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373『ニッパチ再生』
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銀河太平記
373『ニッパチ再生』 加藤恵
いつ頃からだろう、島では筐体と呼ぶようになった。
筐体の本来の意味は『機械を収める箱』のことで、昔のゲーム機やコンピューターのケースを指すことが一般的だった。つまり、筐体とは外側のボディーというか外装のみを指す言葉で、中の仕組みはメカ、それを動かす設定やソフトは含まれない。
島では、人もロボットも人格というかロボ格というか、スピリッツ面を大事にする。だから、いつの間にか中のメカも含めた外装を筐体と呼ぶようになった。
で、目の前にお蔵入りになっていた筐体が作業台に横たえられている。
小柄な女子中学生という感じの筐体。
別に、そういう趣味のオッサンから注文されたイカガワシイ筐体じゃあない。
以前、ハナの皮膚を張り替えてやった時(245『ハナの皮膚を張り替える』)、あんまりのツギハギでみっともないので、本人には内緒で新しく筐体を作ってやった自信作。
「うわぁ、勘弁してくれえ!」
一声叫んだかと思うと、ハナは島中を逃げ回って、お蔵入りになったシロモノ。
ハナの行動記録や、クラッシュしたメモリーから回収した情報をもとに想定再生してやった99.9%正確なハナの複製体。ロボットや義体にかけては誰にも負けない自信があったので、そのままラボの倉庫にしまっておいたんだ。
それに、ニッパチのPCを移植してやった。
ピュ~~~~~~ン
小さな起動音をさせて筐体の、いや、ニッパチの目が開いた。
「あ…………あ………あ……手が……足が……指が……動く……瞬きできる……息が吸える…………空気おいしい……」
そこまで言うと、ニッパチの目が潤って、涙が目じりから流れて耳たぶのところで玉になった。
「起きていいですか?」
「あ、ああ、起こしてあげる。まだ未調整だからね……よっこいしょ」
「ありがとうございます、メグミさん」
「…………」
「メグミさん?」
「ああ、ごめん、ちょっと感動しちゃって(^^;)」
ボディーは完璧にオリジナルハナ。声もハナ。
でも、中身のソウルは、ただの作業機械のころから手塩にかけたニッパチ。
なんだか、ハナとニッパチの融合体で、ハンカチで涙をぬぐってやると、グッと迫ってくるものがある。
「さあ、お披露目を兼ねて外に出てみようか。服は、台の後ろに揃えてあるから」
「は、はい……」
作業台に腰かけたまま動こうとしない。
「どうしたの、どこか不具合でもあるの?」
「いいえ……あの…………」
最後まで言えず、思春期の少女のように胸を押さえて俯く。
「……その胸のこと?」
「はい、実は……」
「胸の情報、ストレージごと無くなってしまったのね」
「……はい」
パチパチたちは最後の改修をしたときに、胸にストレージを埋め込んだ。ストレージには島の金融情報と西之島戦争で戦死したロボット数万人分の情報が入っている。
イッパチとニッパチは本土に渡ってから、あいついで行方知れずになってしまった。おそらくは、何者かに捕えられ、情報を抜かれているとは思った。
金融情報は外部から接触されただけでクラッシュする。だけど、ロボットたちの情報はクラッシュの保険は掛けられなかった。ロボットたちが、これまで生きてきたロボ生の記録そのものだから。
「大丈夫よ、部分的には島のサーバーに残ってるし。それに、島を出ちゃったけどサンパチが残ってるしね。さ、心機一転、外に出てみよう!」
「は、はい」
二日ぶりにラボを出ると、抜けるような青空、その蒼空を背景に御山が生きている証のように煙を吐いた。
☆彡主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 第一師団曹長、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府書院番士 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 第一師団軍医、一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中だった
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
扶桑 徳子 道隆の御台所
扶桑 道興 玄武守、道隆の弟、二人の息子(道次・道忠)と娘がいる
本多 兵二(ほんだ へいじ) 書院番士小姓頭、彦と中学同窓
胡蝶 元小姓頭 将軍直属の隠密
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 東鈴(妻) 悟遼(息子)
テムジン モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人
森ノ宮茂仁王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン) 銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく) 元輸送船の船長 大統領秘書官
朱 元尚 少将 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 重要事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西之島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
御山 西之島の火山
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院 扶桑城啓林の奥にある祖廟
373『ニッパチ再生』 加藤恵
いつ頃からだろう、島では筐体と呼ぶようになった。
筐体の本来の意味は『機械を収める箱』のことで、昔のゲーム機やコンピューターのケースを指すことが一般的だった。つまり、筐体とは外側のボディーというか外装のみを指す言葉で、中の仕組みはメカ、それを動かす設定やソフトは含まれない。
島では、人もロボットも人格というかロボ格というか、スピリッツ面を大事にする。だから、いつの間にか中のメカも含めた外装を筐体と呼ぶようになった。
で、目の前にお蔵入りになっていた筐体が作業台に横たえられている。
小柄な女子中学生という感じの筐体。
別に、そういう趣味のオッサンから注文されたイカガワシイ筐体じゃあない。
以前、ハナの皮膚を張り替えてやった時(245『ハナの皮膚を張り替える』)、あんまりのツギハギでみっともないので、本人には内緒で新しく筐体を作ってやった自信作。
「うわぁ、勘弁してくれえ!」
一声叫んだかと思うと、ハナは島中を逃げ回って、お蔵入りになったシロモノ。
ハナの行動記録や、クラッシュしたメモリーから回収した情報をもとに想定再生してやった99.9%正確なハナの複製体。ロボットや義体にかけては誰にも負けない自信があったので、そのままラボの倉庫にしまっておいたんだ。
それに、ニッパチのPCを移植してやった。
ピュ~~~~~~ン
小さな起動音をさせて筐体の、いや、ニッパチの目が開いた。
「あ…………あ………あ……手が……足が……指が……動く……瞬きできる……息が吸える…………空気おいしい……」
そこまで言うと、ニッパチの目が潤って、涙が目じりから流れて耳たぶのところで玉になった。
「起きていいですか?」
「あ、ああ、起こしてあげる。まだ未調整だからね……よっこいしょ」
「ありがとうございます、メグミさん」
「…………」
「メグミさん?」
「ああ、ごめん、ちょっと感動しちゃって(^^;)」
ボディーは完璧にオリジナルハナ。声もハナ。
でも、中身のソウルは、ただの作業機械のころから手塩にかけたニッパチ。
なんだか、ハナとニッパチの融合体で、ハンカチで涙をぬぐってやると、グッと迫ってくるものがある。
「さあ、お披露目を兼ねて外に出てみようか。服は、台の後ろに揃えてあるから」
「は、はい……」
作業台に腰かけたまま動こうとしない。
「どうしたの、どこか不具合でもあるの?」
「いいえ……あの…………」
最後まで言えず、思春期の少女のように胸を押さえて俯く。
「……その胸のこと?」
「はい、実は……」
「胸の情報、ストレージごと無くなってしまったのね」
「……はい」
パチパチたちは最後の改修をしたときに、胸にストレージを埋め込んだ。ストレージには島の金融情報と西之島戦争で戦死したロボット数万人分の情報が入っている。
イッパチとニッパチは本土に渡ってから、あいついで行方知れずになってしまった。おそらくは、何者かに捕えられ、情報を抜かれているとは思った。
金融情報は外部から接触されただけでクラッシュする。だけど、ロボットたちの情報はクラッシュの保険は掛けられなかった。ロボットたちが、これまで生きてきたロボ生の記録そのものだから。
「大丈夫よ、部分的には島のサーバーに残ってるし。それに、島を出ちゃったけどサンパチが残ってるしね。さ、心機一転、外に出てみよう!」
「は、はい」
二日ぶりにラボを出ると、抜けるような青空、その蒼空を背景に御山が生きている証のように煙を吐いた。
☆彡主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 第一師団曹長、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府書院番士 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 第一師団軍医、一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中だった
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
扶桑 徳子 道隆の御台所
扶桑 道興 玄武守、道隆の弟、二人の息子(道次・道忠)と娘がいる
本多 兵二(ほんだ へいじ) 書院番士小姓頭、彦と中学同窓
胡蝶 元小姓頭 将軍直属の隠密
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 東鈴(妻) 悟遼(息子)
テムジン モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人
森ノ宮茂仁王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン) 銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく) 元輸送船の船長 大統領秘書官
朱 元尚 少将 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 重要事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西之島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
御山 西之島の火山
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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