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47『桜の記憶』
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真夏ダイアリー
47『桜の記憶』
うっすらと、セーラー服にモンペ姿の女学生の姿が見えてきた……!
「あれは……」
「じっと見ていて……」
女生徒は、もんぺ姿から、普通のセーラー服に変わり、視野が広がるようにまわりの様子が変わってきた。
女生徒の仲間が増えた。友だちを待っているんだろうか、弾んだゴムボールのように笑いあって……ハハ、先生に叱れれてる。みんなでペコリと頭を下げたけど、先生が通り過ぎると、またひとしきりの笑い声。
先生も、仕方ないなあと言う感じで苦笑いしていく。
やがて、お下げにメガネの小柄な子が「ごめん、ごめん」と言いながらやってきた。で、だれかがおかしな事を言ったんだろう。ひときわ大きな笑いの輪になり、校門に向かった。
途中に、なにか小さな祠(ほこら)のようなものがあり、ゴムボールたちは、その前までくると弾むことを止め、祠にむかって、神妙な顔でお辞儀した。そして、校門を出る頃には、もとのゴムボールに戻って、坂を昇り始めていった。
「あの祠、奉安殿……」
「よく知ってるわね」
「でも、この景色は……」
「あの桜の記憶。乃木坂女学校が、まだ良かったころ……そして、一番愛おしいころの記憶」
「……なぜ、こんなものが見えるんですか」
「あなたに、その力があるから」
仁和さんが黒板を一拭きするように手を振ると、景色はもとに戻った。
グラウンドの桜並木を歩きながら、仁和さんは、語り続けてくれた。不思議に人が寄ってこない。こういうときの仁和さんには話しかけちゃいけない暗黙のルールでもあるのだろうか。
「そんなものないわよ。わたしが、そう思えば、そうなるの」
「どうして……」
心が読めるんだろう……。
「ホホ、わたしの超能力かな……さっき見えた女生徒や先生は、みんな空襲で亡くなったの。あの桜は、その人達が死んでいくとこも記憶してるけど、桜は、あえて良かった時代のを見せてくれた。これは意味のあることよ」
「どういう……」
「それは、真夏という子に託したいものがあるから……」
「仁和さん……ご存じなんですか……あ、なにか、そんなことを」
「ううん。なんとなくね……あなたは、ただのアイドルじゃない。そして、あなたがやろうとしていることは、とても難しいこと……それぐらいしか分からないけど、桜が見せてくれた人たちが死なずにすむように、あなたなら……」
仁和さん、真夏、お昼の用意ができました!
潤が、校舎の入り口のところで呼ばわった。
「ホホ、わたしの超能力も腹ぺこには勝てないみたいね」
昼食後、旧館の校舎の中で屋内の撮影。掃除用具のロッカーを木製のものに変えたり、アルミサッシが写らないようにカメラアングルを工夫したり、仁和さんと黒羽さんのこだわりは徹底していた。
帰りは、ロケバスと、観光バス二台で事務所に帰る。わたしは省吾たちといっしょに帰りたかったけど、そこは我慢。アイドルは団体行動!
仁和さんが、ニッコリ笑って横の席をうながした。
「仁和さん、タクシーじゃなかったんですか?」
「わたし、こういう方が好きなの。あなたとも、少し話しておきたかったし」
「はい……」
仁和さんは、お昼や休憩時間は、黒羽さんや他のメンバーとも話していた。でも、わたしと話したがっていることは確か。なんだか緊張する。
「寒そうだけど、見事な青空ね……」
「はい、冬の空って、透き通っていて好きです」
1941年のワシントンDCの青空を思い出していた。
「本当は、もっと違った青空の下で撮りたかったんでしょうね……」
一瞬、ギクリとした。
「ミツル君、福島の出身なの……覚えとくといいわ」
会長が口にしない歌の意味が分かったような気がした……。
47『桜の記憶』
うっすらと、セーラー服にモンペ姿の女学生の姿が見えてきた……!
「あれは……」
「じっと見ていて……」
女生徒は、もんぺ姿から、普通のセーラー服に変わり、視野が広がるようにまわりの様子が変わってきた。
女生徒の仲間が増えた。友だちを待っているんだろうか、弾んだゴムボールのように笑いあって……ハハ、先生に叱れれてる。みんなでペコリと頭を下げたけど、先生が通り過ぎると、またひとしきりの笑い声。
先生も、仕方ないなあと言う感じで苦笑いしていく。
やがて、お下げにメガネの小柄な子が「ごめん、ごめん」と言いながらやってきた。で、だれかがおかしな事を言ったんだろう。ひときわ大きな笑いの輪になり、校門に向かった。
途中に、なにか小さな祠(ほこら)のようなものがあり、ゴムボールたちは、その前までくると弾むことを止め、祠にむかって、神妙な顔でお辞儀した。そして、校門を出る頃には、もとのゴムボールに戻って、坂を昇り始めていった。
「あの祠、奉安殿……」
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「でも、この景色は……」
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「……なぜ、こんなものが見えるんですか」
「あなたに、その力があるから」
仁和さんが黒板を一拭きするように手を振ると、景色はもとに戻った。
グラウンドの桜並木を歩きながら、仁和さんは、語り続けてくれた。不思議に人が寄ってこない。こういうときの仁和さんには話しかけちゃいけない暗黙のルールでもあるのだろうか。
「そんなものないわよ。わたしが、そう思えば、そうなるの」
「どうして……」
心が読めるんだろう……。
「ホホ、わたしの超能力かな……さっき見えた女生徒や先生は、みんな空襲で亡くなったの。あの桜は、その人達が死んでいくとこも記憶してるけど、桜は、あえて良かった時代のを見せてくれた。これは意味のあることよ」
「どういう……」
「それは、真夏という子に託したいものがあるから……」
「仁和さん……ご存じなんですか……あ、なにか、そんなことを」
「ううん。なんとなくね……あなたは、ただのアイドルじゃない。そして、あなたがやろうとしていることは、とても難しいこと……それぐらいしか分からないけど、桜が見せてくれた人たちが死なずにすむように、あなたなら……」
仁和さん、真夏、お昼の用意ができました!
潤が、校舎の入り口のところで呼ばわった。
「ホホ、わたしの超能力も腹ぺこには勝てないみたいね」
昼食後、旧館の校舎の中で屋内の撮影。掃除用具のロッカーを木製のものに変えたり、アルミサッシが写らないようにカメラアングルを工夫したり、仁和さんと黒羽さんのこだわりは徹底していた。
帰りは、ロケバスと、観光バス二台で事務所に帰る。わたしは省吾たちといっしょに帰りたかったけど、そこは我慢。アイドルは団体行動!
仁和さんが、ニッコリ笑って横の席をうながした。
「仁和さん、タクシーじゃなかったんですか?」
「わたし、こういう方が好きなの。あなたとも、少し話しておきたかったし」
「はい……」
仁和さんは、お昼や休憩時間は、黒羽さんや他のメンバーとも話していた。でも、わたしと話したがっていることは確か。なんだか緊張する。
「寒そうだけど、見事な青空ね……」
「はい、冬の空って、透き通っていて好きです」
1941年のワシントンDCの青空を思い出していた。
「本当は、もっと違った青空の下で撮りたかったんでしょうね……」
一瞬、ギクリとした。
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