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021『巨木の森』
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勇者乙の天路歴程
021『巨木の森』
※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者
おそらく神社めいたところだと思った。
ヤガミヒメは日本有数の偉い神さまである大国主の最初の妻なのだから、彼女も神さまに違いない。神さまは神社に居るもので、神社とは森の中にあるものだ。
「ひょっとしたら、糺の森くらいあるかもしれません」
ビクニも興奮気味に呟く。
ここに来るまでに糺の森に似たところを抜けてきた(011『視界が開けると糺の森に似て』)ので想像してしまう。
「はい、おそらくはおっしゃる通りなのですが……」
ちょっと奥歯に物が挟まったように言う白兎。
「まだ遠いのかい?」
森ならば、遠くからでも見えるだろうが、ヤマガミヒメの森は草原の道の先に兆しも見えない。
「あ、ひょっとして結界とか張って外からは見えなくなっている?」
「あ、いえ、もうそろそろ……」
白兎が言葉を濁すと、草原と青空の狭間に、最初は数本、進むにしたがって糺の森どころではない数と大きさの巨木の森が現れた!
ウワアアア……( ゚Д゚)( ゚Д゚)
ビクニと二人間抜けな歓声をあげてしまった。
高校の英語で『アメリカの巨木』というのを習った。そこに出ていたジャイアントセコイアの森に似ている。
高さは50メートル以上、人が一クラス分くらい手を繋いで、やっと取り囲めるくらいに太いのが雑草のように生い茂っている。たいていの木は根元が分かれて、トンネルになったり洞窟になったりしている。
これだけの巨木の森なんだ、描画するだけでテラバイト級のポリゴンが必要だろう……いや、オープンワールドのゲームじゃないんだろうけど、そう思うと納得できてしまうほどにすごい。
「ご存知とは思うのですが、ヤマガミヒメは大国主さまとの間にお子様がおられました」
「あ……ああ、たしか正妻のイワナガヒメにいびられて出ていくときに置いていっちゃうんだ」
「はい、まだ赤ん坊だったお子を木の股に置いていかれたんです」
「うう……なんか要保護者遺棄です。せめて赤ちゃんポストに託すとか」
ビクニは、この辺のところは知っているはずなのに、静岡あやねの姿をしているとブリッコになってしまう。
「はい、それで、お子は『キマタノカミ』とよばれるんですが、いずれは、また木の股から戻って来るとお考えになり、これだけの木を植えてお待ちになっているんです」
「それにしても大きすぎません? 多すぎだし」
「そうだねえ、大きい木の又は大魔神でも通れそうだよ」
「ヒメさまは愛しておられるのですよ、大国主命さまのこともキマタノカミさまのことも。それで、このことはヒメさまも気になさっておられますので、お触れにならないでくださいますようお願いいたします」
「そうか、わかりましたよ。ねえ、ビクニ」
「はい、心得ました」
「それでは」
白兎に先導されて巨木の森を行く。
巨木の中を抜けたり脇を通ったり……二分も歩くと、どこを通ってきたのか分からなくなってしまう。
「大丈夫です、所どころに標草(しるべぐさ)があります」
「しるべぐさ?」
「この草です」
示してくれたのは、どの木の根方にも茂っている雑草で、とても道しるべになるとは思えない。
「あ、こんな感じです」
兎が振り返って一歩後退すると、いま通ったばかりの木の標草が黄色い矢印型の花を咲かせる。木のトンネルの向こうにも花が咲いて、それをたどって戻ればいいようだ。
「もう少しです、先に進みます」
「うん」
そうやって、森の中を10分あまり。
少し小振りの木を潜ると、神社の本殿のような高床式の家の前に出た。
☆彡 主な登場人物
中村 一郎 71歳の老教師 天路歴程の勇者
高御産巣日神 タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
八百比丘尼 タカムスビノカミに身を寄せている半妖
原田 光子 中村の教え子で、定年前の校長
末吉 大輔 二代目学食のオヤジ
静岡 あやね なんとか仮進級した女生徒
因幡の白兎課長代理 あやしいウサギ
021『巨木の森』
※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者
おそらく神社めいたところだと思った。
ヤガミヒメは日本有数の偉い神さまである大国主の最初の妻なのだから、彼女も神さまに違いない。神さまは神社に居るもので、神社とは森の中にあるものだ。
「ひょっとしたら、糺の森くらいあるかもしれません」
ビクニも興奮気味に呟く。
ここに来るまでに糺の森に似たところを抜けてきた(011『視界が開けると糺の森に似て』)ので想像してしまう。
「はい、おそらくはおっしゃる通りなのですが……」
ちょっと奥歯に物が挟まったように言う白兎。
「まだ遠いのかい?」
森ならば、遠くからでも見えるだろうが、ヤマガミヒメの森は草原の道の先に兆しも見えない。
「あ、ひょっとして結界とか張って外からは見えなくなっている?」
「あ、いえ、もうそろそろ……」
白兎が言葉を濁すと、草原と青空の狭間に、最初は数本、進むにしたがって糺の森どころではない数と大きさの巨木の森が現れた!
ウワアアア……( ゚Д゚)( ゚Д゚)
ビクニと二人間抜けな歓声をあげてしまった。
高校の英語で『アメリカの巨木』というのを習った。そこに出ていたジャイアントセコイアの森に似ている。
高さは50メートル以上、人が一クラス分くらい手を繋いで、やっと取り囲めるくらいに太いのが雑草のように生い茂っている。たいていの木は根元が分かれて、トンネルになったり洞窟になったりしている。
これだけの巨木の森なんだ、描画するだけでテラバイト級のポリゴンが必要だろう……いや、オープンワールドのゲームじゃないんだろうけど、そう思うと納得できてしまうほどにすごい。
「ご存知とは思うのですが、ヤマガミヒメは大国主さまとの間にお子様がおられました」
「あ……ああ、たしか正妻のイワナガヒメにいびられて出ていくときに置いていっちゃうんだ」
「はい、まだ赤ん坊だったお子を木の股に置いていかれたんです」
「うう……なんか要保護者遺棄です。せめて赤ちゃんポストに託すとか」
ビクニは、この辺のところは知っているはずなのに、静岡あやねの姿をしているとブリッコになってしまう。
「はい、それで、お子は『キマタノカミ』とよばれるんですが、いずれは、また木の股から戻って来るとお考えになり、これだけの木を植えてお待ちになっているんです」
「それにしても大きすぎません? 多すぎだし」
「そうだねえ、大きい木の又は大魔神でも通れそうだよ」
「ヒメさまは愛しておられるのですよ、大国主命さまのこともキマタノカミさまのことも。それで、このことはヒメさまも気になさっておられますので、お触れにならないでくださいますようお願いいたします」
「そうか、わかりましたよ。ねえ、ビクニ」
「はい、心得ました」
「それでは」
白兎に先導されて巨木の森を行く。
巨木の中を抜けたり脇を通ったり……二分も歩くと、どこを通ってきたのか分からなくなってしまう。
「大丈夫です、所どころに標草(しるべぐさ)があります」
「しるべぐさ?」
「この草です」
示してくれたのは、どの木の根方にも茂っている雑草で、とても道しるべになるとは思えない。
「あ、こんな感じです」
兎が振り返って一歩後退すると、いま通ったばかりの木の標草が黄色い矢印型の花を咲かせる。木のトンネルの向こうにも花が咲いて、それをたどって戻ればいいようだ。
「もう少しです、先に進みます」
「うん」
そうやって、森の中を10分あまり。
少し小振りの木を潜ると、神社の本殿のような高床式の家の前に出た。
☆彡 主な登場人物
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八百比丘尼 タカムスビノカミに身を寄せている半妖
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