魔法少女マヂカ

武者走走九郎or大橋むつお

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073『M資金・10 消しゴムが床に落ちるまで・5』

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魔法少女マヂカ

073『M資金・10 消しゴムが床に落ちるまで・5』語り手:マヂカ 

 

 駆けつけると、ブリンダは十数体のツェサレーヴィチと戦っていた。

 やみくもに切ってしまったために数が増えてしまったのだ。

「だから、切るなと言っただろ!」

「一刀両断がオレの剣だ、体が、勝手に動いてしまう!」

「剣を真っ直ぐ構えて、体ごとぶつかっていけ! ぶつかったら、抱きしめて動かせるな! 動かれると両断になってしまって、そこから数が増えてしまうぞ!」

「くそ!」

 側面から振りかぶってきた敵を身かわして串刺しにするブリンダ。

「掴まえて! 離すな!」

 セイ! セイ! セイ! セイ!

 横抱きにされているツェサレーヴィチを、ひたすらに突きまくる。

「ちょ、オレが刺される!」

「うまく躱しなさい!」

 グエーー!

 度重なる突きに断末魔の声をあげるツェサレーヴィチ。あと一突きというところで、別のツェサレーヴィチが挑みかかって来る。瀕死の敵はブリンダを振り切って斜め上に逃げる。放置しておけば、瞬くうちに回復してしまう。

「させるかあ!」

 背後から締め上げて、さらに突きを入れて、なんとか霧消させる。次! そう思ったら、ブリンダは斜め下で敵を両断してしまっていた。

「ブリンダあ!」

「すまん!」

 ブリンダの斬撃癖で、敵はなかなか減らなかったが、五体増やしたところで、ようやく連携がとれるようになって、十分後に敵は二体にまで減った。

「さあ、コツは掴んだ、覚悟しろ!」

 すると、あろうことか、二体の敵は互いの体を、抱き合うようにして刺し貫いた!

 壊れた消火栓のように、抱き合った二人の体から血が噴き出ていく。両断するのではと警戒したが、ハッシと抱き合った腕は緩む様子がない。

「お、おまえら、死ぬぞ!」

 ブリンダが顔色を変える。

 先の大戦のころも、そうだったが、敵が自殺的行為を行うと顔色を変えて非難する。神風特攻やバンザイ突撃には終戦まで憤っていた。

 わたしはわたしで、力及ばず自決する敵にとどめを刺すなどできない。してはならない、せめて見届けてやろう。風切丸を鞘に納めた。わたしは日本の魔法少女なのだ。

「スパシーボ……」

「武士の情けね……」

「言い残すことはあるか?」

「ロシアは貧しい……」

「世界最大の国土を持ちながら、国の経済は火の車よ……」

「偉大なロシアを取り戻すためには、あのM資金が必要なのよ……」

「自信が必要なの……形だけでも日本の魔法少女に勝たなければ……」

「ウラル山脈ように高い誇り……」

「バイカル湖を覆う氷よりも固い決意……」

「ツェサレーヴィチは、ロシアに殉ずる……あ、もう……」

「力が……」

「お願い、トドメを……」

「お、おまえら……!」

 ブリンダはナイアガラの滝のように涙をあふれさせた。ミズーリ号に飛び込んだ特攻機に涙していたころのブリンダを思い出す。

「おまえら、よく戦った。介錯してやるぞ!」

「待て!」

 言ったときには、ブリンダは二人の首をはねていた。

「しまった!」「ブリンダあ!」

 大量の出血のためか、傷口から復活したのは一体だけだった。それも、歯向かってくることはなく、後ろのゲートから弱弱しく逃げて行った。

「くそ! 追うぞ!」

「よせ」

 わたしはブリンダを止めた。

「もう、あいつに戦う力は残っていない」

「そ、そうか……そうだな」

 
 しかし、わたしが甘かった。

 戦う力は残っていなかったが、金塊をテレポさせる力は残っていたようで、気づいてから取り戻せた金塊は、インゴット二つ分だけであった。

 

 
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