銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお

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377『56人の元部下たち』

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銀河太平記 

377『56人の元部下たち』 越萌マイ(児玉元帥) 




 奇妙なことに動きが止まった。


 西麻布・六本木の戦線は皇統会、菊水党ともに動きを止めた。

 もともと双方の輸送トラックが競い合って衝突爆発事故を起こしたのが原因で、本格的な戦闘を起こす気は無かった。

 無かったにしても、首都防衛に当たる近衛の二個師団、第一師団の半ばを無力化させている。岸波総理を最高指揮官とする軍の動きは支離滅裂で、軍は、その実力を発揮しきれていない。

『いやあ、やっと、一段落。これからは、菊水・皇統の双方とも話し合い、和解の道をさぐりたいと思います。とりあえず前線の部隊には戦闘停止を命じようと思います』

 松代の地下に籠った総理は、この僅かな局所的平安を持って、お得意の平和的解決を持ち出してきた。


「ご苦労さま、それで、各地の様子はどうなのかしら?」


 そう尋ねると、ぞうさん組の教室に集まった中高年たちは総理が映っているモニターから、こちらに体ごと向いてくれる。

「樺太のロシア軍が四個師団になりました」

「札幌の東に皇統会が中隊規模で散らばっていますが集結すれば師団規模になります」

「青森では、三沢基地を避けつつ、菊水党が移動しはじめ、岩手の皇統会と衝突、小規模な偶発戦が起こり始めています」

「秋田では奥羽本線沿いに菊水党が民間のトラックに偽装して横手方面に……」

「仙台では、菊水、皇統の二個大隊相当が南下……」

「宇都宮では軍が部隊ごとに警戒を強めていますが、積極的な動きは……」

 関東以北の者たちが順繰りに報告、続いて中部、東海、近畿と進む。

「名古屋方面は尊信殿下を擁した菊水党が優位に見えておりますが、肝心の尊信殿下が表に出られることが少なく、皇統会の力も侮れない状況です」

「関西方面では金剛山のOS基地を中心に活発に活動している様子ですが、一般民衆への浸透は遅れているように感じますが、これに関しては、大阪の仲間が……」

「大阪から捕捉します。民衆は一見平穏に見えますが、古来から楠公贔屓の気風のある土地ですので、事が起こると、菊水党優位かと……なお、軍の第四、第九師団は中央の姿勢が定まらないこともあって、士気が低下しているように見えます」

「広島方面は横須賀の輸送船爆沈事件をうけて……」「熊本の……」「鹿児島の空軍の動向について……」「沖縄、南西諸島方面から申しますと……」

 各地の中高年、元の部下たちが、あるものは現役の時のままの実直さで。あるものはメガネのレンズを拭きながら。またあるものは眩しそうに、懐かしそうに眼をしばたたかせて各地の状況を報告してくれる。

「閣下がご存命であることを知って、勇気百倍であります!」「奉天戦の昔に帰ったようです!」「あの時、PIされた時よりも感動しております!」「亡くなった戦友たちにも見せてやりたかったであります!」

 報告の後、みんな園児用の椅子に腰かけたまま、懐かしそうに声を上げる。

 実は、思うところがあって、全国に残っているかつての部下たちに連絡をとったのだ。

 自分は現役でないばかりでなく、義体の不具合で寿命を迎え、記念館に亡骸のボディーだけが保存されていることになっていた。かつての部下たちも、そう信じ。命日には大勢の部下たちが記念館を訪れてくれていた。

 その部下たちを、今回、この日暮里のヤマブキ幼稚園に集めた。

 150人ほど残った部下たちのうち、56名がやってきてくれて、いま、各地の状況を報告してもらった。微細にわたるものから、SNSで確認できる程度のものまで様々だが、報告者の熱がこもっている。適切な熱から前のめりなものまで、熱は様々だが、その様子と報告は貴重で、総合すると軍の諜報よりも確度が高い。もっとも、公式には死んでいるので、現役であろうはずもなく、軍の諜報など使うわけにはいかないのだが。

「諸君にはバラしたが、公的には児玉は死んだことになっている。わたしのことは、くれぐれも他言しないように頼む」

「「「「「「「はい」」」」」」」

「ひと月、あるいはふた月ほど君たちには助けてもらうことになる。第一は、このヤマブキ幼稚園の横の倉庫、じっさいは個人的な基地なんだが、そこで引き続き各地の諜報にあたってもらいたい。必要なら
各地に飛んでもらう。むろん、そこまでの諜報活動には馴染んでいないだろうから、諜報担当の班長を用意してある。班長、入ってくれ!」

 声をかけると、廊下とのドアが開いて新任命の班長が入ってくる。

「「「「「「「おお…………」」」」」」」

 思った通り、部下たちからどよめきが起こる。

「班長、みなに挨拶してやってくれ」

「ええ……たった今から諜報部門の班長をやる、ツナカンっス。よろしくっス!」

 声にこそ出さないが、部下たちは小気味いい裏切りに遭っている。

 黙っていればサブスクドラマのヒロインが務まりそうな美少女。じっさいは、宇宙海賊アルルカンの片腕副長のツナカンだ。そして、この夏までは、我がシマイルカンパニー北京営業所の有能な営業、きっと、部下たちの役に立ってくれる。

「そして、その事態にならないことを祈っているが、まんいち陛下に危険が迫る時、あるいは、陛下がご動座されるとににいたったときは、その警護にあたってもらいたい」

 空気がいっぺんに引き締まる。

「そのための統括班長を紹介する。入ってきてくれ!」

 ガラリ

「「「「「「「おお」」」」」」」

 二世代古い年式の軍服姿に、ふたたびどよめきの声があがった。



☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    第一師団曹長、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府書院番士 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)       第一師団軍医、一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中だった
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆              扶桑幕府将軍 
扶桑 徳子             道隆の御台所
扶桑 道興             玄武守、道隆の弟、二人の息子(道次・道忠)と娘がいる
本多 兵二(ほんだ へいじ)     書院番士小姓頭、彦と中学同窓
胡蝶                元小姓頭 将軍直属の隠密
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 東鈴(妻) 悟遼(息子)
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁王            心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)     銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       元輸送船の船長  大統領秘書官
朱 元尚 少将           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西之島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
御山       西之島の火山
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
     
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