魔法少女マヂカ

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
65 / 301

065『M資金・2 防衛省食堂の地下』

しおりを挟む
魔法少女マヂカ

065『M資金・2 防衛省食堂の地下』語り手:来栖司令  

 

 
 大戦末期、実に国家予算の95%が軍事費であった。

 それでも不安と不足を感じた軍部は、鍋の底をさらえるようにして金銀財宝を徴発し、それを活用することもなく終戦を迎えた。その金銀財宝をM資金という。

 父は福井の、ちょっと名の通った真宗寺院の長男だ。子どものころはお盆の帰省で幾度ともなく帰ったが、寺の鐘は御本尊の阿弥陀様や本堂に比べて新しく、十円玉のように初々しい赤銅色だった。

 父の話では、戦時中の供出で釣鐘を軍に持っていかれて行方不明になった。諦めて新造しようという声もあったが、室町時代に鋳造されたという釣鐘を諦められず、長らく行方を探したが、戦後四半世紀を経ても所在が分からず、檀家や本山と相談して、ようやく新造したのだ。

 寺の釣鐘でさえ返っていないのだ、M資金も、あるいは、いまだに発見されずに眠っているのかもしれない。

「この壁の向こうなんです」

 大臣を蕎麦打ち名人にした食堂のおばちゃんは、地下室のドアを開けた。

「市ヶ谷に士官学校があったころから、食堂や酒保(軍隊の売店)を出していた関係で、いろいろ頼まれていたんですよ。上は陸運大臣から士官学校の学生まで。いえね、元をただせば、ここにあった大名屋敷のころからお仕えしていましたからね、初代蕎麦聖の嫁もうちから出てましてね、その縁で、うちは蕎麦打ちがお家芸というわけで……ま、息子も娘も蕎麦にも食堂にも関心がありませんでね、大臣が受け継いでくださって……いえいえ、本題、本題……こっちです」

 おばちゃんの話に付き合っているうちに、地下三階にたどり着いた。

 旧軍の名残のようで、三方の壁はかび臭いレンガ造りである。

「ここをね……」

 おばちゃんが、レンガの幾つかを押し込むと、ゴゴゴ……と音がして、壁の一角が開いた。ハリポタの映画で、こんなシーンがあった……そう思って、足を踏み入れると……。

 教室三つ分ほどの広さであろうか……土の地肌剥き出しの空間であった。

 自然の洞窟などではありえない方形になっていて、ついこないだまでは、レンガかなんぞで内装されていたことを偲ばせる。

「ここは、母や祖母から開かずの間として伝わっていたんですよ『開け方は教えるが、けっして開けてはいけない』と言われてました。防衛省も、この上のレンガの地下までしか存在を知らなかったんですよ。なんせ、わたしも、ついこないだ開けたばかりで。ほら、先週地震がありましたでしょ。あの時、地下でゴロゴロ音がしましてね、長年の勘で、いちばん地下のここだと思って、こっそり開けてみたら、このありさま」

「何があったかは……」

「生まれて初めて入ったもんで……お気づきだとは思うんですが、確かに。ここには何かがあったんですよ。ほら、突き当りに穴が開いてるでしょ」

 おばちゃんが懐中電灯で照らすと、食パンの断面のような穴が開いていて、はるか遠くまで続いている。

「あの、向こうは?」

「いえ、まだ調べてません。防衛省でも、限られた人しかね……」

「これを魔法少女に調べさせようと……」

「大臣は、ただ、お見せするようにって……おやりになります?」

「いやはや……」

 
 もう一度、大臣に掛け合うところからやり直すことにした。

 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...