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「36」℃の揺らめき
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「到着~!」
ケイタがそう言いながら自転車をコンビニの前で止めると、
やや間が空いてから、シンジが自転車の後ろからぎこちない動作で降りた。
今日、シンジと初めて話をした。
それから約2時間。ケイタが話すばかりで、シンジはそれを聞いているだけだ。
そして、ケイタが何か質問をすると、若干の間をおいて、
シンジは一言二言、必要最低限の返答をする。
まるで、ニュース番組の中継レポートみたいだ、とケイタは思う。
自分がスタジオにいて、シンジは中継先。
中継先に問いかけると、不自然な空白の後に、端的な答えが返ってくる。
そんな言葉のキャッチボールに、ケイタは慣れない。
「じゃあな、バイト頑張れよ。」
ケイタがそう言うと、シンジはぽつりと、ありがとう、とだけ言い、
くるりと背を向けて、とぼとぼと歩きだした。
少しずつ離れて行くシンジの頼りない背中を見ていたケイタだったが、
自分とコンビニの入り口との半ばまでシンジが歩いたところで声をあげた。
「おい、7!」
ピクッとシンジの背中が縮み、そのままゆっくりと身体が捻られて、
シンジの顔がこちらを向いた。
少し暗くなり始めた空の下で、シンジの透き通りそうなほど白い顔と
それとは対照的に真っ黒なメガネの縁がひっそりと浮かび上がっている。
「また明日な!3週間よろしくな!」
ケイタがそう言って手を振ると、シンジはこくりと頷き、
身体を正面に向け直して、再び歩き始めた。
シンジがコンビニの自動ドアに近づきドアが開くと、
店内の賑やかな音楽がケイタの元まで流れてきた。
そしてシンジが店内に入って行くと、ドアが閉まり、
また夕暮れ時のしんとした静けさがケイタを包んだ。
少しの間、シンジが消えていったコンビニの方をなんとなく見ていたケイタだったが、
なんだか急に可笑しくなり、ふふっと小さく笑って、自転車のペダルをこぎ始めた。
「愛想ねぇなー。」
笑みを浮かべ、独り言を言いながら、今来た道を戻り、自宅へと向かう。
この2時間で見たシンジの表情を思い出す。
どれも同じ顔。大きく見開かれた目がゆらゆらと揺れている。
その目とは対照的に、あまり動きを見せない口。
キュッと結ばれていて、見ているこっちまで肩に力が入りそう。
ケイタがこれまで接してきた友人たちとは明らかに違っていた。
周りの連中は、その感情がはっきりと表情に表れる。
嬉しい、悲しい、楽しい、悔しい、ムカつく。
まるでテレビのチャンネルをリモコンで変えていくように、
コロコロと変わるその色合い。
そのおかげで、相手が何を考えているのか、直感的にわかる。
でも、シンジの場合は違う。
まるで、いつまでも同じ映像。
そう、例えば焚き火の映像を映しているテレビ画面を見ている感じ。
ずっと同じに見えるけれど、その同じ映像の中で、柔らかな炎がゆらゆらと揺れている。
その変化を見つけだし、その意味を読み取ろうとするのだが、
もう次の瞬間にはその形がなくなっている。
それでも、映像全体は、相変わらず焚き火の炎。
その揺らめきが、穏やかな喜びを意味しているのか、
切ない悲しみを意味しているのか、もしくは何も意味していないのか。
どれだけ見ていてもわからない。
その炎は人肌の温度のように、触れてみても何も感じないような気がした。
人肌は確か、36℃。
掴み所のない、触れていても触れていないような、実感のない炎。
でも、ケイタはその炎の揺らめきをずっと見ていられる気がする。
意味はわからなくても、何故だか心が落ち着く。
わからないから、わかろうとするし、
わからないなら、わからなくてもいいや、とも思う。
「ま、なんだっていいや!」
また独り言を口にして、思いっきり立ちこぎをしてスピードを上げていく。
言葉にならない、むずがゆい感情を心の中に感じながら。
ケイタがそう言いながら自転車をコンビニの前で止めると、
やや間が空いてから、シンジが自転車の後ろからぎこちない動作で降りた。
今日、シンジと初めて話をした。
それから約2時間。ケイタが話すばかりで、シンジはそれを聞いているだけだ。
そして、ケイタが何か質問をすると、若干の間をおいて、
シンジは一言二言、必要最低限の返答をする。
まるで、ニュース番組の中継レポートみたいだ、とケイタは思う。
自分がスタジオにいて、シンジは中継先。
中継先に問いかけると、不自然な空白の後に、端的な答えが返ってくる。
そんな言葉のキャッチボールに、ケイタは慣れない。
「じゃあな、バイト頑張れよ。」
ケイタがそう言うと、シンジはぽつりと、ありがとう、とだけ言い、
くるりと背を向けて、とぼとぼと歩きだした。
少しずつ離れて行くシンジの頼りない背中を見ていたケイタだったが、
自分とコンビニの入り口との半ばまでシンジが歩いたところで声をあげた。
「おい、7!」
ピクッとシンジの背中が縮み、そのままゆっくりと身体が捻られて、
シンジの顔がこちらを向いた。
少し暗くなり始めた空の下で、シンジの透き通りそうなほど白い顔と
それとは対照的に真っ黒なメガネの縁がひっそりと浮かび上がっている。
「また明日な!3週間よろしくな!」
ケイタがそう言って手を振ると、シンジはこくりと頷き、
身体を正面に向け直して、再び歩き始めた。
シンジがコンビニの自動ドアに近づきドアが開くと、
店内の賑やかな音楽がケイタの元まで流れてきた。
そしてシンジが店内に入って行くと、ドアが閉まり、
また夕暮れ時のしんとした静けさがケイタを包んだ。
少しの間、シンジが消えていったコンビニの方をなんとなく見ていたケイタだったが、
なんだか急に可笑しくなり、ふふっと小さく笑って、自転車のペダルをこぎ始めた。
「愛想ねぇなー。」
笑みを浮かべ、独り言を言いながら、今来た道を戻り、自宅へと向かう。
この2時間で見たシンジの表情を思い出す。
どれも同じ顔。大きく見開かれた目がゆらゆらと揺れている。
その目とは対照的に、あまり動きを見せない口。
キュッと結ばれていて、見ているこっちまで肩に力が入りそう。
ケイタがこれまで接してきた友人たちとは明らかに違っていた。
周りの連中は、その感情がはっきりと表情に表れる。
嬉しい、悲しい、楽しい、悔しい、ムカつく。
まるでテレビのチャンネルをリモコンで変えていくように、
コロコロと変わるその色合い。
そのおかげで、相手が何を考えているのか、直感的にわかる。
でも、シンジの場合は違う。
まるで、いつまでも同じ映像。
そう、例えば焚き火の映像を映しているテレビ画面を見ている感じ。
ずっと同じに見えるけれど、その同じ映像の中で、柔らかな炎がゆらゆらと揺れている。
その変化を見つけだし、その意味を読み取ろうとするのだが、
もう次の瞬間にはその形がなくなっている。
それでも、映像全体は、相変わらず焚き火の炎。
その揺らめきが、穏やかな喜びを意味しているのか、
切ない悲しみを意味しているのか、もしくは何も意味していないのか。
どれだけ見ていてもわからない。
その炎は人肌の温度のように、触れてみても何も感じないような気がした。
人肌は確か、36℃。
掴み所のない、触れていても触れていないような、実感のない炎。
でも、ケイタはその炎の揺らめきをずっと見ていられる気がする。
意味はわからなくても、何故だか心が落ち着く。
わからないから、わかろうとするし、
わからないなら、わからなくてもいいや、とも思う。
「ま、なんだっていいや!」
また独り言を口にして、思いっきり立ちこぎをしてスピードを上げていく。
言葉にならない、むずがゆい感情を心の中に感じながら。
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