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069『M資金・6 消しゴムが床に落ちるまで・1』
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魔法少女マヂカ
069『M資金・6 消しゴムが床に落ちるまで・1』
教室の窓は南側に面している。
自然光を取り入れるためと、冬場の寒さを緩和するためだ。
しかし、夏場の窓際はかなわない。
昨日の席替えで、窓際になった。
四月の新学年早々は窓際だった。すぐ前の席が友里で、うかつにも魔法を使って昼ご飯を食べているところを目撃され、友里と、その友達のノンコと清美を仲間に曳き入れざるを得なくなった。口の悪いブリンダなどは「眷属だな」と言うが、わたしは仲間だと思っている。
昨日の席替えで、立石和香(たていしのどか)さんが前にやってきた。
名前のとおり、おっとりした子で、緩い笑顔がデフォルト。この子が銀行の窓口に座っていたら余計に預金をしてしまいそうだな……とか思う。
窓側の席は、冷房が効いていても左半身が暑い。太陽熱をまともに浴びるからだ。
むろん、カーテンを閉めているのだが、カーテンそのものが熱を帯びて暖房器具のようになってしまうのだから、どうしようもない。
魔法少女のわたしは、この程度のことはなんでもないんだけど、学校では普通の女子でなければならない。さっきも言ったけど、うっかり魔法を使ってお弁当を食べて(箸を使わずに、おかずを空中浮遊させて口に運ぶ)正体がバレそうになった。それ以来気を使っている。
左半身に汗を浮かべ、ちょっと物憂そうに頬杖をついたりして感じを出している。
しかし、立石さんは泰然と授業を受けている。程よく背を丸めてノートをとる姿は、同性のから見ても可憐で、時々――あ、そか――なるほど――という感じで頷いているのも好ましい。
よく見ると、立石さんの席は柱の陰になっていて、他の窓際席に比べて太陽光の被害を被らない。
そういうことかと思ったが、柱はもう一本あって、そこの男子は突っ伏して寝てしまっている。なんか可笑しく指の先でシャーペンを回したりする。
楽しいんだ。
普通に授業を受けて、ボンヤリと前の席の人を観察したり、授業に気を抜いたりするのが。こういうのが普通の女子高生なんだ。汗だくで二回目の板書をしている先生には、申し訳ないんだけど、わたしは、魔法少女モードをオフにして緩い五時間目を楽しんでいる。
ノートをとりながら、初秋の調理研のメニューを考えてみたりする。
サンマとか松茸とかの秋の味覚……二つとも、ちょっとお高い。サンマや松茸を思い浮かべるのが女子高生らしくないかもしれない。仕方がない、中身は八百歳になろうかという魔法少女なのだ。M資金問題もバルチック魔法少女たちが絡んでいて、とても面倒になりそう。ほんのひと時緩んでもバチは当たるまい。
立石さんが消しゴムを落としそうになっている。
机の隅に置いた消しゴムに、彼女の肘が当たっているのだ。
言ってあげようか……あ、落ちた。
消しゴムは、スローモーションで机から落ち始める。
空中で一回転した消しゴムで思い出した。
立石さんが消しゴムを落とすのがサインなんだ。緊急出動の。
たちまち強制魔法少女モードにもどって、わたしは亜空間に放り出された!
069『M資金・6 消しゴムが床に落ちるまで・1』
教室の窓は南側に面している。
自然光を取り入れるためと、冬場の寒さを緩和するためだ。
しかし、夏場の窓際はかなわない。
昨日の席替えで、窓際になった。
四月の新学年早々は窓際だった。すぐ前の席が友里で、うかつにも魔法を使って昼ご飯を食べているところを目撃され、友里と、その友達のノンコと清美を仲間に曳き入れざるを得なくなった。口の悪いブリンダなどは「眷属だな」と言うが、わたしは仲間だと思っている。
昨日の席替えで、立石和香(たていしのどか)さんが前にやってきた。
名前のとおり、おっとりした子で、緩い笑顔がデフォルト。この子が銀行の窓口に座っていたら余計に預金をしてしまいそうだな……とか思う。
窓側の席は、冷房が効いていても左半身が暑い。太陽熱をまともに浴びるからだ。
むろん、カーテンを閉めているのだが、カーテンそのものが熱を帯びて暖房器具のようになってしまうのだから、どうしようもない。
魔法少女のわたしは、この程度のことはなんでもないんだけど、学校では普通の女子でなければならない。さっきも言ったけど、うっかり魔法を使ってお弁当を食べて(箸を使わずに、おかずを空中浮遊させて口に運ぶ)正体がバレそうになった。それ以来気を使っている。
左半身に汗を浮かべ、ちょっと物憂そうに頬杖をついたりして感じを出している。
しかし、立石さんは泰然と授業を受けている。程よく背を丸めてノートをとる姿は、同性のから見ても可憐で、時々――あ、そか――なるほど――という感じで頷いているのも好ましい。
よく見ると、立石さんの席は柱の陰になっていて、他の窓際席に比べて太陽光の被害を被らない。
そういうことかと思ったが、柱はもう一本あって、そこの男子は突っ伏して寝てしまっている。なんか可笑しく指の先でシャーペンを回したりする。
楽しいんだ。
普通に授業を受けて、ボンヤリと前の席の人を観察したり、授業に気を抜いたりするのが。こういうのが普通の女子高生なんだ。汗だくで二回目の板書をしている先生には、申し訳ないんだけど、わたしは、魔法少女モードをオフにして緩い五時間目を楽しんでいる。
ノートをとりながら、初秋の調理研のメニューを考えてみたりする。
サンマとか松茸とかの秋の味覚……二つとも、ちょっとお高い。サンマや松茸を思い浮かべるのが女子高生らしくないかもしれない。仕方がない、中身は八百歳になろうかという魔法少女なのだ。M資金問題もバルチック魔法少女たちが絡んでいて、とても面倒になりそう。ほんのひと時緩んでもバチは当たるまい。
立石さんが消しゴムを落としそうになっている。
机の隅に置いた消しゴムに、彼女の肘が当たっているのだ。
言ってあげようか……あ、落ちた。
消しゴムは、スローモーションで机から落ち始める。
空中で一回転した消しゴムで思い出した。
立石さんが消しゴムを落とすのがサインなんだ。緊急出動の。
たちまち強制魔法少女モードにもどって、わたしは亜空間に放り出された!
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