銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお

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365『在日漢明大使館』

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銀河太平記 

365『在日漢明大使館』扶桑徳子(将軍御台所)




 マルチパルス車は横須賀から東京湾を北上し、横浜、羽田を横目に殺して竹芝というところからから運河に入るみたい。

 それまでは開けた海だったけど、ここからは運河の上を高速道路が西に走って、なんだか蓋をされたみたいで、ちょっと暗いかなぁ。

「いやあ、たくさん船が観られてよかったです」

 暗くなった分、会話で明るくしようという尊宅さん。元火星航路の船長だったせいか、今の大統領補佐官というお仕事のせいか、狭い車の中でも人の気を逸らしません。

「やっぱり海を行く船の方がお好きですか?」

「はい、宇宙は星が瞬いている以外は真っ暗ですから。海を行く船はいいですね。飛行機も宇宙船も、原型というかルーツは船です。出入りは左舷(ひだりげん)からですし、翼端灯も船に倣って右舷(みぎげん)が青、左舷が赤です。操縦や航海用語も船と共通のものが多くあって、最後に乗っていました牽牛も、21世紀から受け継いだ名前で、乗っていた牽牛は七代目です」

「牽牛は、お国が中国といった頃、日中友好のために作られた船ですねえ」

「おお、ご存知ですかボースン?」

「牽牛が日本、乙姫が中国で建造されて交換したんですね」

「そうですそうです(^▽^)」

「日漢が穏やかな関係に戻れたら、また、牽牛と乙姫を作って交換したいものです」

「あら、牽牛は今でも現役じゃないんですかぁ?」

「いいえ、わたし同様のロートル船なので、ここ一二年で退役になります」

「そうなんだぁ、それなら早く仲直りして天の川で逢わなくっちゃですね!」

 日扶漢、自然な友好ムードになっていると、尊宅さんのハンベが鳴ったわ。

「大使館からだ……はい、大統領補佐官の栗尊宅です、あ、大使、なんでしょう……」

 大事なお話のようなので、ボースンに水を向ける。

「高速道路の隙間から見えているのは東京タワー?」

「はい、国宝東京タワーです。あいにくドンパチが始まってしまったので今日は臨時休業です」

「そうなのぉ……」

「再開しましたらお連れ致します」

 兵ちゃん(本田兵二)がノッテくれる。

「ぜひ! あそこはねぇ、出来て間が無いころはね、展望デッキでテレビ結婚式をやっていたのよぉ」

「テレビ……ああ、昔の電波メディアですね」

「あと二年で銀婚式だから、上様をお連れして、あそこで銀婚式……あ、他の人にはナイショにね」

「心得ました……尊宅さん、悪い知らせですか?」

「あ、失礼。本国に送還する者が居るので、ただちに同道して出発しろと言ってきました」

「まあ、ただちに?」

「はい、大使館の裏で待機しているとのことです」

「まあ、慌ただしいこと……」

 マルチパルス車も慌ただしく陸に上がると、真っ直ぐ大使館に向かう。

「あれは護送車ですなぁ……」

 ボースンが眉を曇らせる。護送車というのは準警察車両、他国である日本の公道を走らせるのは微妙な違和感。

「あ、あれは!?」

 裏門から出されてきた女性士官を見て、今度は尊宅さんが驚く。

「お知り合い?」

「はい、同僚です。陸軍から出向している胡盛媛中尉です」

「胡……胡盛徳将軍の娘さんですか?」

「よくご存知で」

「優秀な軍人は国を問わず覚えるようにしております」

 胡盛徳……検索する間もなく、車は裏門に到着。

 手錠こそかけられていないけど、屈強な駐在武官に挟まれ、尊宅さんが到着の挨拶をすると「すぐに出発しろ」的なことを言われた感じ。

 尊宅さんと胡盛媛中尉はきれいな敬礼を決め、護送車に乗り込むと、あっという間に北に向かって走り去ってしまった。

「ここは大使館だ、君たちも早く行ってくれたまえ」

 仕立てのいい軍服さんが横柄に言う。

「わたしは世田谷に行くから、車を……」

 続けて職員に指示をしている、なんだか悪だくみの気配。

 長居は無用。

「ごきげんよう」

 笑顔の挨拶をカマシ、車が発進したところで軍服さんを検索。

 陸軍情報部部長で、反政府勢力の頭目、朱元尚少将と分かったころ、車は六本木通りに入って皇居が道の先に見えてきたわ。



☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    第一師団曹長、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府書院番士 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)       第一師団軍医、一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中だった
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆              扶桑幕府将軍 
扶桑 徳子             道隆の御台所
扶桑 道興             玄武守、道隆の弟、二人の息子(道次・道忠)と娘がいる
本多 兵二(ほんだ へいじ)     書院番士小姓頭、彦と中学同窓
胡蝶                元小姓頭 将軍直属の隠密
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 東鈴(妻) 悟遼(息子)
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁王            心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)     銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       元輸送船の船長  大統領秘書官
朱 元尚 少将           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西之島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
御山       西之島の火山
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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