15 / 23
15
心臓の音「1」つ
しおりを挟む
「じゃあ、私は担任の先生と話してくるから。
すぐに戻るわね。」
保健室のベッドに仰向けで寝ているシンジの耳に先生の声が聞こえてくる。
ぼーっとした頭でそれを聞きながら、天井の規則性のない模様を眺める。
確か、昼休みに食事を取っていて、急に意識が遠のいたんだっけ。
最後に見たのは、振り返るケイタの姿。
ベッドサイドのパーテーションがさっと開き、ケイタが姿を見せた。
ケイタの顔がぼやけて見えたことで、シンジは自分がメガネを掛けていないことに気づく。
保健室の先生が外してくれたらしい。
いつになく真面目な顔つきのケイタがベッド脇の丸椅子に腰掛ける。
膝の上で両手をぎゅっと握りしめている。
「もう大丈夫か?」
ケイタに聞かれ、やはり自分は気を失ったのだとシンジは確信した。
「気分悪いのか?」
ケイタがじっと自分を見つめているのがわかる。
シンジはゆっくりと首を振り、身体を横に向け、ケイタと向き合う。
外から部活動生の掛け声が聞こえてくる。
「もう放課後?」
シンジがそう聞くと、ケイタはゆっくりと頷いた。
「お前、ずっと寝てたんだ。」
ケイタは相変わらず神妙な面持ちだ。
「勉強は?今日はどの教科だっけ?」
シンジがそう言って、上体を起こそうとすると、ケイタが腕を伸ばしてそれを制した。
「もういいよ。勉強は。」
シンジは訳が分からず、ただケイタの方を見つめる。
「お前さ、俺に勉強教えてるせいで、宿題する時間無くしてたんだろ?」
シンジはまだ黙っている。
「先生に聞いた。俺、バカだよな。
ちょっと考えたら分かることだよな。」
ケイタがずっと暗い理由が分かってきて、シンジは余計に言葉が出なくなる。
「お前が放課後、いつも勉強してる時間に俺が勉強教わるってことは、
その分、お前が勉強できなくなるってことだよな。
そのあとバイトがあって、宿題するなら、それから。」
ケイタの声を聞きながら、シンジはこの3週間弱のことを思い返す。
確かに身体的には辛いと思うこともあったけど、それを嫌に思ったことはなかった。
これまで、誰にも頼られたことがなかった。
誰にも顧みられることなく生きてきた。
そんな自分が初めて人の役に立てるチャンスがきた。
その相手がケイタだった。それが何より嬉しかった。
「俺のせいだな。ごめんな。」
そう言って、ケイタはその坊主頭を膝につきそうなほど下げて、謝った。
「や、やめてよ!」
自分でも驚くほど大きな声が出たが、シンジは言葉を止められなかった。
「あ、謝らないでよ。僕、楽しかったから。
全然、無理矢理とか、嫌々とか、そんなんで教えてた訳じゃない。」
ケイタは顔を上げたが、何も言わない。
「だ、だから、き、君が申し訳なく思う必要ない。
僕が好きで教えてたんだから。」
自分の口から「好き」という単語が出てきたことにシンジは内心驚いた。
最後に「好き」と言ったのは何年前だろうか。
人にも物にもそんな感情をずっと抱かずに過ごしてきた。
そのことに今気づいた。
「だから、早く教科書出してよ。」
そう言って起き上がろうとしたが、
もう一度ケイタの大きな手に肩を押さえつけられた。
中腰になったケイタの顔がすぐ目の前にある。
シンジは言葉を無くしてしまう。
「わかったから。起き上がるなって。」
不思議と身体中の力が抜けるのをシンジは感じて枕に頭をつけた。
「今日はもういいから。明日、最後の仕上げで勉強教えてよ。」
その言葉を聞いて、シンジは約束の3週間が終わってしまうことを実感する。
心を親指と人差し指でつねられたような、微かだけど、鋭利な痛みに襲われる。
「それと、もう一つ頼んでもいいか。」
ケイタにそう言われ、シンジはぼやけた目でケイタの方を見つめる。
「自分のこと、もっと俺に話してくれよ。
二人でいても、いっつも俺が自分のこと話してばっかだろ。
今回の倒れちゃったこともそうだけどさ、
俺、言われないとわかんねーんだよ。
お前みたいに頭良くないんだよ。」
そう言った後、ケイタがすっと腕を伸ばしてきた。
シンジの目にかかった前髪をかき分け、おでこに大きな手のひらを乗せる。
シンジは大きく目を見開き、口を真横に結んでケイタを見つめる。
心臓が一つ、とくん、と音を立てた。
それでもシンジはケイタから目が離せない。
「それに、俺、もっとシンジのこと、知りたい。」
あだ名の「7」ではなく、「シンジ」と呼ばれ、
心臓がもう一度、今度はさっきより少し大きな音を立てた。
「話したくないことは無理に話す必要ないけどな!」
ケイタはそう言うと、シンジのおでこから手を離し、
今度はシンジの頭を強く撫でた。
髪の毛がくしゃくしゃになっていく。
この時にはケイタの声はいつもの明るい調子に戻っていた。
ケイタの手が頭から離れた瞬間、保健室の扉が開く音がした。
パーテーションの隙間から、保健室の先生が顔を覗かせる。
「あら。気づいたのね。
なんだか、顔が赤いけど、大丈夫?」
そう尋ねられ、シンジは小さく頷きながら、布団に顔を埋めた。
心臓はずっと激しく動き続けていた。
すぐに戻るわね。」
保健室のベッドに仰向けで寝ているシンジの耳に先生の声が聞こえてくる。
ぼーっとした頭でそれを聞きながら、天井の規則性のない模様を眺める。
確か、昼休みに食事を取っていて、急に意識が遠のいたんだっけ。
最後に見たのは、振り返るケイタの姿。
ベッドサイドのパーテーションがさっと開き、ケイタが姿を見せた。
ケイタの顔がぼやけて見えたことで、シンジは自分がメガネを掛けていないことに気づく。
保健室の先生が外してくれたらしい。
いつになく真面目な顔つきのケイタがベッド脇の丸椅子に腰掛ける。
膝の上で両手をぎゅっと握りしめている。
「もう大丈夫か?」
ケイタに聞かれ、やはり自分は気を失ったのだとシンジは確信した。
「気分悪いのか?」
ケイタがじっと自分を見つめているのがわかる。
シンジはゆっくりと首を振り、身体を横に向け、ケイタと向き合う。
外から部活動生の掛け声が聞こえてくる。
「もう放課後?」
シンジがそう聞くと、ケイタはゆっくりと頷いた。
「お前、ずっと寝てたんだ。」
ケイタは相変わらず神妙な面持ちだ。
「勉強は?今日はどの教科だっけ?」
シンジがそう言って、上体を起こそうとすると、ケイタが腕を伸ばしてそれを制した。
「もういいよ。勉強は。」
シンジは訳が分からず、ただケイタの方を見つめる。
「お前さ、俺に勉強教えてるせいで、宿題する時間無くしてたんだろ?」
シンジはまだ黙っている。
「先生に聞いた。俺、バカだよな。
ちょっと考えたら分かることだよな。」
ケイタがずっと暗い理由が分かってきて、シンジは余計に言葉が出なくなる。
「お前が放課後、いつも勉強してる時間に俺が勉強教わるってことは、
その分、お前が勉強できなくなるってことだよな。
そのあとバイトがあって、宿題するなら、それから。」
ケイタの声を聞きながら、シンジはこの3週間弱のことを思い返す。
確かに身体的には辛いと思うこともあったけど、それを嫌に思ったことはなかった。
これまで、誰にも頼られたことがなかった。
誰にも顧みられることなく生きてきた。
そんな自分が初めて人の役に立てるチャンスがきた。
その相手がケイタだった。それが何より嬉しかった。
「俺のせいだな。ごめんな。」
そう言って、ケイタはその坊主頭を膝につきそうなほど下げて、謝った。
「や、やめてよ!」
自分でも驚くほど大きな声が出たが、シンジは言葉を止められなかった。
「あ、謝らないでよ。僕、楽しかったから。
全然、無理矢理とか、嫌々とか、そんなんで教えてた訳じゃない。」
ケイタは顔を上げたが、何も言わない。
「だ、だから、き、君が申し訳なく思う必要ない。
僕が好きで教えてたんだから。」
自分の口から「好き」という単語が出てきたことにシンジは内心驚いた。
最後に「好き」と言ったのは何年前だろうか。
人にも物にもそんな感情をずっと抱かずに過ごしてきた。
そのことに今気づいた。
「だから、早く教科書出してよ。」
そう言って起き上がろうとしたが、
もう一度ケイタの大きな手に肩を押さえつけられた。
中腰になったケイタの顔がすぐ目の前にある。
シンジは言葉を無くしてしまう。
「わかったから。起き上がるなって。」
不思議と身体中の力が抜けるのをシンジは感じて枕に頭をつけた。
「今日はもういいから。明日、最後の仕上げで勉強教えてよ。」
その言葉を聞いて、シンジは約束の3週間が終わってしまうことを実感する。
心を親指と人差し指でつねられたような、微かだけど、鋭利な痛みに襲われる。
「それと、もう一つ頼んでもいいか。」
ケイタにそう言われ、シンジはぼやけた目でケイタの方を見つめる。
「自分のこと、もっと俺に話してくれよ。
二人でいても、いっつも俺が自分のこと話してばっかだろ。
今回の倒れちゃったこともそうだけどさ、
俺、言われないとわかんねーんだよ。
お前みたいに頭良くないんだよ。」
そう言った後、ケイタがすっと腕を伸ばしてきた。
シンジの目にかかった前髪をかき分け、おでこに大きな手のひらを乗せる。
シンジは大きく目を見開き、口を真横に結んでケイタを見つめる。
心臓が一つ、とくん、と音を立てた。
それでもシンジはケイタから目が離せない。
「それに、俺、もっとシンジのこと、知りたい。」
あだ名の「7」ではなく、「シンジ」と呼ばれ、
心臓がもう一度、今度はさっきより少し大きな音を立てた。
「話したくないことは無理に話す必要ないけどな!」
ケイタはそう言うと、シンジのおでこから手を離し、
今度はシンジの頭を強く撫でた。
髪の毛がくしゃくしゃになっていく。
この時にはケイタの声はいつもの明るい調子に戻っていた。
ケイタの手が頭から離れた瞬間、保健室の扉が開く音がした。
パーテーションの隙間から、保健室の先生が顔を覗かせる。
「あら。気づいたのね。
なんだか、顔が赤いけど、大丈夫?」
そう尋ねられ、シンジは小さく頷きながら、布団に顔を埋めた。
心臓はずっと激しく動き続けていた。
0
あなたにおすすめの小説
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
先輩たちの心の声に翻弄されています!
七瀬
BL
人と関わるのが少し苦手な高校1年生・綾瀬遙真(あやせとうま)。
ある日、食堂へ向かう人混みの中で先輩にぶつかった瞬間──彼は「触れた相手の心の声」が聞こえるようになった。
最初に声を拾ってしまったのは、対照的な二人の先輩。
乱暴そうな俺様ヤンキー・不破春樹(ふわはるき)と、爽やかで優しい王子様・橘司(たちばなつかさ)。
見せる顔と心の声の落差に戸惑う遙真。けれど、彼らはなぜか遙真に強い関心を示しはじめる。
****
三作目の投稿になります。三角関係の学園BLですが、なるべくみんなを幸せにして終わりますのでご安心ください。
ご感想・ご指摘など気軽にコメントいただけると嬉しいです‼️
【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。
或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。
自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい!
そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。
瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。
圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって……
̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶
【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ
番外編、牛歩更新です🙇♀️
※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。
少しですが百合要素があります。
☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました!
第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
嫌いなあいつが気になって
水ノ瀬 あおい
BL
今しかない青春だから思いっきり楽しみたいだろ!?
なのに、あいつはいつも勉強ばかりして教室でもどこでも常に教科書を開いている。
目に入るだけでムカつくあいつ。
そんなあいつが勉強ばかりをする理由は……。
同じクラスの優等生にイラつきを止められない貞操観念緩々に見えるチャラ男×真面目で人とも群れずいつも一人で勉強ばかりする優等生。
正反対な二人の初めての恋愛。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる