霧夢を見る少女は夢見心地

ちゃんすけ

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向日葵は誰を見つめる

日曜はあっという間に

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外にはまだ溶け切らない雪が残り、真上まで登りかけた太陽がこれでもかと地上の見える全てを明るく照らす。そんな光を拒んでいる者も一定数はいるようだが、ここにも窓から入りたがるそれを分厚いカーテンで遮り今も毛布にくるまる生き物が一匹、小さな部屋の中で寝息をたて続ける。
「うへへ~こ~んなに柔らかい~、、、」
満足そうに笑顔を浮かべながら夢を見る。
(ダダン!)
不意に鳴った大きな音、恐らく屋根の上に残っていた雪が溶けて落ちてきたのだろう。光を遮ることはできても音は遮る事が出来ず、
「う~ん、、」
今の音でようやく目が覚めたのだろう。多少唸り声のようなものを上げつつゆっくりと体を起こす太陽光がカーテンの足元から出ている以外、先程と同じ静寂が続く部屋の中で近くにあったスマホに目を向ける。
(6日11時43分)
「せっかくの休みだったのに、こんな時間に起きちゃうなんて、もっと寝たかったな、、」
散々寝たような気がするがそれでもまだ寝足りないと呟きながら部屋を出る、たくさん寝すぎたせいか、痛くなりつつある頭を我慢しながら階段を下りてゆく。ぼやけたままの顔を洗面台で整える。ふと、先程まで見ていたであろう夢の内容が頭痛のする頭の中で再生される。
「すっごいピンクが多い夢だった気がする、、、何だったんだろうあれ、でも笑顔だった気がする、、」
どこか根拠のない幸福感を感じているうちに夢の記憶が曖昧になっていき、次第に今自分がしていることに意識を戻す。既に無意識のうちに冷蔵庫から材料を取り出しておりIHの前に立っていた所であった。
「ベーコンに卵、、、チーズはしまうとして、、うん!パンにしよう。」
緑色のない、誰もが喜びそうな材料達を見つめながら何を作るか決めたようだ。パンをトースターに、フライパンにごま油とベーコンを2枚、3枚と並べながら片手で卵を割る、フライパンの中でジュージューと焼かれるベーコン達を見ながら頭の中では先程しまったチーズを思い出す。
(乗せたい、、ここに絶対美味しい!でもこれ以上のカロリーは、、)
散々ベーコンを並べたりこれからパンに塗る為に用意したバターを用意しながら何を今更と悩んでいる時ベーコンが弾け匂いをばら撒く勿論そんな匂いを嗅いで抗えるはずもなく、、
(あ~無理無理、、我慢出来ない、そうだよこんな物作ってしまったのなら思うがままにのせないと!あ~もう天使も悪魔のささやきも存在しないんだよ。これを前にして!この匂いにして!)
圧倒的な力の前に抵抗は意味をなさない。忘れては思い出すこの誘惑に負けたこの小さな生き物は幸せの全てをパンの上に乗せていく、カリカッリになるまで焼いたベーコンにチーズをのせその上に半熟になった目玉焼きを置いて、この誘惑に負けた罪悪感からだろうかレタスが1枚程ベーコンの下にしれっと置かれている。幸せの塊をリビングのテーブルに置き、またキッチンから紅茶を入れながら戻ってくる
「いただきます。」
幸せの塊を口いっぱいに頬張りながらスマホをいじりだす。
「う~ん、美味し~」
いつの間にか付けていたテレビではお昼の番組で芸能人が狂気乱舞していたりテレビの向こう側でも幸せの塊と呼べるであろう代物を頬張っていたりとごくごく普通であった。
「今年は記録的にも珍しい程の寒波が先日まで続いた影響もあり各地で見頃になるはずだった桜の開花が遅れているとのことです。また、寒波の影響で農家の方々にも、、、、、」
そんなニュースが耳に入り、なにかを思い出したような気がしてふと手が止まる。でも結局何だったのかさえ、思い出せずコップに注いだ紅茶を飲み食事を終える
「ピロンッ」

「ピロンッ」
リビングのクッションに埋もれながら、眠りにつきかける途端になるスマホの通知のせいで嫌な気持ちになりつつもそれをみる。
「おっはよ~う!我がムムちんよ!どうせ今頃起きてきたのだろう?」

「まぁ私にとってムムちんがいつ起きているかを当てるかなんて朝飯前よ!そんなことより!明日の朝絶対びっくりするようなことが起きるからぜっっったいに学校に来てね!!by愛しのあ・た・しより♡」
(うわ、なんか来てる。しかもいつも以上にテンションが高い、、、)
13時12分
恐らく本気で時間を当てにきたのだろう。残念ながら、かすりもしなかったメールを見ながらとりあえず明日のことを考える。
(明日の朝に何か起きる?でも学校の違うとばちゃんがなんで分かるんだろ、、?)
(まぁ返事はいいか、、、)
親友からのメールを適当にほっといてスマホから流れてく動画を淡々と目の奥に入れていく。
「きれい、、」
時々、赤や青、紫に黄色、小さくても野原いっぱいに美しく咲き誇る花々をみてつい口からこぼれる。どこでこんなに咲いているのか調べようとするがいつの間にか自分の足元にその花々たちが咲き誇っており周りも、家も次第に壁や家具も全て花が蔓にそって隙間すらない程、咲き誇りだす。
「、、、」
目の前で家が変わるさまを眺めていると窓も開けていないはずなのに急に強い風が花びらをまき散らしながら体を突き抜ける、色とりどりの花びらが目の前を覆っていく。
「、、、」
あれからどれくらい経ったかは分からないが、ようやく風が弱くなり目を開く、さっきまでギリギリ家といえる物のなかにいたはずが気付いたときには、あたり一面に人工のものはないように見えた座っていた場所にクッションはなく、変わりにあるのは不思議と盛られているだけの場所に花が周りと同じように咲いていた。強く吹いていた風は心地の良い暖かい風に変わりどこまでも続く野原を揺らす。
「、、、」
(もうすこし、、ここにいたい、、、)
「ピロンッ」
自然の中には存在しない不協和音が耳に入るそれと同時に穏やかだったはずの世界が壊れた電球が最後の灯りを振り絞りやがて力尽きるように次第に周りが暗くなり何も見えなくなる。まだ頭の中で整理できずにいたがそれでも目を開く動作をする。ぼやけていながらも段々とはっきりする視界にはたしかに自分の家の天井が映る、外は既に暗くなっているようで夜の灯りの一部が部屋を少し照らす。
「う~ん、、今までの夢?時間は?」
17時56分
昼の暖かさに当てられ寝てしまったのだろうもう既に日は沈んでおり月が出てきているスマホに映る時刻表を見ながら先程、自分を起こした幸せの破壊者からのメールを確認する。
「ちょっと?返事ないんだけど~大丈夫そ~?まさか!?何かあった?待ってなすぐ向かうから!」
「大丈夫寝てただけ誰かさんに起こされたけど」
「なぁんだ良かったあのメールの後にまた寝るなんてスヤスヤちゃんめ!」
「もう少しで家から飛び出るとこだったぞ」
(返事がはやい、、それに、少し文書がなんか嫌、、、)
適当に返事を繰り返した後もう一度周りを見渡す
「やっぱり夢だったんだ、、あの景色」
少しのため息を出した後キッチンに向かう
(もうなんか作るの面倒だし、、ゼリーでいいや)
冷蔵庫から市販のゼリーを一つ取り出しゆっくりと飲み始める。口にくわえたままお風呂場の掃除を始める。飲み終えると同時に掃除も終え、浴槽に湯をためる
「ピッ」
「お湯張りを開始します。お風呂の蓋は閉めましたか?」
リビングに戻りお昼に寝てしまう前の花の動画を探す、そこには昼と同じ花が映っていたが足元には生えては来なかった。
(やっぱり夢だった、、)
少し悲しいような羨ましいような気持ちが混じりながらも夢と分かってしまったことで、結局は日常に戻る
「~♪お風呂がわきました~♪」
ゆっくりと体を沈め一つ考えたことを決める。
(明日、、休も、、)
あれ程念押しされてなお、それを破る余程の理由があるに違いない。
(面倒くさいし)
流石はだらけるを貪る生き物、理由もしょうがない取り敢えず親友には何か断りのメール位入れても良いと思うが恐らくそんなことも考えてはいないのだろう。この生き物はすでに湯船の中でとろけきった顔をして何も考えてはいないのだから。のぼせきる直前に湯を後にする。二階の締め切ったままの部屋に戻り毛布の中に潜り込むまだ冷め切らない体から毛布に熱が広がる。暖かく心地良い感覚に体が包み込まれる
(目覚ましはいいか、、)
明日は学校のはずなのだが、毛布の中でスマホを眺めるそのうちに今日のほとんどを寝て過ごしたはずのこの生き物はまぶたの重さに耐えきれず小さく寝息をたて始める。どれだけ寝た後でも眠りに付けるもはや特技に近い技を披露しながら今日の日に終わりを告げる。いつもと変わらない夜、同じ夜を寝ずに見ている者が一人夜の月に笑う。
「明日~楽しみにしててよ~ム・ム・ちん」



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