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145『行く春や 鳥泣き魚の目に泪』
しおりを挟む魔法少女マヂカ
145『行く春や 鳥泣き魚の目に泪』語り手:友里
ちょっとした峠に差し掛かった。
峠と言うのは字の通り山の上と下にあるもので、目の前に迫っているのは山の上の方の峠。
「峠を越したら、なにか新しいものに出会えそうね」
そう言うと、マジカがクスリと笑った。
「友里、楽しくなってきたんでしょ?」
「え、あ……かもね。人さらい雛が出てからは、ずっと穏やかだしね」
「ま、いいけどね。この先何があるか分からない、リラックスできる時にはリラックしておいた方がいい」
ワン
わたしよりも先にツンが返事した。
でも、返事の意味は違っていて、トコトコと速足になって、峠に向かっていった。
「自分が偵察するからゆっくり来てくれってさ」
「できた子ね」
「西郷さんの仕込みがいいんでしょ」
ツンは、峠に至ると、鼻をヒクヒクさせて周囲を探った。
「仕事熱心なんだ」
「あれはあれで楽しんでいるんだよ、ほら、尻尾をゆったりと振ってるでしょ」
「ほんとだ」
「なかば遊びだ」
マヂカの言葉が当たって、しばらくすると、つまらなさそうにツンは戻ってきた。
「峠の向こうは平穏そうなんだね」
「ああ、そうみたいね」
口笛でも吹いてみたい気になったけど、峠の向こうから変なのがやってきた。
サンダル履きジャージ姿で首からIDをぶら下げてる。ポケットに手を突っ込んで、脇に挟んだものに気づく前に、このオッサンは学校の先生だろうと思った。
脇に挟んでいるのは出席簿と閻魔帳だ。目に光が無くて、せかせかしながら距離を詰めてくる。
「気をつけなさい、この先に変な奴がいる」
「変だけじゃ分からない」
マヂカが聞きとがめると、そいつは『不味い奴に声をかけた』という不快感を見せながらも応えた。
「峠を越えて少し行くと開けたところがある、そこに女生徒が突っ立ってるんだが、道行く人に『見ろ見ろ見ろ』とせっつくんだ。なにを見ろっていうんだって聞いても答えない。保健室には連絡しておいたから、すぐに迎えはくるんだろうが、見かけても声はかけないことだ。もし目が合ったら『保健室にいきんさい』と言えばいい。指導したことにはなるから。じゃな……」
オッサンは目も合わせずに行ってしまった。
「どうする、きっと妖か霊魔だよ」
「違うと思うよ」
「そうなの?」
「ツンが詰まらなさそうだし、わたしも、そんな気がしない」
峠にさしかかると聞こえてきた。
ミロミロミロミロミロミロ……ミロミロミロミロミロミロ……ミロミロミロミロミロミロ……
「あれだな……」
向かって左側に少し開けた空き地のようなところがあって、セーラー服の女子生徒が「見ろ見ろ見ろ見ろ……」と歌うように言っている。
「あの体で、よく通る声ねえ」
「あの子の後ろに窪みがあるでしょ」
マヂカが示したところが少し窪んでいる……近づいてみると、それは穴というかトンネルのようになっていて、そこに声が反響して大きく聞こえているみたいだ。
知らんふりして行こうと思ったら、マヂカが立ち止まってしまった。
「い、行こうよ『保健室に行きなさい』って言ってさ(^_^;)」
「『見ろ』って言ってるように聞こえるか?」
「え、違うの?」
「『見ろ』じゃないよね」
すると、女生徒の『見ろ』は数秒間だけ停まった。
「『見ろ』 36のもじりだな」
「あ?」
マヂカが言うと「36 36 36 36 36 36 36 36 36……」に聞こえ始めた。
「な……」
「『36』……なんの数字だろう?」
「掛けたら36になるのは?」
「え……4×9……かな?」
ワン
「ツンが正解だと言ってる」
「4×9……49 49 ヨンク?」
「シクだよ」
「シク シク シク……泣いてるの?」
「知って欲しかったんだ、ここで泣いているのを。行く春を惜しんでいるんだ」
「嬉しい……やっと……」
ビューーーーーーズボッ!!
そこまで言うと、女生徒は、急に奥行きの増した穴に吸い込まれて行ってしまった。
直後に、穴の向こうに魚が見えたような気がしたんだけど、直後に閉じてしまって、穴ごと見えなくなってしまった。
「なんだったの?」
「あの穴は、次元の狭間に開いた綻びなのよ」
「綻び?」
「うん、神田明神の力が衰えているからねえ」
「で、あの子は?」
「あの子の世界では、今度の春が最後なんだよ。俳句にあるだろ『行く春や 鳥泣き魚の目に泪』って」
「え……え? それってダジャレ?」
「さあね」
「あ、待ってえ!」
歩きながら思い出した『鳥泣き……』は『鳥啼き……』のはずだよ。テストじゃ不正解だよ。
「そんなだから、見えなかっただろ」
「なにが?」
「魚の涙」
「アハハハ」
え? え? 訳わかんないよ~!
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