その悪役令嬢はなぜ死んだのか

キシバマユ

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一章 異世界転生(人生途中から)

13 驚きの真実(親睦会後編)

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 「ミシェルはハールズデン医大だけどずっとここに住んでるの?」
 「えぇ。生まれも育ちもね」
 「のわりには街に詳しくねぇのな」
 「目的地を決めずに街を歩くって今までほとんどしたことがないの。ボディーガードの人も大変だし……」
 「もしかして、けっこういい家のお嬢様だったりする?」
 「ふふっ、実はお父様が公爵なの」

 お父様が公爵!? なんですと!? 言葉は分かるけど理解が追いつかない。そういえば新聞にも〇〇公爵だか子爵だかって人たちが登場していたが、実際に存在することを私は初めて認識した。

 「おー? つまり公爵令嬢ってことか? 貴族じゃねーか!」
 「貴族令嬢が医者ってアリなの?」
 「アリよ! 前例はないけどね。もう貴族令嬢は花嫁学校に行って結婚して子供を産むだけじゃないのよ」

 私の感覚だと貴族が一般人に混ざって働くのは普通に思えるが、この国では少し違いそうだ。

 「ミシェルもすごいよ。だって先陣切って新しい道を開拓するんでしょう? 誰にでもできることじゃないわ」
 「確かにな。……なんだよ普通なの俺だけかよ」
 「まーまー、拗ねるな拗ねるな。普通ってことはお父さんは会社員って感じ?」
 「いや、ウチは親父が軍人。俺が医大に行ったもんだから医官になれとか言ってくるけど、それはあんま考えてない」

 そっか。親が軍人って人もいるんだ。ジェイミーは普通の家っぽく言ってるけど、それなりの家なのでは?

 「医官になるには一定期間教育隊に入隊しなくてはいけないものね」
 「それは別にいーんだよ。それよりムサイ男ばっか診んのがヤダ」

 ジェイミーの言うことも分からなくはない。魔法診療科はいろいろな人を診られる。私も診療所で子供と触れ合うのは好きだし、話好きなおばあちゃんと雑談するのも好きだ。

 「私は大学で研究に進むか、ゆくゆくは開業するかで迷うわ」
 「研究者って選択肢もあるのね」
 「えぇ、資格を取ったあと大学に残るか、臨床に行ったあとに大学に戻ってもいいわ」

 この選択は医大を出ていない私には無理そうだ。まぁ研究にはあまり興味がないからいいかな。

 「2人とも先のことまで考えてるんだね。私は医療魔法師になってハリス先生のとこで雇ってもらえたらいいなってくらいしか考えてなかったわ……」
 『ハリス先生?』

 2人が声を揃えて驚いた。

 「ハリス先生って、あのヴァレリオ・ハリス先生?」

 ミシェルが言う『あの』とはなんのことだか不明だけど、先生のフルネームは確かばヴァレリオ・ハリスだったはず。私はそうだと答えた。

 「ハリス先生に師事できるなんて羨ましいわ!」
 「すげぇ! 俺、握手してもらいてぇ。っつかハリス先生ってこの街で診療所してたんだ」

 2人はやたらとテンションが上がっているけど、ついていけない。

 「先生ってそんなに凄い人なの?」
 「ナオ、試験範囲に歴史はほとんどなかったけど勉強しておいた方がいいわよ? 凄いなんてもんじゃないわ! ……ナオはもしかして知らない? ハリス先生は逆行治療レトラピーの魔法を開発した人よ。それまでは人体の回復能力に依存した再生治療プロモーティオしかできなかった治療魔法を飛躍的に発展させたの。近々教科書にも載るって話よ」

 (魔法を開発!? 魔法って開発できるんだ……。いや、そこも驚きポイントだけど、ハリス先生ってそんな教科書にも載るようなすごいことをした人だったの!?)

 「ただ人嫌いでも有名で、どこかで診療所をしてるらしいって界隈で噂になってたんだが、ここだったとはなぁ」
 「人嫌い? でも先生、患者さんには人当たりいいわよ?」
 「あー、人嫌いっつか医者嫌い? なんでか知らねぇけど医学界とは距離置いてるんだよな」

 ミシェルもうんうんと頷いている。どうやら有名な話らしい。
 でも、どうして医学界から距離を置いてるんだろう? 先生は気難しいところはあるが、理由はそんな簡単なことじゃない気がする。

 「医者嫌い……でも見習いは取ってるのよね。私の前にも見習いがいたみたいだし」
 「そうなの? ハリス先生は見習いも取らないって言われてるのだけれど」
 「その人も辞めちゃったみたいだから、いないも同然ではあるんだけどね」

 でも、だったら私を見習いにしてくれたのはそういう風の吹き回しだったんだろう。
 先生とはもう1年以上一緒にいるけど、私は先生を全然知らなかったみたいだ。

 「そんな顔すんなよ! まだ勉強し始めて1年ちょっとだろ? 知らないことも多くて当然だ。これからもっと学んでいきゃいいさ!」

 またしてもジェイミーに頭を撫でられた。これは子供扱いすぎて、ちょっとムカつく。

 緊急の呼び出しに備えてお酒は飲まなかったけど話はとても盛り上がり、私たちは閉店時間近くまで居座ってしまった。
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