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371『島のアラーム』
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銀河太平記
371『島のアラーム』 加藤恵
——今夕 1900時 チルル空港到着の予定——
首都高に続いての横須賀軍港の輸送艦。二つの大爆発事件の後だったんで、たまり場のみんなは安堵の声を上げた。
咸臨丸は予定通りに西之島に避難してくる。
わたしが舞鶴から島に戻ると入れ違いにマイさんとハナが東京に行った。
帝都東京は政府の無策ぶりも災いして混沌としている。いざという時には陛下をお守りしなければならない。また、島の独立を守るためにもリアルタイムで情勢を把握しておかなければならない。
みんな心配で仕方ないんだ。
東京から540海里、ほぼ1000キロ。科学技術の進んだ24世紀でも、ヤキモキするのに十分な隔たり。
こんな時期に訪日した咸臨丸は災難なんだけど、扶桑もなかなかのもので、逃げるという選択肢は選ばず避難という道を選んだ。もっとも、太陽風が強烈になって火星に戻ることができないんだけど、ハワイやオーストラリアという国外の安全圏ではなくて西之島を選択した。西之島は日本国、移るにしても全然印象がちがう。
扶桑将軍のあらかじめの指示なのか、玄武守の判断か。いずれにしても扶桑の柔軟さとしたたかさの現われで、島のみんなは安心したんだ。
「しかし、面妖じゃのう……そうは思わんかメグ……」
神主服のまま寝っ転がってシゲ爺が呟く。
咸臨丸の一報で安心した男たちの思考は切り替わっている。
「……ああ、どう見ても島の戦い方だ」
わたしより先にサブが返事をする。近ごろ先代主席に似てきたサブは反応が早い。
「しかし、熟練してくれば戦闘や用兵は似てくるんじゃないのかね」
西之島戦争から居続けている元海兵隊大佐は冷静に異議を唱える。一瞬、大佐の顔を見るサブだけど、言い返しはしない。
「もう少し見てみようではありませんか」
及川市長は冷静にモニターを見続ける。横須賀軍港の情景から、日本各地の戦闘状況が映し出され、各自、それをもとにハンベでも確認しているんだ。
「戦闘や戦術については素人ですが、敵の攻撃が適格であることは確かなように思えますねえ」
正直な感想なんだろうけど、市長の言葉は適格だ。来期で16年を超える市長もなかなか、適格という単語で双方の顔を立てている。
「ううむ……」
大佐もハンベの仮想インタフェイスを増やして観察を続ける。
こんな時には、絶妙なタイミングで酒のお替りや山盛りのから揚げが出てくるんだけど、隣接するお岩食堂の主とチーフは咸臨丸。
まあ、タイミングはズレるけど、たまにはメグさんがやってあげようか。
よいしょ。
腰を上げたところ、漢明連絡所の張伍長が飛び込んできた。
「みなさん、大変! 神社の裏に土座衛門上がったよ!」
「「「「「ええ!?」」」」」
みんな一様に驚いて立ち上がる。
水難事故や水死者が上がったときは、手空きの者が総出で浜に出るのが掟だ。
カンカンカンカン カンカンカンカン カンカンカンカン
半鐘が鳴り響いている。
島のアラームは様々だけど、カンパニーのアラームは半鐘だ。
半鐘が鳴り響く中を走っていると、古典怪獣映画の一コマのよう。映画では、足跡、尻尾が引きずった跡……いや、山の向こうから怪獣が首をのぞかせたところだったか……。
いやいや、発見者は土座衛門と見たが、まだ息がある場合もある、他に流れ着いた者がいるかもしれない。
岩場に差し掛かって、水難者の姿が見える。
一目見ただけで生きていないことが分かる。
その水難者は片手片足、それになにより首が無かった。
☆彡主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 第一師団曹長、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府書院番士 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 第一師団軍医、一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中だった
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
扶桑 徳子 道隆の御台所
扶桑 道興 玄武守、道隆の弟、二人の息子(道次・道忠)と娘がいる
本多 兵二(ほんだ へいじ) 書院番士小姓頭、彦と中学同窓
胡蝶 元小姓頭 将軍直属の隠密
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 東鈴(妻) 悟遼(息子)
テムジン モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人
森ノ宮茂仁王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン) 銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく) 元輸送船の船長 大統領秘書官
朱 元尚 少将 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 重要事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西之島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
御山 西之島の火山
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院 扶桑城啓林の奥にある祖廟
371『島のアラーム』 加藤恵
——今夕 1900時 チルル空港到着の予定——
首都高に続いての横須賀軍港の輸送艦。二つの大爆発事件の後だったんで、たまり場のみんなは安堵の声を上げた。
咸臨丸は予定通りに西之島に避難してくる。
わたしが舞鶴から島に戻ると入れ違いにマイさんとハナが東京に行った。
帝都東京は政府の無策ぶりも災いして混沌としている。いざという時には陛下をお守りしなければならない。また、島の独立を守るためにもリアルタイムで情勢を把握しておかなければならない。
みんな心配で仕方ないんだ。
東京から540海里、ほぼ1000キロ。科学技術の進んだ24世紀でも、ヤキモキするのに十分な隔たり。
こんな時期に訪日した咸臨丸は災難なんだけど、扶桑もなかなかのもので、逃げるという選択肢は選ばず避難という道を選んだ。もっとも、太陽風が強烈になって火星に戻ることができないんだけど、ハワイやオーストラリアという国外の安全圏ではなくて西之島を選択した。西之島は日本国、移るにしても全然印象がちがう。
扶桑将軍のあらかじめの指示なのか、玄武守の判断か。いずれにしても扶桑の柔軟さとしたたかさの現われで、島のみんなは安心したんだ。
「しかし、面妖じゃのう……そうは思わんかメグ……」
神主服のまま寝っ転がってシゲ爺が呟く。
咸臨丸の一報で安心した男たちの思考は切り替わっている。
「……ああ、どう見ても島の戦い方だ」
わたしより先にサブが返事をする。近ごろ先代主席に似てきたサブは反応が早い。
「しかし、熟練してくれば戦闘や用兵は似てくるんじゃないのかね」
西之島戦争から居続けている元海兵隊大佐は冷静に異議を唱える。一瞬、大佐の顔を見るサブだけど、言い返しはしない。
「もう少し見てみようではありませんか」
及川市長は冷静にモニターを見続ける。横須賀軍港の情景から、日本各地の戦闘状況が映し出され、各自、それをもとにハンベでも確認しているんだ。
「戦闘や戦術については素人ですが、敵の攻撃が適格であることは確かなように思えますねえ」
正直な感想なんだろうけど、市長の言葉は適格だ。来期で16年を超える市長もなかなか、適格という単語で双方の顔を立てている。
「ううむ……」
大佐もハンベの仮想インタフェイスを増やして観察を続ける。
こんな時には、絶妙なタイミングで酒のお替りや山盛りのから揚げが出てくるんだけど、隣接するお岩食堂の主とチーフは咸臨丸。
まあ、タイミングはズレるけど、たまにはメグさんがやってあげようか。
よいしょ。
腰を上げたところ、漢明連絡所の張伍長が飛び込んできた。
「みなさん、大変! 神社の裏に土座衛門上がったよ!」
「「「「「ええ!?」」」」」
みんな一様に驚いて立ち上がる。
水難事故や水死者が上がったときは、手空きの者が総出で浜に出るのが掟だ。
カンカンカンカン カンカンカンカン カンカンカンカン
半鐘が鳴り響いている。
島のアラームは様々だけど、カンパニーのアラームは半鐘だ。
半鐘が鳴り響く中を走っていると、古典怪獣映画の一コマのよう。映画では、足跡、尻尾が引きずった跡……いや、山の向こうから怪獣が首をのぞかせたところだったか……。
いやいや、発見者は土座衛門と見たが、まだ息がある場合もある、他に流れ着いた者がいるかもしれない。
岩場に差し掛かって、水難者の姿が見える。
一目見ただけで生きていないことが分かる。
その水難者は片手片足、それになにより首が無かった。
☆彡主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 第一師団曹長、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府書院番士 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 第一師団軍医、一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中だった
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
扶桑 徳子 道隆の御台所
扶桑 道興 玄武守、道隆の弟、二人の息子(道次・道忠)と娘がいる
本多 兵二(ほんだ へいじ) 書院番士小姓頭、彦と中学同窓
胡蝶 元小姓頭 将軍直属の隠密
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 東鈴(妻) 悟遼(息子)
テムジン モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人
森ノ宮茂仁王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン) 銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく) 元輸送船の船長 大統領秘書官
朱 元尚 少将 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 重要事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西之島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
御山 西之島の火山
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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