truth

宇奈月希月

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 岡村よもぎ、17歳。
 夏休み明けである9月、親の転勤により転校することになった。
 そこは、今年出来たばかりの新設校のため、生徒数が少ない上、二年生以降は編入生のみで構成されていた。教室の生徒の少なさに、一瞬田舎に来てしまったのかと錯覚したぐらいである。
「まだこの学校のことわからないでしょう?良かったら案内するよ?」
 ぼーっと窓の外を眺めていると、眼鏡をかけた真面目そうな少年に話しかけられた。
「ありがとう。助かるよ」
 ふと微笑んで言えば、彼もにっこりと微笑んだ。
「あ、僕の紹介してなかったよね。林川葦差いさし、このクラスの学級委員だよ」
 それっぽいなと思いながら見つめていると、彼の後ろからひょっこりと別の男子が現れた。
「なになに?いーちゃんってば、早速ナンパ?」
「誰がナンパするんだ!お前と一緒にするなよ!」
「俺がいつナンパしたって?岡村さん、気をつけた方がいいよ?こいつさりげなーく女好きだから」
「その言葉、そのまま返すからな!」
 言い合いを始めるが、すぐに名乗ってない方の男子が慌てて名乗りだした。
「あっ!俺、源時和ときわ。よろしく!」
 時和はそう言って、片手を差し出してきた。蒿はその手を掴み、「よろしく」と微笑み返した。
「ダメだよ!そんな男に騙されちゃ!」
「ただの挨拶だろ?」
「よく言うよ!それで何人の女を落としたんだ?」
「全く、人聞きの悪い。よくそれで学級委員なんか務まるな」
 そして、再び彼らの口喧嘩が始まった。それを苦笑しながら眺めていた蒿は、ふと時計を見、慌てた。
「あ、ごめんね。先にお邪魔させてもらうね!」
 そう言うと、二人の返事を待たずに蒿は教室を後にした。

「うぅ……こんなことになるんだったら、道ぐらい聞いとくんだった……」
 蒿は校舎内をうろうろと彷徨っていた。
「あれ?もしかして……今日転校してきたばかりの、えっと……岡村さん?」
 背後から声を掛けられ振り向けば、男子がぽつんと立っていた。
 蒿がきょとんと首を傾げると、彼もきょとんとしながら近づいてきた。
「あー……誰だかわかんないよね?同じクラスの相川之比蕗のびるだよ」
「えっと……確か、前の席だったよね?」
「覚えてくれてたんだ!出席番号が近いからね。それより、こんなところでどうしたの?」
 優しい笑顔を浮かべながら問う之比蕗に、蒿は困り顔で答えた。
「あ、あのね、三年の教室に行きたいんだけど……その、道に迷っちゃって……」
「来たばっかりだもんね。こっちだよ」
 そう言うと、彼は踵を返して、蒿の前を歩み始めた。

「もうっ!蒿!遅いわよ!」
 三年の教室へと辿り着いた蒿は、之比蕗に向かって礼を述べていると、突然後ろから怒声が聞こえた。
「ごめんってば。来たばっかで道迷ったんだもん」
「そんなの知ったことじゃないわよ!」
 あまりの我が儘ぶりに、蒿は思わず頭を抱えた。
「えっと……会いたかった人とも会えたみたいだし、俺行くね」
「あ、う、うん。ありがとう!とっても助かったよ!」
 蒿はそう之比蕗に言ったが、先程まで怒っていた少女が口出しした。
「あら?やだ……蒿、初日から男誑かしてたの?」
「違うよ!クラスメイト!お姉ちゃんと一緒にしないでよ!」
「何ですって!?私がいつ男誑かしたって!?」
 口喧嘩をし始めた岡村姉妹に、之比蕗は止めるに止められず、途方に暮れていた。
 そこに時和と葦差が現れた。
「あれ?岡村さん?……と、之比蕗ちゃん?」
「“ちゃん”は止めろよ」
「岡村さん、帰ったんじゃないのか?なんで相川と?」
 葦差の問いに答えようと、之比蕗が口を開いた瞬間、さらに質問を重ねる時和の声が聞こえた。
「ってか、岡村さんと一緒にいる、あの美女誰?」
「……お姉さんだって」
「え!?姉妹揃って美人なんだ!」
「おい、源。そういう風に人見るのやめろよ」
 葦差が呆れながら言った頃、やっと姉妹喧嘩が終わったらしく、蒿が話しかけてきた。
「あれ?時和くんに葦差くん?どうかしたの?」
「あ!名前覚えてくれたんだ!嬉しいな!」
「ちょっとね、委員会の帰り。で、そちらは?」
 葦差のその言葉に蒿は慌てた。
「え?ああ……私の姉貴の……」
「岡村すみれです。よろしくね」
 蒿と違って、やや色気を含んだ笑みを零す菫に、姉妹でも違うな、と悟った。

「なぁ……お前ら、蒿ちゃん派?それとも、菫さん派?」
「はぁ?」
 翌朝、教室にて、突然の時和の問いに、思わず之比蕗は素っ頓狂な声を上げた。
「まだそんなこと言ってるのか?」
 ずっと読んでいた本から目を離して、葦差もそう呟いた。
「だってさ、蒿ちゃんは可愛い系だろ?で、菫さんは美人系ときたもんだ。好み分かれると思うんだけど?」
「……で、そういう時和は?」
「それを迷ってるんだろ!?」
 時和は声を荒げるが、すぐに之比蕗と葦差の溜め息が聞こえてくる。
「……どっちにしろ、抜け駆けはなしだぞ?」
 さらに続けた時和の言葉に、之比蕗も葦差もさらに深い溜め息をついた。
「どうしたの?男子ばかりが集まって」
 その呆れた空気をぶち破ったのが、噂中の蒿だったため、三人は驚いて、肩を上げた。

「なあ、源のこと、どう思う?」
「今更だろ?あいつの女好きは今に始まったことじゃない」
 之比蕗の言葉に、葦差は呆れたような表情をした。
「そうだけども……今回、珍しくあいつから押してるんだぞ?本気なのかな、って」
「どうだかな。ただ、この学校女子少ないから、そのせいじゃないのか?だいいち、姉妹で迷ってたじゃないか」
 その言葉に、之比蕗も腕を組みながら考え始めたが、葦差はそれをちらりと見ながら問うた。
「……そもそも、相川がそんなこと気にするなんて珍しいな、って思う」
「え?俺?」
 それに頷き返しつつ、葦差は続けた。
「だから、気になってるのは、相川も同じなんだな、って」
「え?『も』ってことは、林川も、ってことか?」
「…………さあ、どうだろうな」
 ぷいっとそっぽを向かれ、之比蕗は「あっ!ずるいぞ!」と叫んだ。

「……お姉ちゃん、本気なの?」
「そうねぇ……年下なのはちょっと気になるけど、まあ別にそこまで問題じゃないわね。ね?お願い」
 一緒にお昼を食べていた菫は、妹に向かって手を合わせていた。
 姉がこんなに妹を頼るなんて、とても珍しいことで、蒿は激しく困惑していた。
「いや、でも、そういうのは妹を頼らずに……」
 蒿の言葉に、菫は口を尖がらせる。
「じゃあ、一緒に来てよ」
 あまりの傲慢な言い方に、何で私が……と悪態をついてみるが、こうと決めた姉には何も効かないのは、経験上わかっている。
 結果、頷くことしかできない蒿だった。

 その日の放課後。
「葦差くん、ちょっと話あるんだけど……いいかな?」
 蒿からの突然の呼び出しに、葦差の他に、之比蕗も時和も目を点にしていた。
「さ、さすがにこれはやばくないか!?」
「だったら帰ればいいだろ?」
 之比蕗と時和は二人を追って、校舎の影に隠れていた。
 その視線の先には、葦差と蒿……ではなく、葦差の前に菫が立ちふさがっていた。そして、菫がゆっくりと口を開く。
「私、林川くんのこと……」
 予想外の展開に、影に隠れて見ていた二人は、あんぐりと口を開けた。
「え……意外すぎる……菫さんの好みって、まさかのいーちゃんだったのか……」
 時和は落ち込んだ声を上げたものの、すぐにシャキッとして、話を続けた。
「と、いうことは、ライバルが減った上に、蒿ちゃんへの一択になったというわけか」
「またそういう言い方する。だからいつも勘違いされるんだぞ」
「じゃあ何だ?之比蕗ちゃんは蒿ちゃんの争奪戦に参加しない、と?」
「何だよ、それ……いつ、どこで、誰が、参加しないって言ったんだ?」
 ライバルの減った二人は、校舎の物陰から火花を散らしていた。

 蒿がこのことを知るのはもう少し後の話。
 それまで二人は、当分の間、いがみ合うことになるし、蒿の鈍感っぷりが発揮されることにもなるが……。
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