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021『弁天様は江ノ島高校の児玉八音』
しおりを挟む魔法少女マヂカ
021『弁天様は江ノ島高校の児玉八音』 語り手:マヂカ
江ノ電の二両目から降りると、改札の向こうに弁天様が居るのが分かった。
むろん江ノ島弁天のトレードマークである『素っ裸に琵琶を持った姿』ではない。
「すみません、および立てして」
ペコリと頭を下げると、小さなサイドポニテと二次元用語でいうアホ毛がゆらりとそよぐ。やや多すぎる前髪、これで右目に眼帯をしていれば中二病の女子キャラそっくりだ。じっさい来ている制服は紺のブレザーにチェック柄のエンジのスカート。
「狙ってるわけじゃなくて、地元の江ノ島高校の制服なんですよ」
なるほど、揃って歩くと、同じ制服を着た生徒たちが追い越していく。「ヤツネお先」「児玉先輩、さようなら」「お先です」というような声を掛けられる。どうも、間に合わせに作ったアバターなどではないようだ。声をかけてくる同級生や後輩にいちいち笑顔を返していくところなど、青春ドラマの主人公といった感じだ。
「普段は、児玉八音(こだまやつね)という名前で高校に通ってるんです。日ごろから若い人に囲まれていることで元気になれますもんね」
――あなただってそうでしょ?――という目をされると、なんだか小学生の時に引っ越していった幼なじみに再会したような懐かしい気恥ずかしさを感じさせる。やっぱ、江ノ島観音という誰からも愛される神さまは違うんだなあと感心させられる。
「八音というのは……八臂弁天の八と妙音弁天の音……ですか?」
「さすがは魔法少女、察しがいい!」
「なんか、まんまって感じですね」
「渡辺さんの真智香もマヂカなんでしょ?」
「うん、あんまり離れた名前だと影が薄くなった感じになっちゃう気がして」
「あー分かります。人と一緒に居ても、どこかで自分は弁天なんだって意識が無いとグズグズになってしまいそうですよね」
「えと、大先輩に言うのもなんですけど、敬語とかはやめときません? 普通に喋ってもいいですか?」
「あ、ああ、もちろん! ごめんね、ついうちの商売柄丁寧になっちゃって。あ、ここが家よ」
立ち止まったところは、駅からの商店街が海岸通りと三叉路を作っている角にあるお土産屋さんと旅館を兼ねたお家だ。ここを過ぎると、商店街が果てて俄かに湘南の海の大パノラマが開けてくるところで、なんだか、湘南を舞台にしたアニメ映画の始まりのような高揚感があって、無事に大団円を迎えなければならないという気にさせられる。
ひょっとしたら、江の島弁天さまというのは、かなりのやり手なのかもしれない。
『旅館・貸席』と金文字で書かれたガラス戸は平成・昭和どころか白熱球に似せたアンバーの照明と相まって大正か明治の匂いをさせている。
腹をくくって話を聞かなければならないと思う魔法少女であったのだ……。
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