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206『Interpreterのブリンダ』
しおりを挟む魔法少女マヂカ
206『Interpreterのブリンダ』語り手:ブリンダ
ジェネラル・グラントの真ん前とは考えたな。
上野公園は日本初の都市公園だが、そこいら辺の街中の公園とはけた違いに広い。
不忍池を挟んだ東京帝国大学の敷地よりも広く、そもそも不忍池そのものが上野公園の一部だ。
その上野公園で外国人専用の通訳ボランティアを頼まれたのだが、よっぽど分かりやすいところに居なければ、役に立たない。
それで、学生たちが考えたのがジェネラル・グラントの松の前なのだ。
ジェネラル・グラントは北軍の英雄で、退役後は18代大統領になって、大統領退任後、夫人を伴って来日している。たしか、1879年だから、関東大震災の30年あまり前だ。
大統領経験者の初来日というので大歓迎を受け、明治天皇はジェネラルの宿泊先として浜離宮公園を提供し、接遇に当っては、天皇自らが足を運ぶという厚遇ぶりだった。
ジェネラルと天皇は気が合って、数時間もアジア情勢などに付いて論議をしたというから、ジェネラルも天皇も偉かったと思う。
そのジェネラル・グラントが記念植樹した松が上野公園の真ん中にあって、帝都の人間には西郷の銅像と並んで知られている。目印の松も30年の間に目につくほどの高さになって、案内する方もされる方も分かりやすい。
しかし、分かりやすいのは場所だけで、日本人学生の発音する英語は分かりにくい。日本人の発音下手は百年後もこの時代も大差はない。リスニングも、日本人はいわゆるクィーンズイングリッシュ、イギリスのエスタブリッシュやアメリカ東北部の発音は聞き取れても、中西部や西部、南部訛にはお手上げだ。
英語でこれなので、独仏語はもっと苦しく、会話の2/3は筆談に頼っているありさまだ。
むろん、外国人と言っても欧米だけでは無くて中国や朝鮮を始めとするアジア人も居るんだが、そちらは欧米よりも付き合いが長いせいか、在日の者が同胞の世話を兼ねて通訳に当っている。
「エクスキューズミー」
三件の通訳を終えてテントに戻ろうとしたら、カンザス訛で声を掛けられた。
「はい、なにかお困り?」
「オー、きみもカンザス!?」
カンザス訛に合わせてやったら、感激の様子で両手で握手してきやがった。
見かけは新聞記者のようだが、この馴れ馴れしさは鼻につく。
「友だちがドロシーってカンザスの子で、ちょっとね」
「おお、ぼくのお袋もドロシーってんだ、奇遇だね!」
「そうね、で、ご用件はなにかしら? よかったら、お名前と所属もうかがいたいんだけど」
握った手をやんわりと振り放して本題に入る。
「失礼、ボクはカンザストリビューンのオズマ・ギルバート、あ、これ、名刺」
「どうも……ん? 名刺はオズ・ギルバートになってるけど?」
「maを抜いちゃうと、なんだか間が抜けるでしょ」
「ひょっとして日本語喋れる?」
「ほとんどダメ。日本語ってカンザス人にとってはアク……魔法使いの言葉みたいでさ」
「いま、悪魔って言いかけた?」
「あ、悪魔だなんて! 口にしただけで呪いがかかりそうだよ! エンガチョ!……えと、切ってくれないと収まらないんだけど?」
両手の人差し指と親指をくっつけて差し出してきやがる。
「ウ……エ、エンガチョ切った!」
右手を手刀にして切ってやると「OH!!」と大げさに感動しやがる。声が大きいので、周囲のボランティーアたちまでが手を停めて注目する。そりゃ、外人のオッサンと女学生がエンガチョしてるのは日本人がセントラルパークでいきなりタップダンスをやるくらいに珍しいだろうからな。
「オーキードーキー(^▽^)!」
「で、用件は?」
オズマは息を吸い込むと、ウォルトディズニーのようなウエルカムな顔で言いやがった。
「大仏を買い取りたいんだ!」
「だ、大仏だと!?」
interpreter(通訳)の腕章をしていなかったら、さっさと追っ払いたい衝動にかられたぞ(^_^;)!
※ 主な登場人物
•渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
•要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
•藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
•野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
•安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
•来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
•渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
•ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
•ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
•高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
•春日 高坂家のメイド長
•田中 高坂家の執事長
•虎沢クマ 霧子お付きのメイド
•松本 高坂家の運転手
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