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24『大洗母子旅行・2』
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真夏ダイアリー
24『大洗母子旅行・2』
「なぜ、結婚しようと思ったの?」
「したいと思ったから」
「じゃ、なぜ離婚しようと持ったの?」
「別れたいと思ったから」
「もう……!」
案の定、コンニャク問答になった。
「とりあえず、食べようよ。グズグズになったお鍋って、おいしくないから」
で、ひとしきり食べた。
「親の結婚と離婚の理由なんか聞いても、なんの足しにもならないわよ……」
「もう、そうやってごまかす」
「じゃ、聞くけどさ。真夏は、どうして、そんなこと聞きたいのよ?」
「納得いかなからよ」
「ハハハハ……」
「なにが可笑しいのよ。ひとが真剣に聞いてるのに!」
「ごめんごめん。お母さんの答えも同じだからよ」
「結婚して、離婚したことに納得してないってこと?」
「逆だなあ。納得できないから、結婚して。納得できないから離婚したの……まあ、その結果として真夏が生まれて、その真夏に迷惑かけちゃったけどね。ゴメンで済めば簡単なんだろうけど、真夏の心の中は、そんなに簡単じゃないでしょ」
「そういう分かったような物言いでごまかさないでよね」
「分かってなんかいないわよ。言ったでしょ、納得できないからだって……すごく無責任に聞こえるかもしれないけど、もう、離婚してしまったわたしがいて、その娘の真夏がいる。で、いま心臓マヒにでもならないかぎり、お互いに、まだ人生の先がある。そっちのを考える方が生産的だと思う。真夏が芸名を鈴木にしたのは、いいことだと思うわよ。冬野でもなく小野寺でもなく……ね、いっしょにお風呂入ろうか!?」
「さっき入ったわよ」
「いいじゃん、もっかい暖まって寝ようよ」
半ば、強引に大浴場に連れて行かれた。
連れて行かれながら思った。お母さんといっしょにお風呂に入るなんて十年ぶりぐらいだ。
わが母親ながら、驚くほど体の線は崩れていなかった。知らない人がみたら姉妹に見えたかもしれない。この人は人生の納得いかない苦悩をどこにしまい込んでいるのか不思議なくらい若やいでいる。
「背中流してあげよう」
「いいよ、さっき洗ったから」
「いいから、いいから」
そう言って、お母さんは、わたしの背中にまわって洗い始めた。
「……い、痛いよ」
「ちゃんと洗ったの、こんなに垢が出る」
「垢じゃないわよ。それ、皮膚を削ってんのよ……痛いよう!」
お湯を流されると、背中がヒリヒリした。そして、あろうことか……。
「ん……!」
お母さんは、後ろから手を回し、わたしのオッパイをムンズと掴んだ。
「カタチはイッチョマエだけど、まだまだ固いわね」
「お母さん、ちょっとヘンタイだよ……」
そのあと、湯船に漬かったとき逆襲してやろうとしたけど、ヘンタイ母は少女のような嬌声をあげてかわしてしまう。
部屋にもどって、布団にもぐると、削られた背中がホコホコと暖かかった。
「お母さん……」
ヘンタイ母は、歯ぎしりもイビキもかくことなく、静かな寝息をたてていた。
朝は、久々にパチッと目が覚めた。いつもなら、泥沼の底から浮き上がるように、夢のカケラや昨日やり残したことなんかの思いがまとわりついて、まるでゴキブリホイホイにへばりついた体を寝床から引きはがすようにして起きる。
こんな目覚めは久しぶりだった。
昼からは、本格的にお天気が崩れる予報だったので、水族館だけ見て家に帰ることにした。
夕べ、あれだけ寝たのに、帰りの電車の中ではウツラウツラだった。
時折意識が戻ると、向かいの席で、お母さんはスマホで記事をまとめ、動画を編集している。
やっぱ、ダテにシングルマザーをやっていない。やるときゃ、きちんと仕事に集中しているのはアッパレと感心しつつ、ウツラウツラ……。
家に帰って、ショッ!。
昨日まで満開だったエリカが花を散らして萎びかけていた。あらかじめ用意しておいた鉢植え用の栄養剤を、グサリと注入。なんとか生き延びて欲しい。
スマホをチェック。
事務所から、明日のテレビ番組の打ち合わせと練習をしたいので、すぐに来いとメールが入っていた……。
24『大洗母子旅行・2』
「なぜ、結婚しようと思ったの?」
「したいと思ったから」
「じゃ、なぜ離婚しようと持ったの?」
「別れたいと思ったから」
「もう……!」
案の定、コンニャク問答になった。
「とりあえず、食べようよ。グズグズになったお鍋って、おいしくないから」
で、ひとしきり食べた。
「親の結婚と離婚の理由なんか聞いても、なんの足しにもならないわよ……」
「もう、そうやってごまかす」
「じゃ、聞くけどさ。真夏は、どうして、そんなこと聞きたいのよ?」
「納得いかなからよ」
「ハハハハ……」
「なにが可笑しいのよ。ひとが真剣に聞いてるのに!」
「ごめんごめん。お母さんの答えも同じだからよ」
「結婚して、離婚したことに納得してないってこと?」
「逆だなあ。納得できないから、結婚して。納得できないから離婚したの……まあ、その結果として真夏が生まれて、その真夏に迷惑かけちゃったけどね。ゴメンで済めば簡単なんだろうけど、真夏の心の中は、そんなに簡単じゃないでしょ」
「そういう分かったような物言いでごまかさないでよね」
「分かってなんかいないわよ。言ったでしょ、納得できないからだって……すごく無責任に聞こえるかもしれないけど、もう、離婚してしまったわたしがいて、その娘の真夏がいる。で、いま心臓マヒにでもならないかぎり、お互いに、まだ人生の先がある。そっちのを考える方が生産的だと思う。真夏が芸名を鈴木にしたのは、いいことだと思うわよ。冬野でもなく小野寺でもなく……ね、いっしょにお風呂入ろうか!?」
「さっき入ったわよ」
「いいじゃん、もっかい暖まって寝ようよ」
半ば、強引に大浴場に連れて行かれた。
連れて行かれながら思った。お母さんといっしょにお風呂に入るなんて十年ぶりぐらいだ。
わが母親ながら、驚くほど体の線は崩れていなかった。知らない人がみたら姉妹に見えたかもしれない。この人は人生の納得いかない苦悩をどこにしまい込んでいるのか不思議なくらい若やいでいる。
「背中流してあげよう」
「いいよ、さっき洗ったから」
「いいから、いいから」
そう言って、お母さんは、わたしの背中にまわって洗い始めた。
「……い、痛いよ」
「ちゃんと洗ったの、こんなに垢が出る」
「垢じゃないわよ。それ、皮膚を削ってんのよ……痛いよう!」
お湯を流されると、背中がヒリヒリした。そして、あろうことか……。
「ん……!」
お母さんは、後ろから手を回し、わたしのオッパイをムンズと掴んだ。
「カタチはイッチョマエだけど、まだまだ固いわね」
「お母さん、ちょっとヘンタイだよ……」
そのあと、湯船に漬かったとき逆襲してやろうとしたけど、ヘンタイ母は少女のような嬌声をあげてかわしてしまう。
部屋にもどって、布団にもぐると、削られた背中がホコホコと暖かかった。
「お母さん……」
ヘンタイ母は、歯ぎしりもイビキもかくことなく、静かな寝息をたてていた。
朝は、久々にパチッと目が覚めた。いつもなら、泥沼の底から浮き上がるように、夢のカケラや昨日やり残したことなんかの思いがまとわりついて、まるでゴキブリホイホイにへばりついた体を寝床から引きはがすようにして起きる。
こんな目覚めは久しぶりだった。
昼からは、本格的にお天気が崩れる予報だったので、水族館だけ見て家に帰ることにした。
夕べ、あれだけ寝たのに、帰りの電車の中ではウツラウツラだった。
時折意識が戻ると、向かいの席で、お母さんはスマホで記事をまとめ、動画を編集している。
やっぱ、ダテにシングルマザーをやっていない。やるときゃ、きちんと仕事に集中しているのはアッパレと感心しつつ、ウツラウツラ……。
家に帰って、ショッ!。
昨日まで満開だったエリカが花を散らして萎びかけていた。あらかじめ用意しておいた鉢植え用の栄養剤を、グサリと注入。なんとか生き延びて欲しい。
スマホをチェック。
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