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第十八話:ディーネの力

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 アレンは走りながらディーネに確認する。



「回復アイテムはどれくらい持ってきた?」



「一応、店にあるものは全部持ってきましたよ」



「さすがディーネだな」



 ディーネは褒められて顔がにやけそうになるが、同時に不安にもなる。



 この店主はこの先で怪我人がいれば迷わず貴重なアイテムを格安で……いや、最悪タダ同然で使ってしまうだろう。本来は店の商品なので赤字になるのは目に見えている。店の金庫を預かる身としてはできるだけ回収したいところだが、このような事にはもう慣れていた。



 それにこの場で金儲けに走る店主ならばディーネは決して仕えることはなかっただろう。



 一分程走ると獣の断末魔が聞こえてきた。目の前には白い体毛を赤く染めたグリズリーが何体も倒れていた。そして銀色の鎧を纏い、金髪の長い髪をなびかせる女性が立ち尽くしていた。



「大丈夫か!」



 後ろから声をかけると、右手に持っていた血に染まった細い刀身を振り向きざまにアレンの目の前に差し出す。



「うわぁ」



 アレンはエリーの鋭い目つきと殺気に思わず驚く。



「ん? あんたは確か昨日の店主……なんでこんな所にいるのよ」



 エリーはアレンの存在に気づくと、構えていた剣を下ろす。



「なんでって……」



 アレンが答えようとした時、エリーの後方からグリズリーの亜種が茂みの中から飛び出してきた。



「ウォーターランス!」



 その瞬間ディーネの声が響き、空中に水で作られた鋭い槍が五本現れ、グリズリーに目にも止まらぬ速さで突き刺さり、声を上げることなく絶命した。



「えっ……」



 エリーは目の前で起こったことに驚いた。アレンに出会ったことで、若干ではあるが緊張の糸が緩んだ。その一瞬の隙を突かれたことになったが自分が反応するより早く、目の前にいる青い髪をなびかせる女性はグリズリーの亜種を仕留めてみせた。



「見ての通り援護に来ました。あなたがサラマンダーに会いに行くと言ったのを、うちの店主が心配したみたいで」



 ディーネがそう言うと、アレンが顔を真っ赤にして、



「ち、ちがうだろ。火口石がなくなりそうだから取りにいくんだろ」



「あ~そうでしたね。そういうことにしていましたね」



 ディーネがわざとらしく答えると、ますますアレンの顔が赤くなる。



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