70 / 73
最終章 過去・現在・未来
70 もう一つのゴシップ
しおりを挟む
長い原稿を読み終え私はほとんど放心状態だったが、一つ確かめなければならないことがある。
「私の右肩、確認してもらえますか?」
「……分かりました」
ベッドのふちを背にして寝巻きの前ボタンを2つ外し首元を緩める。
「失礼します」
アーサーさんが遠慮がちに寝巻きに触り、襟を後ろに少し引いた。
「どうですか?」
アーサーさんは何も言わない。
それが答えだ。
「……あぁ……やっぱり私が……。まさか殺人まで……!」
私はそのままベッドに突っ伏した。
あの悪夢が本当にあったことなら碌な人間じゃないと思っていたが、殺人まで!! どうして!?
「落ち着いてください! この記事はあくまでこの方達の主張であって、事実とは限りません」
「え……?」
私は顔を上げてアーサーさんの方を振り返った。
「記事には『池に突き落とされた』と書いてありますが、そう見えただけで事故だったかも。他の件だって誇張されたものかも知れないですよ」
「……そうなんでしょうか……? だとしても大半の人はこの記事を見て真実だと思うでしょうね……」
私にはこの記事がデタラメだと反論できる証拠は何一つない。
あぁ、本当にこれからどうしよう。
やっぱりこの国を出てしまおうか。
「それと、ナオさんに見てもらわねばならないものがもう一つありまして」
「まだ何か!?」
「すみません。これは私が迂闊でした」
と言ってクラッチバッグから出てきたのは別の新聞。
広げるとそれはまた別のゴシップ紙で、1面には『フィリップ殿下熱愛!? お相手は栄冠大勲章のナオ・キクチか!?』の見出しとデカデカと写ったアーサーさんと私の写真。少し前に一緒にレストランで食事をした時の場面が店の外から撮られていた。
「熱愛!? えっと、このフィリップ殿下ってアーサーさんのことでいいんですよね?」
疑問点が多すぎるので、まずは一つずつ確認だ。
「えぇ。大抵の人は私をフィリップ殿下と呼びます。アーサーはファーストネームで、そちらは家族か親しい友人が呼びます」
あれ? ならば私がアーサーさんと呼ぶのはおかしいのでは?
「じゃああの時、なんでアーサーと名乗ったんですか?」
あの時というのは列車事故で初めて会った時だ。
「ナオさんが『フィリップ殿下』だと気づかれていないようだったので、わざわざ名乗って気を遣われたくなかったのです。……本当のところはナオさんは私を知らなかっただけだったのですが」
アーサーさんは自意識過剰を恥じるように苦笑した。
でもこの国の王子様なんだから、国民は顔を知っていて当然だと思う。別に自意識過剰だとは思わない。
「私が王子だと知ってもなお、アーサーと呼んでいただけるのは嬉しいです」
「あー、呼び方を変える発想がなくて……あはは」
自らの至らなさを笑って誤魔化した。
「でもどうして熱愛なんて話に? もしかしてこの国では男女が2人で出歩いたら恋人ってことに!?」
「いえ、そんなことはありません」
「じゃあ私が『アーサーさん』なんて親しげに呼んでいたから?」
「顔の知らない人間はそこまで接近させません」
そうか。王族だから暗殺とか襲撃とかにも備えないといけないんだ。
「じゃあどうしてだろう……?」
「……すみません。今までプライベートで女性と出かけることがなかったせいだと思います。なので浮いた話一つない自分に記者が張りついていたとは思わなかったのです」
アーサーさんは相当気まずそうだ。目線も逸らしっぱなしである。
(今までなんの収穫もないのに張りついてたってこと? それはご苦労様なことで……)
「でも、なんでこんな大きな話が一気に出てきたんでしょうか?」
「どちらかの社が相手のスクープを察知して自社の特ダネをぶつけたんでしょう。いわゆるスクープ合戦に巻き込まれたかたちです」
なんということか。
(いや、そんなことある!?)
もうどうにでもなれ、の心境だ。
「……やっぱりウィルド・ダムに戻ろうかな……」
ここにいては日常生活さえままならないだろう。
「寂しいな……ナオさんとまた会えなくなるのは……」
「はぇ……?」
聞こえるか聞こえないかの呟きだったけど、寂しいって言われた……?
「あっ、すみません。こんなこと言ったって困らせるだけなのに。スクープでこんな事態にしておいて本当にすみません」
しばし無言で見つめ合った。
そして気づいた。
「あぁっ! ごめんなさい、ずっと立たせっぱなしで! どうぞ隣にでも座ってください!」
自分だけベッドに腰掛けていたことにようやく気づいた。
「私の右肩、確認してもらえますか?」
「……分かりました」
ベッドのふちを背にして寝巻きの前ボタンを2つ外し首元を緩める。
「失礼します」
アーサーさんが遠慮がちに寝巻きに触り、襟を後ろに少し引いた。
「どうですか?」
アーサーさんは何も言わない。
それが答えだ。
「……あぁ……やっぱり私が……。まさか殺人まで……!」
私はそのままベッドに突っ伏した。
あの悪夢が本当にあったことなら碌な人間じゃないと思っていたが、殺人まで!! どうして!?
「落ち着いてください! この記事はあくまでこの方達の主張であって、事実とは限りません」
「え……?」
私は顔を上げてアーサーさんの方を振り返った。
「記事には『池に突き落とされた』と書いてありますが、そう見えただけで事故だったかも。他の件だって誇張されたものかも知れないですよ」
「……そうなんでしょうか……? だとしても大半の人はこの記事を見て真実だと思うでしょうね……」
私にはこの記事がデタラメだと反論できる証拠は何一つない。
あぁ、本当にこれからどうしよう。
やっぱりこの国を出てしまおうか。
「それと、ナオさんに見てもらわねばならないものがもう一つありまして」
「まだ何か!?」
「すみません。これは私が迂闊でした」
と言ってクラッチバッグから出てきたのは別の新聞。
広げるとそれはまた別のゴシップ紙で、1面には『フィリップ殿下熱愛!? お相手は栄冠大勲章のナオ・キクチか!?』の見出しとデカデカと写ったアーサーさんと私の写真。少し前に一緒にレストランで食事をした時の場面が店の外から撮られていた。
「熱愛!? えっと、このフィリップ殿下ってアーサーさんのことでいいんですよね?」
疑問点が多すぎるので、まずは一つずつ確認だ。
「えぇ。大抵の人は私をフィリップ殿下と呼びます。アーサーはファーストネームで、そちらは家族か親しい友人が呼びます」
あれ? ならば私がアーサーさんと呼ぶのはおかしいのでは?
「じゃああの時、なんでアーサーと名乗ったんですか?」
あの時というのは列車事故で初めて会った時だ。
「ナオさんが『フィリップ殿下』だと気づかれていないようだったので、わざわざ名乗って気を遣われたくなかったのです。……本当のところはナオさんは私を知らなかっただけだったのですが」
アーサーさんは自意識過剰を恥じるように苦笑した。
でもこの国の王子様なんだから、国民は顔を知っていて当然だと思う。別に自意識過剰だとは思わない。
「私が王子だと知ってもなお、アーサーと呼んでいただけるのは嬉しいです」
「あー、呼び方を変える発想がなくて……あはは」
自らの至らなさを笑って誤魔化した。
「でもどうして熱愛なんて話に? もしかしてこの国では男女が2人で出歩いたら恋人ってことに!?」
「いえ、そんなことはありません」
「じゃあ私が『アーサーさん』なんて親しげに呼んでいたから?」
「顔の知らない人間はそこまで接近させません」
そうか。王族だから暗殺とか襲撃とかにも備えないといけないんだ。
「じゃあどうしてだろう……?」
「……すみません。今までプライベートで女性と出かけることがなかったせいだと思います。なので浮いた話一つない自分に記者が張りついていたとは思わなかったのです」
アーサーさんは相当気まずそうだ。目線も逸らしっぱなしである。
(今までなんの収穫もないのに張りついてたってこと? それはご苦労様なことで……)
「でも、なんでこんな大きな話が一気に出てきたんでしょうか?」
「どちらかの社が相手のスクープを察知して自社の特ダネをぶつけたんでしょう。いわゆるスクープ合戦に巻き込まれたかたちです」
なんということか。
(いや、そんなことある!?)
もうどうにでもなれ、の心境だ。
「……やっぱりウィルド・ダムに戻ろうかな……」
ここにいては日常生活さえままならないだろう。
「寂しいな……ナオさんとまた会えなくなるのは……」
「はぇ……?」
聞こえるか聞こえないかの呟きだったけど、寂しいって言われた……?
「あっ、すみません。こんなこと言ったって困らせるだけなのに。スクープでこんな事態にしておいて本当にすみません」
しばし無言で見つめ合った。
そして気づいた。
「あぁっ! ごめんなさい、ずっと立たせっぱなしで! どうぞ隣にでも座ってください!」
自分だけベッドに腰掛けていたことにようやく気づいた。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる