魔法少女マヂカ

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
14 / 301

014『神田明神の介入』

しおりを挟む
魔法少女マヂカ

014『神田明神の介入』 語り手・マヂカ     

 

 ジャンケンに負けてジュースを買いに行く途中だった。

 
 いそいそと一階の廊下を突き抜けて、食堂横に並んでいる自販機を目指す。

 あれ? 

 保健室の手前の部屋から白い手が出てきて手招きをしている。

 妖(あやかし)!

 そう思って身がまえると、とたんに、手はチガウチガウをするではないか。

 

 たしか、そこは倉庫のはずなのだが……そーっと近づいたが、わずか一センチほどの隙間からは中の様子が分からない。

 

 警戒しながら引き戸に手を掛ける、スーッと引き戸が開く。

 中は桜色に霞んで様子が分からないが、数メートル先に手首だけが浮いていて、人差し指でオイデオイデをする。

 邪悪なものは感じなかったので数歩進むと、桜色の霞が晴れて、目の前に巫女さんが立った。

「神田明神のお使いで参りました。渡辺真智香こと魔法少女のマヂカさんですね」

「そうだけど、何の用?」

「ジュースを買って、お仲間に渡したら、ただちに神田明神までお越しください」

「神田明神って……あの、神田にある?」

「はい、かならず正面の鳥居からお入りください。脇の階段から入ってしまうと別のドラマが始まってしまいますから。それと、先日、ブリンダさんから巻き上げた戦利品を必ずお持ちになってくださいませね。それでは、あなかしこあなかしこ~」

 それだけ言うと、アルカイックスマイルでさよならさよならをして消えてしまった。

 巫女さんが消えると、部屋は埃っぽい倉庫に戻った。

 そうだ、ジュースジュース!

 倉庫を出ると廊下にケルベロスが居た。

「おまえ、犬の姿の時は四つ足になってろよな」

 ケルベロスは、中年の刑事のように窓に寄り掛かり、思案顔で立っていたのだ。

「どうやら横やりが入ってしまった。いいか、神田明神は魔王様でも手が出せない。いい子にしてるんだぜ」

「魔王は神田明神に借りでもあるのか?」

「魔界にも仁義ってもんがあるんだ。くれぐれも無礼のないようにな」

 それだけ言うと、ケルベロスは犬らしく四つ足にもどって校舎を出て行った。

 

「悪い、野暮用ができてしまった。ジュースはオゴリにしとくから」

 

 ジュースのパックを机にのせると、ポカンとする調理研の三人を置いて学校を出る。

 ポケットの中に戦利品があることを確認して日暮里から電車に乗る。

 鶯谷、上野、御徒町を過ぎて秋葉原。

 一度は行ってみたいと思っていたアキバに背を向けて反対側の神田明神を目指す。

 なるほど、気持ちのままに進んでしまうと外神田から男坂の大石段のところに出てくる。

 ファイトォ ファイトォ

 後ろから運動部みたいな掛け声がかかって来るので、振り返ると『観客動員数1,000万人突破!興行収入も145億円!』のキャプションを背負ったジャージ姿の女子高生が駆けてくる。

 瞳の中にキラキラと星を輝かせて、わたしを追い越していく。

 なるほど、これを追いかけたら魔法少女ではなく、スクールアイドルのドラマが始まってしまう。

 

 ぐるりと回って大鳥居。潜ったところに、さっきの巫女さんがニコニコしている。

 

「まずは、手水舎で清めてくださいませ」

「清める?」

 いっしゅん裸になって水ごりでもするのかと思ったら、口を漱いで手を洗うことだった。

 
「まず、右手で柄杓を持って水を汲み、左手にかけて左手を清めます……次に柄杓を左手に持ち替えて、同じように右手を清めます……その次に柄杓を右手に持ち換え、左の手のひらに水を受け、その水を口にふくんで……あ、飲んではいけません」

 
 慣れないもので飲んでしまった!

「……粗忽者」

 すぐ横で気配。チラ見するとブリンダが手馴れた様子で同じことをやっている。

「お、おまえも!?」「魔法少女たる者、これくらいの作法は身につけておけ」「なにを!?」

「御神前です。いさかいはなりません」

「やーい、叱られてやんの」

「ブリンダさんも挑発してはいけません」

「フフ」

 互いにガンを飛ばしあい、いっしょに一礼をして鳥居をくぐった。

 鳥居を潜ると、それまで見えていた参拝者や観光客の姿が消えて、拝殿の前には赤糸縅の大鎧を身にまとったオッサンが立っていた。

「神田神社御祭神の平将門さまであられます」

 巫女さんが恭しく紹介をする。

「魔法少女マヂカとブリンダであるな」

「「は、はひ」」

 二人そろって声が裏返ってしまう。

「まずは、戦利品の交換をいたせ」

「「あ、えと……」」

 御祭神とはいえ、オッサンの目の前にさらすのは恥ずかしい。

「さっさといたさぬか!」

「「は、はい」」

 ソロリとポケットから出す。

「神田明神が見届けるのだ、高々と掲げよ!」

「「は、はひ!」」

 縞柄のブラと花柄のパンツを聖火のように掲げる。

「それぞれに歩み寄り、静々と交換いたせ!」

 言われた通りに歩み寄って、おりから起こる『勇者は帰る』の演奏付きで交換をする。

「よし、されば申し渡す。この東京の街は我が神田明神の支配地である。この地の安寧を預かる者として、その方ら魔法少女の武力衝突を看過することはできん。されど、宿怨の仲であるお前たちに無条件の和解を誓わせるのも味気なく無意味なことである。よいか、これからは、互いに善行を積むことによって勝負といたせ。その旨、儂の方からも魔王に申し入れておく。両名とも、これよりは世のため人の為に善行に励むよう、善行であるならば、多少の魔力の使用は認めてやる。よいか」

「「は、ははーー」」

「では、両名とも励めや! 競えや! あなかしこあなかしこ……」

 ヘビメタのライブ百回分くらいの雷鳴がとどろき、電光が駆け巡った!

 ピカーーードロドローーン!!

 キャーーーー!

 魔法少女らしからぬ悲鳴を上げて、不覚にもブリンダと抱き合ってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...