銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお

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011『修学旅行・11・九段坂』

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銀河太平記

011『修学旅行・11・九段坂』   

 

 
 江戸時代は九段坂から海が見えたという。なんだかお伽話のようだ。

 
 その九段坂を見下ろす大鳥居の脇に立っていると、坂道の両脇が人の海のようになっている。

 東京から見ればド田舎と言っていい火星からやってきたので、人が大勢いるという状況そのものがお伽話のようだ。

「アキバの人出もすごかったけど、ここは、もっとすごいわね!」

「持ち物には気を付けろよ、もう追いかけっこはたくさんだからな」

「失礼ね、もう、あんなドジはしないわよ」

「わたしも注意してゆし、だいじょうぶなのよさ」

「陛下がご参拝になるんだ、警備も厳重だし、めったなことはないだろう」

「ヒコの言う通りよ、天皇陛下の車列に狼藉を働いた者は三百年前の虎ノ門事件以来ないわよ」

「ミク、虎の門事件なんて知ってんのか?」

「いちおうね、テルといっしょに調べてみたの、天皇や皇族方が参加される行事のセキュリテー記録。ほかの国家的行事にくらべて事件や事故は、すんごく少ないの」

「それは言えてるだろうな、扶桑でも将軍御隣席の行事関係では犯罪率が低くなる傾向がある」

「でも、ほんとに気を付けろよ」

「だいじょうぶ、いつもとは違うとこにしまってるし」

「腹にでも巻いてるのか?」

「へへ、胸の谷間よ」

「み、見せなくっていい!」

「わ、赤くなった」

「お、おちょくるな(-_-;)」

 俺たちは小学生のように興奮している。

 
 おれたち火星人と月人は大鳥居近くのスペースを与えられている。

 あ、火星人てのは一世紀前から移住した火星居留民のことだ。とっくに独立して、俺たち日本出身の者はアルカディア平原に扶桑政府を作っている。

 扶桑というのは昔の日本の美称だ。大東亜戦争の時代に戦艦扶桑というのがあった。国産初の超ド級戦艦で、進水式の時に扶桑と命名された。言ってみりゃ戦艦日本と呼ぶのと同じで、政府も海軍も国民も、それだけ大事大切に思ったってことだ。

 俺たちの先祖は火星に永住すると決めた時、自分たちのベースを扶桑と名付け、五十年前の独立で、扶桑を国名として受け継いだ。

 政体は立憲君主国で、元首は将軍(正式には征夷大将軍)だ。

 今上陛下の二代前から日本では女性天皇を立てようという動きが盛んだった。

 王位や皇統を巡っての争いは世の乱れの元になる。

 そこで男系継承なら皇位に付くであろうと言われてきた、その名も扶桑宮さまは、自分から望まれて火星開拓団の一員となられた。火星のベースが扶桑と名付けられたのは扶桑宮に由来……かどうかは、当の宮さまが否定なさって居られるので曖昧のままだ。

 扶桑政府樹立の時に、日本政府に働きかけて、宮さまは徳川慶喜以来廃止されていた征夷大将軍の宣下を受けられた。

 自ら火星開拓の先頭に立って扶桑国の求心力になろうとさるとともに、自分は日本の皇位継承者からは外れることを内外に示されたのだ。

 普段は意識しない扶桑のことをあれこれ思ってしまうのは、そういう歴史的配慮をした火星人への配慮が、鳥居横と言う特等席の用意に繋がっているのだと思ったからだろう。

 ウワーーー

 潮騒にも似た歓声が九段下の方から湧き上がってきた。

 いよいよ陛下の車列が見えてきたようだ……。

 

 ※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

 ※ 事項

扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

 

 
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