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162『日光・1』
しおりを挟む魔法少女マヂカ
162『日光・1』語り手:マヂカ
『これより日光市』の標識が見えてきた。
標識を見上げながら三人とも立ち止まってしまう(ツンが人の姿になったので三人と数える)。
標識が妙なのだ。
畳二枚分はあろうかという白地の標識は地表から七メートルほどの高さに照らし出されている。高速道路で見かける奴で、普通は道路をまたぐポールに吊り下げられているものだが、この標識は、上にも横にもポールが見えない。
それに、どこにも光源になるライトが見えないのに、薄闇の中に浮かび上がっているのだ。
なんとも怪しい。
それに、ここは高速道路はおろか、一般道でさえない。
道なりに進んで行くうちに舗装もされていない道に変わり、道を見失わないように歩いていると、いつのまにか森の中に迷い込んでいるのだ。
「わ!?」
ツンが驚くまで、一分近くも標識を見ていた。
「こんにちは」
標識から視線を下ろすと、標識の真下に女の子が立っている。
赤いワンピースにショートヘアの頭には赤いリボン、かわいい顔で大きな目は少しつり上がっている。こいつは……。
「言っとくけど猫娘じゃないから」
「あ……そう」
「でも、見た感じ……」
「猫娘じゃないから」
「あたし、犬娘のツン」
「だから猫娘じゃないから」
「分かった、その猫娘ではない君が、なにか用なのかい?」
「ダメと言っても入って来るだろうから、わたしが案内役に出てきたの。これから日光に入ってもらうけど、全てわたしの指示に従ってもらいます」
「ああ……えと、そういうのは好きじゃないんだけど」
「断るのは自由だけど、その時は、この森の案内もできないから」
「案内してもらわないとどうなるのかな?」
「道に迷うわ、出るのに何年かかるか分からない。魔法少女はバカみたいに長生きだからへっちゃらでしょうけど、犬は十年、人間も八十年ほどが限度でしょ」
魔法少女でも、そんなに迷っているのはごめんだ。
「困るでしょ、だから、わたしが案内。いいわね」
「こっちの正体は分かっているようだけど、こっちも、きみの正体が分からないんじゃフェアじゃないと思うよ」
「そ、そうよ」
「わん」
「わたしは、眠り猫娘」
「なんだ」
「やっぱり猫娘」
「わん」
「違うわ、猫娘の生みの親は水木しげるだけど、わたしのは左甚五郎だもん。ちょっと待ってね……」
眠り猫娘はスマホを出すと誰かと会話し始めた。
「はい、はい……分かりました宮司様、ご指示の通りに。もう三歩前に進んでくれる」
「お、おう」
三人おずおずと三歩進む。
ガッシャーーーーン
背後で音がしたかと思うと、鉄柵が現れて退路を断ってしまった。
「帰る時に開けてあげるから、じゃ、付いて来て……と、その前に、これを渡しておくわ」
眠り猫娘が茶封筒を差し出した。『日光市内での開封を禁ず』と注意書きがしてある。
「なんだ、これは?」
「お土産よ、西郷さんの本名が書いてある。探していたんでしょ」
「ほんとなのか、わん!?」
「そうニャア……って、動物語は止めてくれる、こっちまで伝染ってしまうニャ」
「ネコなんだから、無理するなよ、わん」
「あんたとは口きかない!」
眠り猫娘の案内……監視付きで日光での時間が動き始めた。
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