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宮廷舞踏会のはじまり
しおりを挟む舞踏会当日、
いつもと違うエスコートにそわそわした気持ちでホールに入った。
「カティ、今日はありがとね~」
「どういたしまして。どうせグレン兄様とはいつもほとんど別行動だから大丈夫よ」
グレン兄様は今日は一人で来たのだろうか。
話していないからわからないが、男性は特にエスコートする女性がいなくても気にされないから楽よね。
正直お兄様が誰かをエスコートするところなんか想像できない。
「ユーリっ!!!」
「うわっ」
突然聞こえた大きな声に、隣に立つ彼が嫌そうに表情を歪めた。
遠くからつかつかとこちらに歩み寄る女性。
もしかすると彼女がユーリがエスコートを拒否したという女性なのかもしれない。
「こんなに美人ないとこのエスコートを断るなんてどういう了見かしらっ!」
ぷんぷん怒りながらそう言う彼女は、見たところ少し年上の綺麗な女性だった。
「ごめんね?僕は好きでもない女性のエスコートなんてしたくないんだよね~」
方便の様なこんな言葉を他の令嬢に言ったらきっと勘違いしてしまうところだ。
「へえ、ユーリにしてはなかなか生意気じゃない?まあいいわ。私はユーリのいとこのカルラ・シュゼットですわ。以後お見知り置きを」
「カティア・リシャールですわ。こちらこそよろしくお願いします」
私の言葉に少しだけ目を見開いた彼女は、きっと私のよくない噂などを知っていたのだろう。
「そう、確かウォルターの婚約者のお姉様だっわね。ユーリが選んだのならきっと素敵な女性なのですわね!」
「っ、カルラ様こそ素敵ですわ」
ユーリを信用しているからこその言葉なのだろうが、初対面からこんなに優しい表情を向けられるのは滅多にないことだった。
「それなのに、ユーリったら…恋人の根も葉もない噂話くらい撤回できないでどうするの!もう、本当につかえないんだからっ!!」
ボカッ
そんな鈍い音を立てて、彼女はユーリの頭に拳骨を落とした。
………本当に殴った!!!
ユーリに聞いていた時は半信半疑だったが、彼女の手が早いことは真実のようだった。
驚きすぎて何も言えない私に、彼女はもう一度優しく微笑む。
「こんな鈍臭い子だけど、末永くよろしくお願いしますわ」
「え、あの…ユーリとは恋人なんかじゃありません」
「あら、ユーリの片思いかしら?」
「そうそう俺の片思いなの~」
面白がって乗ってくるユーリを小さく睨むと笑顔でかわされてしまった。
「仲良しなのね。ユーリ、しっかり守ってあげるのよ!!カティア様、また今度ゆっくりお話しましょうね?」
そう言って彼女は去っていった。
「親しみやすい女性だったわね。ユーリの家系は優しい人が多いの?」
「うーん、どうだろ?ちょっとおバカな人も多いけどね~、兄さんとか」
…返事に困る冗談はやめてください。
「ユーリ様!ごきげんよう!!」
次に声をかけてきたのは、できれば関わりたくない彼女だった。
髪や瞳と同じピンク色のドレスに身を包んだエクルは、全身ピンクピンクで少しバカっぽく見えた。
…これは完全に悪口だ。
(ピンクおばけだ~)
(すっごく悪趣味ねっ!)
(アホの子部屋の中もピンクピンクなの~)
妖精さん達がきゃっきゃと騒ぎ出す。
余程この妹が面白いらしい。
そして、エクル…部屋の中もピンクでいっぱいなんだ。
大好きな色を持って生まれて良かったわね。
「やあ兄さん、楽しんでる~?」
「まあな、ユーリも楽しんでるみたいだな」
エクルを無視してウォルター様と話し出すユーリに、ぷっくりと頬を膨らまして彼女は口を開いた。
「ユーリ様!今日はどうしてお姉様をエスコートしてるのですか?」
「…何か問題でも?」
「だってお姉様は、まだウォルター様が好きなんですわよ??きっとユーリ様を利用してウォルター様に近づこうとしているのですわ!」
また、いろんな設定を思いつくものだ。
どうしても私を貶めたいらしいこの妹は、ペラペラと息をするように嘘を並べ立てる。
「勘違いしているようですが、カティをエスコートしたいとお願いしたのは僕ですよ?」
「っ!?どうしてユーリ様がわざわざお姉様なんて…!」
「どうしてと言われると、ただカティをエスコートしたかったからですよ。エクル様」
ユーリに至っては嘘をつく理由もわからない。
「じゃあ、せっかくカティをエスコートできる大事な時間なので、僕らはこれで失礼しますね。兄さんもエクル様と楽しんで~」
「っ、ユーリ様」
丁寧にお辞儀をして、ユーリは私を連れてその場を後にした。
あまり良いとは言えない始まりだが、初めて友人と参加する舞踏会…精一杯楽しまなきゃ損というものだ。
「僕と踊ってくれますか、カティア嬢?」
「私、多分下手くそよ?」
「リードするから大丈夫だよ」
もう何度も参加した舞踏会だったが、公爵家で施された練習以外で誰かと踊るのは初めてだった。
「足踏を踏んでしまっても許してね?」
「カティに踏まれても痛くないよ」
そう言ってユーリは私の手を引いた。
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