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156『壬生 オモチャの城・2』
しおりを挟む魔法少女マヂカ
156『壬生 オモチャの城・2』語り手:マヂカ
脊髄反射というのがあるよね。
熱いものに触れた時、思わずで手を離して耳たぶを掴むような。なにかに躓いた時、思わず手を突い身を庇うような。ボールが顔面に飛び込んだ時、思わず目をつぶってしまうような。
人が緊急事態に陥ったとき、脳みその指令を待つことなく脊髄神経の反射だけで回避行動とることを云う。
目とか耳とかの感覚器官から危険情報が脳みそに伝わって、それから脳みそが対処法を選択して回避していてはとっさに間に合わないからだ。
だから脊髄反射の発動を表現すると『思わず』という枕詞が付く。
魔法少女にも脊髄反射がある。脊髄魔法と言ってもいい。
ドッカーーーーーーーーーーーーーン!!
いきなりの衝撃が来て、その脊髄魔法を使ってしまった。
緊急脊髄魔法、空蝉の術!
セミの抜け殻のように自分の抜け殻だけを吹き飛ばし、敵が抜け殻に気をとられているうちに敵の足許や懐近くに忍び寄って、敵の息の根を止める。あるいは遁走する。
わたしは敵の足元に這い寄った。
這い寄れニャルカさん! いや、這い寄れマジカ!
なんかパクリっぽい……いや、今は緊急事態なんだ!
一肌脱いでしまったので、ちょっと描写を憚られるような姿になって、敵を見上げる。
シロの母親が言った通り、敵の足はコンクリートの下駄を履いた鉄骨のトラス構造だ。
あまりに下から見上げたので、微かに見え隠れする首のあたりを確認することは出来ない。
しかし、この佇まいは紛れもなく東京タワー。
春日部の送電鉄塔が化けた銀龍や赤白龍でも、あれだけの苦戦を強いられたのだ。
―― 足を狙っては手間取るばかり、一気に首に迫ろう! ――
決めると行動は早い。
セーーーーーーーーーーイ!
跳躍すると、猿(ましら)の如く鉄骨を蹴って上を目指す。
トラスを構成する鉄骨は、守備という点では無類の強さを発揮するが、敵に攻撃の足場を与えるという点では、大きな弱点だ。
セイ セイ セイ セイ セイ セイ セイ セーーイッ!
たちまちのうちにメインデッキ(第一展望台)を過ぎてトップデッキ(第二展望台)に迫る。
ユオーーーン ヤオーーーン ヤンユヨーーーン
タワーは身をよじって、振り落とそうとするが、大きな図体では機敏さに欠ける。
―― わたしを足許に転がしたのが間違いだったわね ――
トップデッキに手を掛けると同時に風切丸を抜いて、息つく間もなく薙ぎ払う!
トップデッキから上が消し飛んだ……と思った。
しかし、あまりにも手応えがない。
明らかに、首はとったよな?
数秒呆気にとられていると、再び首に当るアンテナ部分が現れた。
「小癪なあ!」
渾身の力で、さらに一閃! 一閃! また一閃!
一閃した直後の二三秒、首は姿を消すが、すぐに回復する。
おかしい、回復力があるとしても、切断した首は吹き飛ぶか、転げ落ちるかするはずだ。
ユヨーーーン!
一塊のトラスが、生き物のように伸びて、わたしを薙ぎ払おうとする。
セイ!
あれは?
跳躍して分かった。
トップデッキの四隅から光が伸びて、ホログラムのように像を結んでいるのだ。
「クソ!」
旋回しながら降下して、四隅の光源を粉砕する。
「やっぱりホログラムか」
では、こいつの首は?
一秒に足らない混乱、敵は思いもかけない反撃に出た。
膝を屈するようにして、敵の背丈が低くなっていくのだ。
グゴゴゴゴゴ…………
メインデッキトラスにしがみ付いたまま足許を窺う。
ポリゴン崩壊?
足元は、無数のポリゴンに変換されて崩れていく……のではなかった、ポリゴンたちは、数多の戦車に変身して、砲身をあり得ないほどの仰角にとって、わたしを狙い始めたのだ!
くそ、させるか!
上りの十倍の速度で駆け下り、足もとに群がる戦車に切りかかる。
シュパ シュパ シュパ
トップデッキから首を狙ったほどではないが、手ごたえが薄い。
仮にも戦車、いかに風切丸が名刀とは言え、鋼鉄を切るのだ、それなりの手ごたえがあるはず。まるで、プラスチックを切っているように緩いのだ。
ゴゴゴゴゴゴ……
空から地響き?
アア!
タワーが一気に崩壊し始めた。
ポリゴンに分裂したように見えるが、単なるポリゴンではなく、一つ一つの単位が質量を持っている。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
圧倒的な数と速度と脊髄魔法も間に合わず、圧倒的なそれに魔法少女は声をあげる間もなく埋もれていく。
なにを客観描写しているんだ……それに埋もれて自嘲してみるが、東京タワーを構成していたそれは、天文学的な数、層となって、わたしの身じろぎさえ奪っていく。
くそ、七十五年の眠りから覚めて一年あまり、カオスやバルチック魔法少女たちとの決着もつけずに、神田明神の期待にも何一つ応えられないまま果てるのか……。
クソオオオオ!
吠えた口の中に、たちまち、それが、それらが入り込んでくる。
これはヤバイと観念しかける自分がもどかしい。
わたしは……魔法少女マヂカなのだ……ぞ……
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