兄が度を超えたシスコンだと私だけが知っている。

ゆき

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伯爵家の次男坊

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進級してどこかそわそわした教室、注目を一心に集めるのはウォルター様と同じキャラメル色の髪色をした彼だった。

ユーリ・シュゼット。


ウォルター様の弟で、伯爵家の次男の彼は、噂通り女性と仲良くなるのが得意らしい。

彼の座席の周りにはたくさんの女の子が集まり楽しげに話している。


どんな人なのか気になるところではあるが、きっとウォルター様から私についてあることないこと聞いていると思うのでこちらから接触することはしない。

あちらからもないだろう。


そう、思っていた。


「僕、カティア様に学園案内して欲しいなぁ」


ダメ?なんて首を傾げて言う彼が、目の前に現れるまでは。


「どうして、私なのですか?」

「え~?だって僕たちこれから親戚になる予定だし?」

カティア様、なんて呼んではいるものの、その口調は砕けていて、爵位の差などまるで気にしていないようだった。

…彼は、人の懐に入り込むのが上手なのかもしれない。


人によっては不敬ともとられる彼の態度だが、人や場を見極めて判断しているのがわかる。



「そうですか…わかりましたわ」

「わあい、ありがとうカティ」

すでに愛称で呼んでくる彼に思わず苦笑いが漏れた。



「僕のこともユーリって呼んで?敬語もやめてほしいなー」

「わかったわ、ユーリ」


私がそう言うとユーリはにっこり笑った。

優しい笑顔はどこかウォルター様に似ているかもしれない。


随分と前にパーティーで見た顔が脳裏に過った。

うん、やっぱり兄妹ね。



お昼休み、早速案内して欲しいとせがまれ、二人で学園を歩いた。


「カティ、秘密のサボり場所とかないの~?」

「学園は教養を身につける場所よ?」

「カティは固いよ、すっごく固い」


ぷっくりと頬を膨らませるユーリは結構可愛いかもしれない。

同い年ではあるが、弟ができたみたいだ。


「…西校舎にある第二図書室なら、静かだし人も来ないかしら?日当たりもいいわ」

「へえ~、今度行ってみよっと」


ユーリは、ありがとう、とお礼を言って微笑んだ。



(カティ~、ボンクラ伯爵とアホの子来るよ~)

(おバカ同士お似合いねっ!)

(人目のあるとこで盛大にズッコケさせてやるの~)


妖精さん達の言う通り、廊下の奥から見慣れた二人が現れる。


「ユーリ!!」

二人で歩く私達の姿を捉えると、慌てたようにユーリの名前を半ば叫ぶように呼ぶウォルター様。


「…え、何?兄上なんでそんな取り乱してんの~?」

「どうしてお前がその女と一緒にいるんだ!」


不愉快そうな顔を隠しもしないウォルター様に、こちらも少し眉を寄せる。

エクルの目は驚いたように見開かれ、それからすぐに表情に憎しみが浮かぶ。


「お姉様…っ、また遊び半分に殿方を弄んでいるのですかっ」

「ユーリ、騙されてはいけない。お前は知らないと思うが、そいつはお前が思う以上に性悪な女狐だ!」


「兄上、不敬ですよ」

説得する兄を切り捨てるように、りんとした口調で発せられた言葉。

私の方が驚いて目を見張ってしまった。



「兄上はいくら侯爵家のご令嬢と婚約しているからといって、身分は伯爵家なのですよ?そんな兄上が彼女に向かって、そいつ、ましてや女狐など、決して許されるような物言いではありませんよ」

「っ、しかし!」


面と向かって誰かに庇われたことは、初めてだった。


「もう少し聡明な方だと思っていましたが、兄上の目はすっかり曇ってしまっているようですね」

「何を言うんだ…!」


「そうですわよ、ユーリ様!実のお兄様の言葉を無下にして、こんな女の肩を持つんですの!?」

「信じるものは自分で決めます」

きっぱりと言い切ったユーリ。


「ああっ、可哀想なユーリ様…これから家族になるユーリ様を私はお救いして差し上げたいですわっ…どうか考えなおしてくださいまし」

ポロポロ涙を流しながら言葉を紡ぐエクルは相変わらず女優のようだった。

涙は女の武器だなんて言うが、ユーリはどうなるんだろう。

ウォルター様のようにすっかり騙されてしまうのかもしれない。



「僕は彼女ともっと仲良くなりたいので救われなくても結構ですよ。では、学園を案内してもらっている途中なのでこれで失礼します」


ユーリはにっこり笑って私の手を引いた。


「お姉様はいつもそうっ…殿方を騙して手玉にとって、恥ずかしくはないのですかっ!?」


わざとらしい大声に、なんだなんだと学園の生徒たちが集まってくる。

エクルの狙い通りだ。


「…ウォルターの次は、ユーリ様なのねっ!お姉様はそうやっていつも私からたくさんのものを奪っていくのよ…ドレスやアクセサリーは諦めます。ですがっ、私の大切な方々を苦しめるのはやめてくださいませっ、カティアお姉様っ!!」


背後でいつまでも叫ぶエクルの声が聞こえる。



「僕がいつエクル様のものになったんだか」

そんな呆れたユーリの言葉に少しだけ笑ってしまった。


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