勇者乙の天路歴程

武者走走九郎or大橋むつお

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018『手応えが無い』

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勇者乙の天路歴程

018『手応えが無い』 

 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者




 落ちたところにも手応えが無い。

 磁石の同極同士が反発し合うような感じでバウンドし、数回上下に揺れてから制止した。

「うぉっと(;'∀')」

 膝を立てて立ち上がろうとするが、目に見えないスポンジを踏んでいるように落ち着かない。

――ジョウゲ ノ クベツシカナイ ヘタニウゴクナ――

「あ、ああ……で……次に何をすればいい?」

――トリアエズ クウキ サンソ ダ――

「酸素からかぁ……」

――ハヤクシロ ボンベ ハ ノコリ ジュップンホド――

「10ッ分!?」

 酸素なんて、どうやって作るんだ……小学校でやった水の電気分解しか知らないぞ。だいいち、ここには水も存在しないんだからな。

――マワリヲミロ――

 え?

 見渡すと、四方から無数のシミが現れたかと思うと、数秒で数字と大文字小文字のアルファベットになって、わたしの周囲を取り囲んだ。

「え……」

――ハヤクシロ――

「え……あ……ひょっとして……」

 手近に漂っていた『O』を二つ掴まえて並べてみる。酸素の化学式はO2だ。

 ……が、なにも起こらない。

――ソレハ『オー』デハナクテ『ゼロ』ダ――

「あ、そうか(^_^;)」

 なるほど、よく見ると『O』と『0』を並べて見ると全然違う。気を取り直して『0』と『O』を置き換える。

 ユラユラ……

 置き換わったO2はユラユラ揺れて姿を消し、とたんに露出した手足の肌感覚が楽になる。

 そうか、皮膚呼吸もしてるからなあ。

――ツギハ ミズ ダ――

「お、おお」

『H』の横に『O』を二個付ける。

 H2O

 ユラユラ揺れると、フワリと霧散して空気に潤いが混ざる。とりあえず水蒸気になったようだ。ボンベを外しても楽に呼吸ができる。

――ツギハ タンソ ト チッソ――

「分かった」

 Cを二つ並べる……くっつくこともなく、フワフワ漂ってしまう。

――タンソハ イッコデイイ――

 え、あ、そうだったか。化学は苦手だったからなあ。

 Cを一つ目の前に据えると、ピタリと動きを止め、すぐに消えた。

 次は窒素、ええと…スイヘーリーベー……中学以来のお呪いを思い出しN2に思い至る。

 N2……プルプル震えると消えて、空間に活気が現れたような気がした。

――ツギニ……――

「待ってくれ、ひょっとして、全ての物質の化学式を思い出せって言うのか?」

――アトハ シゼンニ カッセイカ スル メヲツブレ――

「あ、ああ……」

 目をつぶると、今までにない振動が起こって遊園地のエアハウスで転がっているようになる……数十回バウンドすると、突然ドサッという感触を背中に受けて制止する。

 柔道の授業で受け身もろくにできないまま投げ飛ばされた時のように息ができない。

 ウ……グググ……

 目を開けると、青い空に雲が流れ、どこかで鳥のさえずりがして、露出した手足や頬にトゲトゲの草が触れる。

「大丈夫ですか、先生?」

 覗き込んだ顔は静岡あやね……いや、あやねの姿形をしたビクニだった。

 


☆彡 主な登場人物 

中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒

 

 
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