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第十六話:値段
しおりを挟む「あっ……俺、たしかグリズリーにやられたはずなのに……」
自分の体を不思議そうにペタペタと触っていると、戦士の男が泣きながら抱きつく。
「よかった……本当によかった。本当にもう駄目だと思ったぞ」
「や、やめろよ。気持ち悪いな。それにしても一体何があったんだ。それにお前たちは昨日の……」
魔法使いの男は、抱き着いてきた男を引きはがすと、アレン達に気づく。
「お前の命の恩人だよ。グリズリーにやられて死にかけたお前にユグドラの雫を使ってくれた」
「ユグドラの雫だと!」
驚くと同時に、青ざめた。
ユグドラの雫とはこの世で入手することが最も困難な伝説級アイテムである。生きてさえすればどんな傷でもたちまち治してしまい、欠損でも元通りにできるというものである。
もし市場に出たならば、その価値は数億リラン……いや数十億リランで取引されてもおかしくない程の代物である。
それを自分の意思ではないとはいえ、魔法使いの男は使ってしまった。しかも相手は昨日自分達に一億リランもの金を吹っかけてきた男だ。
踏み倒そうにも、二人との実力差は身に染みて分かっている。一体いくら請求されるのか……払えない場合は返すまで奴隷落ち……考えるだけで死んでいた方がましではなかったかと思わずにいれなかった。
そもそもユグドラの雫が本物なのかとも疑ったが、確実に致命傷を受けたと思った自分の体は奇麗に元に戻っている。
「アレンさんって言ったか……これが今俺が持っている全財産だ。家に帰れば数千万の貯えがある。それで勘弁してもらえないだろうか」
そう言って、魔法使いの男は麻袋を渡す。アレンはそれを受け取り、中を確認すると大金貨が十枚ほどとそれに金貨や銀貨、銅貨が数枚入っていた。
ちなみに大金貨は一枚十万リラン、金貨は一万リラン、銀貨は千リラン、銅貨は百リランという価値だ。
アレンは麻袋の中から大金貨だけを器用に取り出し、残りを返す。
「これだけでいいよ。俺は今ある分だけでいいって言ったし、帰るのにも金がいるだろ」
「ちょっと待ってくれ。ユグドラの雫を使ってそんなもんでいいのか。せめて俺の金も貰ってくれ」
戦士の男もいそいそと麻袋を取り出し、中から白金貨を二枚取り出した。白金貨は一枚百万リランの価値がある。
「だからいらねぇって。男に二言はない。その代わり状況を手短に説明してくれ」
アレンがそう言うと、二人はグリズリーの恐怖を思い出したのか体を震わせて戦士の男が話し始めた。
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