兄が度を超えたシスコンだと私だけが知っている。

ゆき

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ぶっ飛ばしに行こう

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放課後、グレン兄様やユーリのことを考えながら、ふらふらと公爵家の馬車へ足を運んだ。


「久しぶりだな、カティア嬢」


そんな声に視線をやると、久しぶりに見る金髪碧眼の彼だった。



「っ、殿下…!」


目立たないようにか王家の家紋のないシンプルな馬車にもたれ掛かるように立っているフィリップ殿下。

そんなことをしても、彼の容姿は明らかに王家の特徴を持っていて、すれ違う生徒がちらちらと殿下を見ている。



「どうしたのですか?私に用事でも?」

「いや、そろそろトリスタン男爵令嬢と接触した頃かと思ってな。私もグレンに会いに行こうと思ってたことだし、行くなら一緒の方が面倒じゃないだろう?」


この人はどこまで把握しているのか。


相変わらずな殿下に白目を剥いてしまいそうになる。



「面白がってませんか?」

「ん?そんなことはないが?私だって大切な親友達のお悩み解消に人肌脱ぎたいんだよ」


いつの間にか兄だけでなく、私まで殿下の親友に昇格してしまっているみたいだ。



「今から、行くんですか?」

「こういうことは早い方がいい」


「……はぁ、わかりました」


先程決心したばかりだと言うのに、心の準備もさせてくれない鬼畜殿下にため息をついた。

公爵家の馬車に伝言を残し、帰らせる。


馬車に揺られながら、久しぶりの殿下と向き合った。



「で、自分の気持ちには気づいたのか?」

「…殿下も、知っていたのですか?」


まだ確証はないが、私が心を揺さぶられるのは、いつもグレン兄様のことばかりだった。


私の胸を占める感情が愛なのか、なんなのか。


わからないけど、それでも私にとって彼よりも大きな存在は、この先一生現れないことだけは確かだった。



「グレン兄様のことを愛しているかなんて、正直確信は持てません…だけど、私は彼に、会いたいんです。たとえ彼に新しい想い人がいたとしても」

会って、話したい。

男爵令嬢のことだって、ちゃんと話を聞きたい。

本当は、彼女となんて婚約して欲しくなかった。


「そうか、なら…」


フィリップ殿下は、悪戯な笑みを浮かべて言葉を続ける。




「…ぶっ飛ばしに行くか」


「ふふっ、そうですね。もっと筋肉でも付けておくべきでしたわ」



グレン兄様が、気持ちを伝えてくれないのならば、今度は私が彼に想いをぶつけよう。




(フィリップ~王太子のお仕事は~?)

(随分堂々としたサボりねっ!)

(遊んでちゃダメなの~)



妖精さん達に叱られてゲンナリする殿下。

私のために来てくれたのだろうけど、面白くて少し笑ってしまった。



「私はカティア嬢を想って…決してサボりでは………はぁ、今日だけ見逃してください」


王太子殿下のこんなに頭が低い態度はなかなか見れないだろう。


殿下の態度に満足したのか、今度は私に声をかけた。


(カティ緊張してる~?)

(ユーリには振られちゃったわねっ!)

(グレンを思いっきりぶっ飛ばすの~)



「ユーリに振られたのか?」

「まあ、はい」

「ははっ、面白いなその話!」


血も涙もない人だ。

私が傷ついていたらどうするつもりだったんだ。


…平然と笑ってそうだけど。



「それにしても、妖精達はグレンに対してはやけに寛容だな?」

「そうですね…どうしてか昔からグレン兄様のことは気に入ってるみたいです」


それが私も少し不思議だった。

グレン兄様の気持ちはどうあれ、私に対する態度は他の家族とそう変わらなかったのに。


そう言えば、理由を聞いてみたことはなかった。



「どうしてグレン兄様には怒らないの?」


怒って欲しいわけではないが、疑問だった。



(グレンは馬鹿だから仕方ないよ~)

(素直になれないだけねっ!)

(妖精は行動よりも心を見るの~)



妖精さん達が口々にそう言う。



(((グレンが一番カティを愛してたから~)))



「…!?」

「まあ、そうだろうな。好きすぎて頭がおかしくなるくらいだ」


「………それでも、私はグレン兄様をぶっ飛ばしますから!」


「カティア嬢、顔が真っ赤だぞ?」



妖精さん達に改めてそんなことを言われると、むず痒い気持ちが湧き上がってくるものだ。



「…過去の話ですし、今は男爵令嬢という婚約者もいるみたいですからね」


「拗ねてるだろカティア嬢」


「……まだ着かないのですか」

「まだだな。遅くなると思うから公爵家には学園に来る前に使いを出しておいたぞ」


どうやら私が普通に家に帰るという選択肢はなかったようだ。


トリスタン男爵令嬢に後で文句を言われそうだな。

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