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21『ハッピークローバー』
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真夏ダイアリー
21『ハッピークローバー』
――事務所のミスで、仕事がダブルブッキングになっちゃって。タムリの『つないでイイトモ』と『AKRING』の収録が重なって……。
「まさか、そのどっちかに出ろっての……!?」
――申し訳ない、『イイトモ』の方に……。
一昨日の異母姉妹の潤の電話のおかげで、わたしは『つないでイイトモ』の収録のため、HIKARIプロの吉岡さんの車で、テレビ局に向かっている。
「まあ、MCのタムリさんは気の付く人だから、潤が来るまで、テキトーに合わせてりゃいいから。ま、これでも飲んでて」
温かい缶コーヒーをくれながら、吉岡さんは、わたしを慰める。
でも、そもそもこの吉岡さんが、渋谷のジュンプ堂でわたしを潤と間違えたことが問題の発端になっている。だから、その温もりは缶コーヒーほどにも長続きしなかった。
わたしは、家を出るときに、すでにAKRの制服に着替えさせられている。
あくまで、わたしは小野寺潤として、テレビカメラの前に出る。むろんスタッフの人もタムリさんも知っている、わたしがニセモノだってこと。
潤は真夏のままでいいって言ってたけど、事務所としてはギリギリまで、わたしと潤とのことは伏せたいらしい。
わたしは、どこかで、お母さんとお父さんのことを許していない。
だから、潤と異母姉妹であることがバレても構わないという開き直りがある。
でも、潤に迷惑はかけたくなかった。
「もう着くよ」
わたしでも知っているTテレビが見えてきた。わたしは、無意識にポッケの中のラピスラズリのサイコロを触っていた……。
「おはようございます」
自分でも驚くほど、自然にふるまえた。
「え、ほんとに潤ちゃんじゃないの!?」
タムリさんが、サングラスをとって、マジマジと見た。
――案外、普通のオジサンだ。わたしは、そう感じた。
「ギリギリまで、潤本人ということで、お願いします」
吉岡さんが頭を下げる。
「うん、いいよ。事務所の都合ってのもあるんだろうし。でも、きっとバレちゃうよ、いつかは」
「そのときは、そのとき、明るいスキャンダルってことで着地させようと思ってます」
「まあ、なんとかなりますよ。アハハ」
思ってもいない言葉が潤そっくりの言い回しで、自分の口から出てくる。自分でも驚いた。
「潤ちゃんは、ハッピークローバーで大抜擢だったんだよね」
「ええ、それまではAKRの研究生で、抜擢されたときなんか足震えましたもん」
「だよね、で、デビューでいきなり萌ちゃんとか知井子とかユニットだもんね」
最初は、当たり障りのない、趣味とか、好きなタレントさんの話だった。でもタムリさんがのっちゃって、潤にしか分からないデビュー当時の話を振ってきた。内心あせったけど、自分でも考えてもいないようなことが口をついて出てくる。
「あれ、たいへんでしょ。一番のサビが終わったところでバーチャルの拓美が出てきて合わせんの」
「ええ、だいたいの立ち位置は分かってるんですけど、手とか足とかの振りが被っちゃうんですよね。人間同士だったら、ぶつかっちゃうんで分かるんですけど、バーチャルだから見えなくってね」
「あれ、潤ちゃんたちには見えてないの?」
「ええ、ホログラムで、周りの人には見えてんですけどね。拓美が動くエリアの中じゃ見えないんです」
「そうだったんだ、オレ、てっきり見えて合わせてんのかと思ってた」
「来年には新曲が出るんで、その時には見えるようにしてもらえるらしいんですけどね」
わたしってば、知らないことまで喋ってる!?
「じゃ、今日は、そのホログラム借りてきたんで、ちょっとやってもらえるかなあ」
「え、え~、今ここでですか!?」
「いいじゃん、制服も着てることだし」
吉岡さんが、スタジオの隅で慌てている。どうしよう……。
「仕方ないなあ。タムリさんが、そういう目つきしたときは断れないんですよね」
「ウシシ、よく知ってんじゃん」
「だから、AKRじゃ多無理さんなんて書くんですよ!」
わたしは、ADさんのカンペをふんだくって多無理!って書いてやった。
「ハハ、まいったなあ」
そう言いながら、タムリさんが頭を掻いていると『ハッピークローバー』のイントロがかかりだした。
《ハッピークローバー》
もったいないほどの青空に誘われて アテもなく乗ったバスは岬めぐり
白い灯台に心引かれて 降りたバス停 ぼんやり佇む三人娘
ジュン チイコ モエ 訳もなく走り出した岬の先に白い灯台 その足もとに一面のクロ-バー
これはシロツメクサって、チイコがしたり顔してご説明
諸君、クローバーの花言葉は「希望」「信仰」「愛情」の印
茎は地面をはっていて所々から根を出し 高さおよそ20cmの茎が立つ草。茎や葉は無毛ですぞ
なんで、そんなにくわしいの くわしいの
いいえ 悔しいの だってあいつは それだけ教えて海の彼方よ
ハッピー ハッピークローバー 四つ葉のクロ-バー
その花言葉は 幸福 幸福 幸福よ ハッピークローバー
四枚目のハッピー葉っぱは、傷つくことで生まれるの
踏まれて ひしゃげて 傷ついて ムチャクチャになって 生まれるの 生まれるの 生まれるの
そうよ あいつはわたしを傷つけて わたしは生まれたの 生まれ変わったの もう一人のわたしに
ハッピー ハッピークローバー、奇跡のクローバー!
サビのところでホログラムの拓美が現れる……そんなことより、自分の体が勝手に動いて歌って踊っていることが不思議だった。
で、二番になったところで、本物の潤が入ってきた……!
21『ハッピークローバー』
――事務所のミスで、仕事がダブルブッキングになっちゃって。タムリの『つないでイイトモ』と『AKRING』の収録が重なって……。
「まさか、そのどっちかに出ろっての……!?」
――申し訳ない、『イイトモ』の方に……。
一昨日の異母姉妹の潤の電話のおかげで、わたしは『つないでイイトモ』の収録のため、HIKARIプロの吉岡さんの車で、テレビ局に向かっている。
「まあ、MCのタムリさんは気の付く人だから、潤が来るまで、テキトーに合わせてりゃいいから。ま、これでも飲んでて」
温かい缶コーヒーをくれながら、吉岡さんは、わたしを慰める。
でも、そもそもこの吉岡さんが、渋谷のジュンプ堂でわたしを潤と間違えたことが問題の発端になっている。だから、その温もりは缶コーヒーほどにも長続きしなかった。
わたしは、家を出るときに、すでにAKRの制服に着替えさせられている。
あくまで、わたしは小野寺潤として、テレビカメラの前に出る。むろんスタッフの人もタムリさんも知っている、わたしがニセモノだってこと。
潤は真夏のままでいいって言ってたけど、事務所としてはギリギリまで、わたしと潤とのことは伏せたいらしい。
わたしは、どこかで、お母さんとお父さんのことを許していない。
だから、潤と異母姉妹であることがバレても構わないという開き直りがある。
でも、潤に迷惑はかけたくなかった。
「もう着くよ」
わたしでも知っているTテレビが見えてきた。わたしは、無意識にポッケの中のラピスラズリのサイコロを触っていた……。
「おはようございます」
自分でも驚くほど、自然にふるまえた。
「え、ほんとに潤ちゃんじゃないの!?」
タムリさんが、サングラスをとって、マジマジと見た。
――案外、普通のオジサンだ。わたしは、そう感じた。
「ギリギリまで、潤本人ということで、お願いします」
吉岡さんが頭を下げる。
「うん、いいよ。事務所の都合ってのもあるんだろうし。でも、きっとバレちゃうよ、いつかは」
「そのときは、そのとき、明るいスキャンダルってことで着地させようと思ってます」
「まあ、なんとかなりますよ。アハハ」
思ってもいない言葉が潤そっくりの言い回しで、自分の口から出てくる。自分でも驚いた。
「潤ちゃんは、ハッピークローバーで大抜擢だったんだよね」
「ええ、それまではAKRの研究生で、抜擢されたときなんか足震えましたもん」
「だよね、で、デビューでいきなり萌ちゃんとか知井子とかユニットだもんね」
最初は、当たり障りのない、趣味とか、好きなタレントさんの話だった。でもタムリさんがのっちゃって、潤にしか分からないデビュー当時の話を振ってきた。内心あせったけど、自分でも考えてもいないようなことが口をついて出てくる。
「あれ、たいへんでしょ。一番のサビが終わったところでバーチャルの拓美が出てきて合わせんの」
「ええ、だいたいの立ち位置は分かってるんですけど、手とか足とかの振りが被っちゃうんですよね。人間同士だったら、ぶつかっちゃうんで分かるんですけど、バーチャルだから見えなくってね」
「あれ、潤ちゃんたちには見えてないの?」
「ええ、ホログラムで、周りの人には見えてんですけどね。拓美が動くエリアの中じゃ見えないんです」
「そうだったんだ、オレ、てっきり見えて合わせてんのかと思ってた」
「来年には新曲が出るんで、その時には見えるようにしてもらえるらしいんですけどね」
わたしってば、知らないことまで喋ってる!?
「じゃ、今日は、そのホログラム借りてきたんで、ちょっとやってもらえるかなあ」
「え、え~、今ここでですか!?」
「いいじゃん、制服も着てることだし」
吉岡さんが、スタジオの隅で慌てている。どうしよう……。
「仕方ないなあ。タムリさんが、そういう目つきしたときは断れないんですよね」
「ウシシ、よく知ってんじゃん」
「だから、AKRじゃ多無理さんなんて書くんですよ!」
わたしは、ADさんのカンペをふんだくって多無理!って書いてやった。
「ハハ、まいったなあ」
そう言いながら、タムリさんが頭を掻いていると『ハッピークローバー』のイントロがかかりだした。
《ハッピークローバー》
もったいないほどの青空に誘われて アテもなく乗ったバスは岬めぐり
白い灯台に心引かれて 降りたバス停 ぼんやり佇む三人娘
ジュン チイコ モエ 訳もなく走り出した岬の先に白い灯台 その足もとに一面のクロ-バー
これはシロツメクサって、チイコがしたり顔してご説明
諸君、クローバーの花言葉は「希望」「信仰」「愛情」の印
茎は地面をはっていて所々から根を出し 高さおよそ20cmの茎が立つ草。茎や葉は無毛ですぞ
なんで、そんなにくわしいの くわしいの
いいえ 悔しいの だってあいつは それだけ教えて海の彼方よ
ハッピー ハッピークローバー 四つ葉のクロ-バー
その花言葉は 幸福 幸福 幸福よ ハッピークローバー
四枚目のハッピー葉っぱは、傷つくことで生まれるの
踏まれて ひしゃげて 傷ついて ムチャクチャになって 生まれるの 生まれるの 生まれるの
そうよ あいつはわたしを傷つけて わたしは生まれたの 生まれ変わったの もう一人のわたしに
ハッピー ハッピークローバー、奇跡のクローバー!
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