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279『将門さまは療養中でお休み』
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魔法少女マヂカ
279『将門さまは療養中でお休み』語り手:マヂカ
え?
赤巫女に案内されて拝殿の奥、本殿に続く扉が開いて驚いた。
前回、ジャーマンポテトを持って訪れた時と様子が違うのだ。
低いパーテーションで区切られたブースが一杯あって、カチャカチャとキーボードを叩く音や、サーバーが唸る音やらコンピューターのファンが回る音がしている。
まるで、ゲームかアニメの制作会社に迷い込んだ感じだ。
「少々お待ちください」
そう言って赤巫女が入った奥のブースでヒソヒソと話声。ひとりは赤巫女、もう一人は、バリトンのいい声。なろう系アニメのギルドのリーダーが務まりそうな声だ。
「いやあ、わざわざすみません」
出てきた、その人は、黒のジーンズとTシャツが似合う、年齢不詳のベテランプログラマー風。
「二番の会議室が空きました」
パーテーションの向こうから半身を覗かせたのは、お馴染みの黒巫女。
忙しいんだろう、目で――ごくろうさま――と挨拶して行ってしまった。
ナリはいつもの巫女服なんだけど、手にはタブレット、耳の後ろには骨伝導のイヤホンなんかが見えて、やっぱり前回とは次元の違う仕事の真っ最中という感じ。
「特務師団から伺いました、魔法少女のマヂカです」
「要海友里です」
「藤本清美です」
「野々村典子ですぅ」
「渡辺詰子だワン」
「ブリンダ・マクギャバンだ」
「ようこそ、神田明神の大黒です」
「大黒……一の宮の大黒天?」
「はい、これまで、みなさんの相手をしてきたのは、三の宮の将門さんです」
神田明神といえば平将門と思っていたみんなは、ちょっと驚いている。
わたしは思い当たった。神田明神というのは三柱の神さまを中心とした神さまのマンションみたいなものなのだ。
「将門さんは、どないしはったんですかぁ?」
将門ファンのノンコが寂しそうな声をあげる。
「はい、将門さんは、長年の御無理が祟って、高天原で養生なさっておられます」
やっぱり……幕末の動乱、関東大震災、戦時中の空襲、戦後の混乱、抱えてきた苦労は並大抵ではない。
「お立場は三ノ宮でしたが、根っからの武闘派で、悪鬼退治にはいつも先頭に立っておられましたから、ご無理が祟ったんでしょう。今は、一ノ宮のわたしが先頭に立って、神田明神の祭神全員で対応しています」
「それはそれは……」
「マヂカ、これを……」
「あ、すまん、友里」
友里が示してくれたパッケージを大黒天にすすめる。
「どうぞ、これをお納めください」
「ほお、これは……フライドチキンとフライドポテト!」
ザワ
それまでの制作会社めいた音や気配が消えて、大勢が息を飲んで身じろぎする音がした。
「いやあ、よく分かってらっしゃる! 将門さんはジャーマンポテト派ですが、他の祭神たちはフライドチキンとフライドポテト派でしてね! おおい、みんな、コーヒーブレイクにしよう!」
ザワザワザワ
気配が高まったかと思うと、目の前のパッケージは、神さまたちの見えざる手で、あっという間に空になってしまった。
「おいおい、ぼくの分はとってあるんだろうなあ!?」
『はい、デスクの上にコーヒーといっしょに置いてありまーす』
赤巫女の声がして、大黒は、ホッと胸をなでおろした。
『少彦名(すくなひこな)さん、一度に三つもとっちゃダメ』
『ウキキ』
『猿田彦さん、お行儀悪い!』
『いただきま~』
『塩竈(しおつち)明神さん、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)さん、手は洗ってください!』
『ムシャムシャムシャ!』
『須佐之男(スサノオ)さん、もっとゆっくり! おなか壊しますよ!』
ウフフフ アハハハ
神さまたち、子どもみたいに食らいついてる様子なので笑ってしまう。
「どうも、神さまのくせに、みんなお行儀悪くて、すみません」
「うちら、学校では調理研究部やってるさかい、美味しいもの作ったら、また持ってきます!」
ノンコが感動して声をあげる。
『『『『『『お願いしま~~~す!』』』』』』
いっせいに神さまたちの声が響いて、会議室のわたしたちも嬉しくなる。
しかし、それから踏み込んだ話は、ちょっと苦しい内容だった。
「今の東京……いや、今の日本は経済問題と流行り病の対策が肝要です。これは、この大黒と戎が主導してあたります。楽観はできませんが、これまでも、何度も好況を支え不況に立ち向かってきましたからね」
「経済対策だけでは済まないだろ」
ブリンダがアケスケに指摘する。
「ええ、ブリンダさんのおっしゃる通りです。それについては将門さまご不在の今は……彼女たちに立ってもらいます」
シュワ~ン
長閑な電子音がしたかと思うと、フライドチキンやフライドポテトを咥えたり手に持ったりして、別の片手にはマグカップを持って寛いでいる四人の巫女さんがビックリした顔やらジト目やらで現れた。
「きゅ、休憩中に呼び出さないでくださいね」
赤巫女が、顔を赤くして抗議する。
「戦いで苦労する覚悟はしてますが、任せっきりにはしないでくださいね」
「そのへんの……」
「「白黒はつけてくださいな」」
白・黒巫女が詰め寄る。
「頼みますわよ、文科系の一ノ宮さん」
青巫女が青白いジト目で念を押す。
「あ、ボクも、昔はスサノオの親父相手にバトルしたこともあるから……(^_^;)」
「三千年も前の事だけど」
「だ、大丈夫だ。大黒に二言は無い!」
「ゴックン、大黒さま、その言葉忘れないでくださいね!」
「「「一の宮さまぁ(^▽^)」」」
巫女さんたちの声が揃う。
神田明神さんも大変みたいだ……(^_^;)
※ 主な登場人物
渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル ブリンダの使い魔
サム(サマンサ) 霊雁島の第七艦隊の魔法少女
ソーリャ ロシアの魔法少女
※ この章の登場人物
高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
春日 高坂家のメイド長
田中 高坂家の執事長
虎沢クマ 霧子お付きのメイド
松本 高坂家の運転手
新畑 インバネスの男
箕作健人 請願巡査
ファントム 時空を超えたお尋ね者
279『将門さまは療養中でお休み』語り手:マヂカ
え?
赤巫女に案内されて拝殿の奥、本殿に続く扉が開いて驚いた。
前回、ジャーマンポテトを持って訪れた時と様子が違うのだ。
低いパーテーションで区切られたブースが一杯あって、カチャカチャとキーボードを叩く音や、サーバーが唸る音やらコンピューターのファンが回る音がしている。
まるで、ゲームかアニメの制作会社に迷い込んだ感じだ。
「少々お待ちください」
そう言って赤巫女が入った奥のブースでヒソヒソと話声。ひとりは赤巫女、もう一人は、バリトンのいい声。なろう系アニメのギルドのリーダーが務まりそうな声だ。
「いやあ、わざわざすみません」
出てきた、その人は、黒のジーンズとTシャツが似合う、年齢不詳のベテランプログラマー風。
「二番の会議室が空きました」
パーテーションの向こうから半身を覗かせたのは、お馴染みの黒巫女。
忙しいんだろう、目で――ごくろうさま――と挨拶して行ってしまった。
ナリはいつもの巫女服なんだけど、手にはタブレット、耳の後ろには骨伝導のイヤホンなんかが見えて、やっぱり前回とは次元の違う仕事の真っ最中という感じ。
「特務師団から伺いました、魔法少女のマヂカです」
「要海友里です」
「藤本清美です」
「野々村典子ですぅ」
「渡辺詰子だワン」
「ブリンダ・マクギャバンだ」
「ようこそ、神田明神の大黒です」
「大黒……一の宮の大黒天?」
「はい、これまで、みなさんの相手をしてきたのは、三の宮の将門さんです」
神田明神といえば平将門と思っていたみんなは、ちょっと驚いている。
わたしは思い当たった。神田明神というのは三柱の神さまを中心とした神さまのマンションみたいなものなのだ。
「将門さんは、どないしはったんですかぁ?」
将門ファンのノンコが寂しそうな声をあげる。
「はい、将門さんは、長年の御無理が祟って、高天原で養生なさっておられます」
やっぱり……幕末の動乱、関東大震災、戦時中の空襲、戦後の混乱、抱えてきた苦労は並大抵ではない。
「お立場は三ノ宮でしたが、根っからの武闘派で、悪鬼退治にはいつも先頭に立っておられましたから、ご無理が祟ったんでしょう。今は、一ノ宮のわたしが先頭に立って、神田明神の祭神全員で対応しています」
「それはそれは……」
「マヂカ、これを……」
「あ、すまん、友里」
友里が示してくれたパッケージを大黒天にすすめる。
「どうぞ、これをお納めください」
「ほお、これは……フライドチキンとフライドポテト!」
ザワ
それまでの制作会社めいた音や気配が消えて、大勢が息を飲んで身じろぎする音がした。
「いやあ、よく分かってらっしゃる! 将門さんはジャーマンポテト派ですが、他の祭神たちはフライドチキンとフライドポテト派でしてね! おおい、みんな、コーヒーブレイクにしよう!」
ザワザワザワ
気配が高まったかと思うと、目の前のパッケージは、神さまたちの見えざる手で、あっという間に空になってしまった。
「おいおい、ぼくの分はとってあるんだろうなあ!?」
『はい、デスクの上にコーヒーといっしょに置いてありまーす』
赤巫女の声がして、大黒は、ホッと胸をなでおろした。
『少彦名(すくなひこな)さん、一度に三つもとっちゃダメ』
『ウキキ』
『猿田彦さん、お行儀悪い!』
『いただきま~』
『塩竈(しおつち)明神さん、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)さん、手は洗ってください!』
『ムシャムシャムシャ!』
『須佐之男(スサノオ)さん、もっとゆっくり! おなか壊しますよ!』
ウフフフ アハハハ
神さまたち、子どもみたいに食らいついてる様子なので笑ってしまう。
「どうも、神さまのくせに、みんなお行儀悪くて、すみません」
「うちら、学校では調理研究部やってるさかい、美味しいもの作ったら、また持ってきます!」
ノンコが感動して声をあげる。
『『『『『『お願いしま~~~す!』』』』』』
いっせいに神さまたちの声が響いて、会議室のわたしたちも嬉しくなる。
しかし、それから踏み込んだ話は、ちょっと苦しい内容だった。
「今の東京……いや、今の日本は経済問題と流行り病の対策が肝要です。これは、この大黒と戎が主導してあたります。楽観はできませんが、これまでも、何度も好況を支え不況に立ち向かってきましたからね」
「経済対策だけでは済まないだろ」
ブリンダがアケスケに指摘する。
「ええ、ブリンダさんのおっしゃる通りです。それについては将門さまご不在の今は……彼女たちに立ってもらいます」
シュワ~ン
長閑な電子音がしたかと思うと、フライドチキンやフライドポテトを咥えたり手に持ったりして、別の片手にはマグカップを持って寛いでいる四人の巫女さんがビックリした顔やらジト目やらで現れた。
「きゅ、休憩中に呼び出さないでくださいね」
赤巫女が、顔を赤くして抗議する。
「戦いで苦労する覚悟はしてますが、任せっきりにはしないでくださいね」
「そのへんの……」
「「白黒はつけてくださいな」」
白・黒巫女が詰め寄る。
「頼みますわよ、文科系の一ノ宮さん」
青巫女が青白いジト目で念を押す。
「あ、ボクも、昔はスサノオの親父相手にバトルしたこともあるから……(^_^;)」
「三千年も前の事だけど」
「だ、大丈夫だ。大黒に二言は無い!」
「ゴックン、大黒さま、その言葉忘れないでくださいね!」
「「「一の宮さまぁ(^▽^)」」」
巫女さんたちの声が揃う。
神田明神さんも大変みたいだ……(^_^;)
※ 主な登場人物
渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル ブリンダの使い魔
サム(サマンサ) 霊雁島の第七艦隊の魔法少女
ソーリャ ロシアの魔法少女
※ この章の登場人物
高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
春日 高坂家のメイド長
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