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065『M資金・2 防衛省食堂の地下』
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魔法少女マヂカ
065『M資金・2 防衛省食堂の地下』語り手:来栖司令
大戦末期、実に国家予算の95%が軍事費であった。
それでも不安と不足を感じた軍部は、鍋の底をさらえるようにして金銀財宝を徴発し、それを活用することもなく終戦を迎えた。その金銀財宝をM資金という。
父は福井の、ちょっと名の通った真宗寺院の長男だ。子どものころはお盆の帰省で幾度ともなく帰ったが、寺の鐘は御本尊の阿弥陀様や本堂に比べて新しく、十円玉のように初々しい赤銅色だった。
父の話では、戦時中の供出で釣鐘を軍に持っていかれて行方不明になった。諦めて新造しようという声もあったが、室町時代に鋳造されたという釣鐘を諦められず、長らく行方を探したが、戦後四半世紀を経ても所在が分からず、檀家や本山と相談して、ようやく新造したのだ。
寺の釣鐘でさえ返っていないのだ、M資金も、あるいは、いまだに発見されずに眠っているのかもしれない。
「この壁の向こうなんです」
大臣を蕎麦打ち名人にした食堂のおばちゃんは、地下室のドアを開けた。
「市ヶ谷に士官学校があったころから、食堂や酒保(軍隊の売店)を出していた関係で、いろいろ頼まれていたんですよ。上は陸運大臣から士官学校の学生まで。いえね、元をただせば、ここにあった大名屋敷のころからお仕えしていましたからね、初代蕎麦聖の嫁もうちから出てましてね、その縁で、うちは蕎麦打ちがお家芸というわけで……ま、息子も娘も蕎麦にも食堂にも関心がありませんでね、大臣が受け継いでくださって……いえいえ、本題、本題……こっちです」
おばちゃんの話に付き合っているうちに、地下三階にたどり着いた。
旧軍の名残のようで、三方の壁はかび臭いレンガ造りである。
「ここをね……」
おばちゃんが、レンガの幾つかを押し込むと、ゴゴゴ……と音がして、壁の一角が開いた。ハリポタの映画で、こんなシーンがあった……そう思って、足を踏み入れると……。
教室三つ分ほどの広さであろうか……土の地肌剥き出しの空間であった。
自然の洞窟などではありえない方形になっていて、ついこないだまでは、レンガかなんぞで内装されていたことを偲ばせる。
「ここは、母や祖母から開かずの間として伝わっていたんですよ『開け方は教えるが、けっして開けてはいけない』と言われてました。防衛省も、この上のレンガの地下までしか存在を知らなかったんですよ。なんせ、わたしも、ついこないだ開けたばかりで。ほら、先週地震がありましたでしょ。あの時、地下でゴロゴロ音がしましてね、長年の勘で、いちばん地下のここだと思って、こっそり開けてみたら、このありさま」
「何があったかは……」
「生まれて初めて入ったもんで……お気づきだとは思うんですが、確かに。ここには何かがあったんですよ。ほら、突き当りに穴が開いてるでしょ」
おばちゃんが懐中電灯で照らすと、食パンの断面のような穴が開いていて、はるか遠くまで続いている。
「あの、向こうは?」
「いえ、まだ調べてません。防衛省でも、限られた人しかね……」
「これを魔法少女に調べさせようと……」
「大臣は、ただ、お見せするようにって……おやりになります?」
「いやはや……」
もう一度、大臣に掛け合うところからやり直すことにした。
065『M資金・2 防衛省食堂の地下』語り手:来栖司令
大戦末期、実に国家予算の95%が軍事費であった。
それでも不安と不足を感じた軍部は、鍋の底をさらえるようにして金銀財宝を徴発し、それを活用することもなく終戦を迎えた。その金銀財宝をM資金という。
父は福井の、ちょっと名の通った真宗寺院の長男だ。子どものころはお盆の帰省で幾度ともなく帰ったが、寺の鐘は御本尊の阿弥陀様や本堂に比べて新しく、十円玉のように初々しい赤銅色だった。
父の話では、戦時中の供出で釣鐘を軍に持っていかれて行方不明になった。諦めて新造しようという声もあったが、室町時代に鋳造されたという釣鐘を諦められず、長らく行方を探したが、戦後四半世紀を経ても所在が分からず、檀家や本山と相談して、ようやく新造したのだ。
寺の釣鐘でさえ返っていないのだ、M資金も、あるいは、いまだに発見されずに眠っているのかもしれない。
「この壁の向こうなんです」
大臣を蕎麦打ち名人にした食堂のおばちゃんは、地下室のドアを開けた。
「市ヶ谷に士官学校があったころから、食堂や酒保(軍隊の売店)を出していた関係で、いろいろ頼まれていたんですよ。上は陸運大臣から士官学校の学生まで。いえね、元をただせば、ここにあった大名屋敷のころからお仕えしていましたからね、初代蕎麦聖の嫁もうちから出てましてね、その縁で、うちは蕎麦打ちがお家芸というわけで……ま、息子も娘も蕎麦にも食堂にも関心がありませんでね、大臣が受け継いでくださって……いえいえ、本題、本題……こっちです」
おばちゃんの話に付き合っているうちに、地下三階にたどり着いた。
旧軍の名残のようで、三方の壁はかび臭いレンガ造りである。
「ここをね……」
おばちゃんが、レンガの幾つかを押し込むと、ゴゴゴ……と音がして、壁の一角が開いた。ハリポタの映画で、こんなシーンがあった……そう思って、足を踏み入れると……。
教室三つ分ほどの広さであろうか……土の地肌剥き出しの空間であった。
自然の洞窟などではありえない方形になっていて、ついこないだまでは、レンガかなんぞで内装されていたことを偲ばせる。
「ここは、母や祖母から開かずの間として伝わっていたんですよ『開け方は教えるが、けっして開けてはいけない』と言われてました。防衛省も、この上のレンガの地下までしか存在を知らなかったんですよ。なんせ、わたしも、ついこないだ開けたばかりで。ほら、先週地震がありましたでしょ。あの時、地下でゴロゴロ音がしましてね、長年の勘で、いちばん地下のここだと思って、こっそり開けてみたら、このありさま」
「何があったかは……」
「生まれて初めて入ったもんで……お気づきだとは思うんですが、確かに。ここには何かがあったんですよ。ほら、突き当りに穴が開いてるでしょ」
おばちゃんが懐中電灯で照らすと、食パンの断面のような穴が開いていて、はるか遠くまで続いている。
「あの、向こうは?」
「いえ、まだ調べてません。防衛省でも、限られた人しかね……」
「これを魔法少女に調べさせようと……」
「大臣は、ただ、お見せするようにって……おやりになります?」
「いやはや……」
もう一度、大臣に掛け合うところからやり直すことにした。
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