と戦って、優勝する!そういう事だから、じゃーな!」
「えっえっ?!ちょっ?!」
 コン太くんはそう元気に言って走り去ってしまった。明らかにおかしい。コン太くんは幾度も真心と戦いお互いに力を認め合って、そして真心に勝てたら結婚してくれ!とまで告白した仲なのに……真心もショックなのか動けなくなっているようだ。
「――真心」
「えっ……姉さま!」
 驚いた。体が勝手に動いて真心の前に出て行ったこと――もだが、自分の声が『初めて音になった』。私の言葉は今まで、漫画的表現で言うと『吹き出し』が無かったが今はしっかりと吹き出しの中に『セリフ』が乗っている。
「姉さまっ……ふぇええ……姉さま、今までどこに行っていたの……真心はとても心配して……うぇええん」
「ごめんね。少し調査をしていたの――今のコン太くんやバエルくんの様子、いいえ、最近周りがおかしくなっていたでしょう?」
「うん!うん、そうなの!姉さま達皆いなくなってしまって、でも誰も心配していなくて、むしろ最初からいなかったみたいな反応で……ウマイ一族の存在を皆忘れてしまったみたいで……私、私も……ふぇ……姉さまの名前……分からなくなって、しまって……」
 真心は小さな体を震わせ、私の胸に抱き着いて泣いた。普段は年上にも引かない気の強いしっかり者だが、まだ小学生。家族が突然消えてしまって、最後の支えだったコン太くんも自分を忘れて立ち去ってしまったのだ。心が圧し潰されてしまってもおかしくはない。私はそんな末妹の涙を優しく拭ってあげた。
「真心。大丈夫。地味姉さまに任せて」
「チ……ミ…チミ姉さま」
「そう、私は、私は美味良地味。美味良家の次女で貴女の姉さま――地の味を知り尽くし、サポートマイスターの二つ名を持つ特級調理師。今回の事件の調査をする為、私の隠密スキルで姿を隠していたの。行きましょう、真心。皆の目を覚まさせるわ」
 ――私、裏でそんな『設定』にされていたの?自分の意図しないセリフに驚く。確かに二つ名や特級調理師なのは自身も認識している事実だ。けれど私は今までずっと暗闇の中にいたから事件の調査なんて……ある。『存在していないはずの記憶がある』。私の存在感のなさを利用し、闇に紛れて幾多の場所へと潜入して調査した。『美味良家の存在が世間から消されてしまった怪事件』の事を。
 
【はじける美味さ!ポンポンポップコーン!第三六話『甘い罠  下地の大切さと映えの果て』】
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